厨二ゲーマーは魔力ゼロのくせに大魔導師で英雄らしい。

ことりとりとん

第1話 魔力ゼロ




「君には、残念ながら魔力が全く無い。

これからの生活は大変だろうが、頑張ってくれ」



そう、絶望的な宣告を受けた直後、俺の意識は無くなった。







「ねぇ、ユウリ? ユウリ!」


誰かを呼ぶ声がする。

明るく快活な、女の子の声。


俺は、誰だ? ユウリ?



頭が、痛い。



「ユウリってばー! 起きて!」


「…………んぅ……?」


「あっ、ユウリ、どうしたの? 急に倒れちゃったから、本当に心配してるんだよ?」



ユウリ、それは、俺のことか……?





少し時間を置くと、頭痛も謎の違和感も無くなった。

だが、俺の中身がまるっと入れ替わってしまったかのようだった。



名前はユウリ、このラデツキー王国の片田舎の少年。それは変わらないけれど、常識とか記憶とか、そういうものが『ニホン』という国で若くして死んだ男のものになっていた。


それが良いことかどうかは分からないけれど、とにかく目の前の少女に返事をしなくては。



「ん……エルザ、大丈夫だよ」


「びっくりしたじゃない! 突然倒れちゃうんだもの! 朝ごはん、ちゃんと食べた?」


「食べたって。もう何ともないよ」


「良かったあ。いや、良くは無いんだけどね。

魔力が無いって判定されてたもん」



そう。

今日は、この国で13歳になったら全員が受ける魔力測定の日。

仕事をするなら絶対に魔力が必要になるこの国において、とても大切な日だった。



「無い、って言われたよな」



魔力がない、というのは俺の人生にとってかなり重い障害だ。

特に、せっかく魔法のある世界に転生したというのに何も出来ないのはとても辛い。

まあ実際にはそれよりも仕事に就けない方が大変だと思うけど。



「でもまあ、どうにかなるさ」


「ユウリは凄いね、いつだって前向きだもん」



関心したようにそう言うエルザは結構かわいい。

深緑のツインテールに、抜けるように白い肌。

未だ寝たままの俺を覗き込んでくるアメジストの瞳はぱっちりと大きい上にきらきらと輝いている。



「俺の心配してるより、エルザの順番が来るぞ」


「ほんとに大丈夫?」



測定に向かおうとするものの、後ろを心配そうに振り返るエルザを安心させるためにも、立ち上がる。

それでようやく納得してくれたようだった。




「おう、弱虫ユウリ。また倒れたのかあ?」


エルザが居なくなった途端に絡んでくるコイツは、ギラメル。

この辺りのガキ大将的な奴で、俺もよく絡まれている。


ただ、俺の精神年齢はコイツより遥かに上。

この手の人間は相手をすると益々絡んでくると知っているから徹底的に無視をする。


「なんだ? ユウリのクセに無視しやがるのか?

ま、しょーがねぇか。魔力ゼロなんて言われたら、お先真っ暗で倒れちまうよな!

そのまま起き上がれない方がよかったんじゃね? ガハハ!」


それでも無視していると、飽きたのかどこかへ行った。


「はぁ。しかし、どうするかなぁ」


この国では、魔力の量や質、属性によって就く仕事を決める。それが全くのゼロというのは、いじめっ子でなくても話題にして来るレベルの枷だった。


しかし、俺はこの世界のことしか知らない人間ではない。

前世の、日本での記憶も使えば、多少魔法を使えるよりもっと良いのでは無いか、と思いはじめていた。




「ユウリ、終わったよ!」


ぴょんぴょんと飛び跳ねるようなハイテンションでエルザが帰ってきた。


「あっ、ごめん……」


「ううん、気にしないで。エルザは、どうだったんだ?」


「あのね、レアな聖属性の適正があるんだって。今はちょっとだけど、これから伸ばせるかも、って」


「良かったじゃないか」


「うん、でも、えっと……」


エルザは、魔力ゼロと判定された俺にどう言えば傷つけないか、考えてくれている。

そういう優しい子だから。


「大丈夫だよ。でも、少し考える時間が欲しいんだ」


「うん、そうだよね」


エルザは困ったように笑って、俺に手を振ってくれる。

心配してくれているとは思うけれど、俺の考えを試してみるには一人の方が都合がいい。




とことこ歩いて来たのは、村外れの森。

実りを収穫に来ることもある身近な場所だけれど、あまり人通りの多い所でもないから、何かしても見つからないだろう。



まず、前提として、この世界の魔法は『魔力』と『気合い』で出来ている。

気合いって何だ、とは思うけれど、魔力をイメージとして形作ったものが魔法なのだ。


そして、この世界の人たちの想像力は結構貧困だった。

まあ当たり前と言えばそうかもしれない。

アニメもゲームも無いのに、必殺技を詳細にイメージする奴も居ないだろうし。


例えば、炎は知っているから作れるけれど、火の鳥はイメージ出来なさすぎて作れないわけだ。

だが、俺は違う。火の鳥どころか隕石でも降らせられるだろうし、ありとあらゆるゲームをプレイしてきた俺なら、どんな属性でも必殺技をイメージ出来る。



というか、『ゲームの技をそのまま使える』というのは俺にとって天国なのでは?



そうして『気合い』の方はカンタンにクリア出来そうなんだけど、問題は『魔力』だ。

さっきゼロだと判定されたばかりだからな。


しかし、俺には考えがある。

ズバリそのまま、自然の魔力を使うことだ。


アニメやゲームでよくある、大気のマナをチャージするアレ。


「よし、やってみるかぁ」


自分の中のイメージが大切、というこの世界の常識通り、一旦座禅っぽく座ってみる。そして、目を閉じて自分の周りの魔力が中に入ってくるのをイメージ、イメージ。


すると、何となく暖かいような謎のパワーが身体の中に満ちる気配があって、これが魔力なのだと分かった。


「あれ、この世界、ヌルゲーじゃね?」



魔力ゼロと判定されたけど、実は魔力無限だったみたいです。





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