第2話 魔法を使ってみる
余裕でマナチャージに成功した俺は、意気揚々と次のステップに進むことにした。
実際に魔法を使ってみるのだ。
「んー、最初は炎を出すとかか?」
マ〇オのファイヤーボールをイメージしてみたけれど、出ない。
「何が悪いのかなぁ」
イメージは結構詳細だと思うんだが、絵を描くのよりも難しい。
最初から最後までを一連の流れとして、動きのイメージが必要だから。
「なるほど。だから皆、杖を使っているのか」
杖というか、箸みたいな棒を振り回している人をよく見るが、スタート位置を固定することでイメージしやすくしているのだろう。
「ただの棒じゃあつまらないな」
それに、俺のイメージはゲームだ。
魔法だけじゃない。
ゲームの技を出すもの……。
ぱっ、と俺の手の中にゲームのコントローラーが現れた。プロコンのような、握りやすくてボタンがいっぱい付いているやつ。
「そうか、ゲームの技を使うならコントローラーが一番だ」
自分では意識していなかったけれど、俺の無意識がコントローラーを連想したのだろう。
つまり、一番ナチュラルに思いつくものだから、いざと言う時にも咄嗟にイメージしやすいと思う。
「ファイヤーボールと言えばYボタンだな」
コントローラーにはボタンに何も書いていないけれど、ぽちっとボタンを押してみたら、とんとんと跳ねるあのファイヤーボールが現れた。
「おお! すげえ!!」
やはり、男の子としては自分で炎が出せるのは嬉しい。ウキウキで連打したら、自分のイメージそのままの炎が飛び回る。
出現位置は、普通のコントローラーで言うコードが繋がっている部分。
ここから送信するイメージがあるからなんだろうな。
なんて呑気に考えごとをしていたら。
「うわ、やべっ!」
普通に引火した。
そりゃあそうだ。俺がイメージしたのは普通の炎だから、森の中で出したら引火する。
「何か、水っぽい技……。そう、みずでっぽうだ!」
しかし、このイメージはゲームよりリアルの印象が強かったようで、子ども用の弱っちい水鉄砲くらいの威力しかない。
「よし、じゃあハイドロポンプ!」
今度はかなりデカめのイメージで、アニメやゲームに加えて消防車のホースも連想できたから、かなりの水量を出すことができた。
ビシャあ、と大量の水をぶちまけることに成功し、どうにか山火事になる前に消し止めることができた。
「よしよし、これで火属性と水属性がとりあえず出来たな」
ただ、問題が一つだけ。
ハイドロポンプを使ったら、さっき貯めた魔力が一気に持っていかれたのだ。
魔力と気合いが必要と言うだけあって、イメージだけではどうにもならないらしい。
「魔力切れに注意が必要だな」
普通の人がどうやって魔力を回復しているのか知らないが、俺はさっきと同様に座禅を組んで目を閉じる。
青っぽい魔力がぐんぐん俺に吸い込まれるのを想像すると、さっきよりも多くの魔力が体内に入って来るのが感じられた。
「やっぱり、できるだけ詳細にイメージするのが大事なんだな」
それは厨二病患者の俺にとって超得意分野だ。
《俺だけの必殺技》を日々考えていたんだから。
ただ、それはイメージとして固まりきっていない。
動きや温度、質感をリアルに想像出来るレベルではないのだ。
最も身近なゲームの3D CGが、一番簡単に想像出来るだろう。
「この調子で、思いつく技を出してみるか」
火、水と来たら次は風属性だろう。
「風は目に見えないからイメージが難しいな」
この世界の魔法は、そこにあるものを動かすとか、せいぜい小さい火を出すか小川みたいな緩やかな水を出すか、その程度だ。
自然に存在するものを自分で操れるだけ。
それは、目に見えないものを操る難しさがあるからなのだろう。
ゲームで様々な技を使ってきた俺でも、イメージに苦労するんだから。
「苦手なことは後回しで、雷でも出すか」
これは超カンタンだった。
理科実験で見たような雷が放たれる。
バチバチと音を立てて空中を走り、適当な所で消えていった。
「よしよし。しかし、もっとデカいのが欲しいな」
さっきから、想像しやすくするためにコントローラーから出しているけれど、イメージに困らないならコントローラーにこだわる必要はないだろう。
「じゃあ、雷落としてみるか」
空は晴天だが、ゲーム的には晴れていても雷は落ちる。
だけど、あんまり自分に近い所に落としたら、俺にまでダメージが来そうで怖い。
ああいう高威力な技は無差別範囲ダメージが入りそうだから。
バシィイイイ!!!
とんでもない音をたてて、俺より15mほど離れた所に雷が落ちた。
こっちの耳がヤラれるかと思ったぜ。
だが、これで高威力な攻撃技が出来た。
こんな威力が必要な敵には出来れば会いたくないけれど、命の危険が迫ることは少なそうだ。
そんなことを考えつつ、落ちた所へ行けばその周辺一帯が丸焦げになっていた。
「これはちょっとヤバいかもな」
ここは村の人々にとって、木の実やキノコ、薬草など様々なものを採取しに来るところだ。
あまり荒らすと怒られそうだし、俺の食べるキノコなんかが無くなっても困る。
「なんかこう、にょきにょきっと生えてこないかな」
ふわっとしたイメージだったが、映像を早送りするように、みるみるうちに元に戻っていった。
むしろ、俺が想像したのがこの森に生える有用な植物ばかりだったせいで、若干生態系がおかしくなった。
具体的に言うと、美味しいキノコが沢山生えてきたのだ。
「よし、今日はこれくらいにして、キノコ採って帰るか」
普通の人なら絶望するような『魔力ゼロ』のシチュエーションでも、俺の能力があれば余裕で生きていけそうだと分かった。
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