第8話 鳳凰
「威力の高い炎技、何かないか……」
かまいたちを使ったことからも風属性らしいドラゴンにとって、火は弱点のようだ。
しかし、俺の炎技はファイヤーボールのみ。
その上肝心の魔力がもう残り少ない。
大きな火の玉を想像しようと頑張っているのに、目の前の状況に気を取られて集中出来ない。
「ギャオ、ギャオ、ギャオ!!」
飛んできた風の刃の三連撃に、索敵の力で何とか気づいて、転がって躱す。
「危ねぇえ!」
絶対に防御魔法を編み出す、と固く決意しつつも、そんなことに頭を使っているから炎がイメージ出来ないんだ。
「どうしよう、どうしよう」
何でも魔法を使えて、天才になったつもりだった。
だけど、それは何も起こっていない平常時の話で、戦闘ともなるとこんなにも何も出来ないのか。
炎をイメージするどころか、大きな炎を出すのに使う魔力を溜めることも不可能。
「いや、そんなことはないっ!!
出てこい、ココ!!!!」
以前遊んだ時のココはインコくらいの可愛らしいサイズだった。
だが、今は違う。
「ココーーー! コーーッ!」
夜の闇をはっきりと照らすほどに大きなココは、さながら鳳凰のよう。
全身に炎を纏った巨大なココが、甲高い鳴き声と共に反撃を始める。
「ココ、羽ばたけっ!」
ごう、と音を立てて翼をはためかせるだけで、強い熱風とそれに乗った火の粉が風のドラゴンを襲う。
「ギャス、ギャーーーー!!」
野生動物らしく、格の違いを肌で感じたドラゴンは、一目散に逃げようとする。
「ココ、逃がすな! 体当たりだ!」
「ココーーーー!」
夜の闇を切り裂くように、紅い鳳凰が舞う。
翠玉のドラゴン目掛けてまっすぐ翔ぶココは、戦場には相応しくないほどに美しかった。
「ココ、お疲れ様」
ドラゴンを焼き付くし、骨だけにしたココは意気揚々と帰ってきた。
肩に乗れる程度まで小さくなってちょこんと乗っかってきたココを優しく撫でてあげる。
「コ〜〜」
柔らかくひと声鳴いてから、コントローラーへと戻って行った。
「ユウリ! 大丈夫!?」
ドラゴンの鳴き声がしなくなったからだろう、村の人たちが広場へ戻ってきた。
「大丈夫だよ。怪我もしてないし」
「さっきの火の鳥は、ユウリが出したのかっ!?」
心配してくれているエルザを押しのけるように、兄がそう聞いてくる。
「うん、そうだよ」
「どうやって? お前は魔力ゼロなんだろう!?」
「………ううん、分からないんだ」
前世の事とか、説明しようと思えば出来る。
しかし、今そんなことを言えば絶対に頭がおかしくなったと思われるだろう。
「強くイメージしたら出来たのかな」
みんなが見ていたから、俺が倒したということは疑いようがない。
だから、手の内を晒してしまう必要もないだろう。
「何にせよ、ユウリのおかげでこの村は助かった! 本当にありがとう!」
ドラゴンにやられたのだろう、肩から血を流している村長が、大きな声でそう言った。
「いえ」
「ありがとう!」
「とっても綺麗な火の鳥だった!」
「助かって良かったあ……」
助かったと言う安心感で、皆口々に騒ぎはじめた。
「ありがとう、本当にありがとう!」
「王都の騎士が助けに来てくれやしないんだから、ここで死ぬしかないかと思ったよ」
「ドラゴンを、やっつけてくれて、ありがと!」
その輪の中心に居るのは少し気恥しい感じもしたが、自分が頑張った証だと思えた。
その夜はそれぞれに解散し、翌朝。
神託を届けるはずだった人は、神託の内容とドラゴン襲撃の顛末を両方持って旅立った。
超重要書類なので、最寄りの街まで行けば魔法を使って王都へ送ってくれるそうな。
あと、例のドラゴンの骨は素材として高く売れるらしい。
まだ買い取りをしてくれる冒険者ギルドへの連絡が回っていないから値段についてははっきり分からないが、一生分の稼ぎになるだろう、と言われた。
この国に冒険者ギルドがあるということ自体知らなかったけれど、魔物が出る地域には支部があるんだって。
素材自体は村長が責任を持って預かってくれた。
ドラゴンに直接襲われて余程命の危機を感じたらしく、俺に過剰なまでに感謝しているから滅多なことはしないだろう。
俺はというと、また前と同じような日常に戻りつつあった。
村では犠牲者が出てしまったし、家を壊された人も沢山いる。
だが、俺には直接の被害は無かったし、魔法の研究もしたい。
だから、前と同じように森へ籠る暮らしをしていた。
「絶対に必要なのは、防御魔法だな。
範囲を広げると魔力消費が激しくなるだろうから、なるべく狭く。
肌を覆うように、一枚防御壁があるイメージだな。
服は最悪無くなってもいいから」
薄く硬い、しかし動きを阻害しない鎧。
この世界の人にとっては難しいイメージだろうが、ご都合主義なアニメを見ていたらそんなものは沢山出てくる。
それらを統合したいい感じのものを想像したら、思ったより簡単に発動できた。
「魔力消費はあるけれど、まあ実際に使える範囲だろう。
毎日使って慣れた方がいいかもな」
ドラゴンに襲われて一時はどうなることかと思ったけれど、またのんびりと森に籠る日常が戻ってきた。
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