17話
「ユメさん、待たせたね。もうそろそろ出ようか?」
「はぁい」
僕はユメさんとのデートを早めに切り上げ、目的の場所へ向かって走ることに。
ちなみにサツキには、誘拐事件は自分がなんとかするから、密かにユメさんを守ってやってほしいと頼んでおいた。アオイさんがこういう状況なら、妹のことも心配になるだろうしね。
それから走り続けた結果、【神速】スキルに加え、マッピング効果もある【開眼】スキルのおかげで、僕は迷うこともなく第17地区の河川敷まで辿り着いた。
当たり前ではあるんだけど、この川は色んな地区へと続いてて、たまに余所者の死体が流れてくるなんてこともあるらしい。
「――ここ、だよな……」
到着して早々、僕は強い違和感を覚えていた。妙だ。
この辺りは釣り人やウォーキングをするおじさんら、人の姿を結構見かけるし、ここで拉致したアオイさんを殺すのはあまりにも目立ちすぎるように思えたんだ。大胆不敵としか言いようがない。
もしかしたら、誘拐犯は姿を晦ますスキルでも持ってるのかもしれない。でも、それなら探知効果もある【開眼】スキルの恰好の的だってことで、僕は橋の下に身を隠して周辺の様子を隈なく見渡し始めた。
あっ……今なんか動いたような。その方向を凝視すると、誰もいないはずのところに二人の人物が浮かんでくるのが見えた。
ビンゴだ。一人はとても辛そうな表情をしたアオイさんで、もう一人の男が顔も隠さずにふてぶてしい面構えで彼女を強引に引っ張っていた。こっちに近づいてくるし、この橋の下で殺すつもりか。
てかあの男、どこかで見たことがあると思ったら……第17支部に通うハンターの一人じゃないか。
あの人とはよくギルドで遭遇するので、すれ違うたびに軽く会釈くらいはしてたんだ。一見爽やかそうな好青年なのに、あいつが犯人だったのか……。怒りが込み上げてくるけど、まずはどんな能力があるのか【開眼】でスキルボードをチェックしておかないと。
名前:
ハンターランク:E★
所持スキル:(2)
Rスキル【同化】
Nスキル【腕力向上・小】
称号:《怖いお兄さん》
「…………」
《怖いお兄さん》という称号を見て、僕は色々と察した。裏表が激しいタイプだったのかな。一見いい人そうだけど実は……みたいな。スキルについても調べてみると、レアスキルの【同化】は自分や所持しているものを周囲の景色と同化させることができるんだとか。
なるほど、それがあるから、目撃した人は犯人を途中で見失ってしまったってわけだね。
誘拐犯が近づいてきたので、僕は気付かれないように素早く柱の後ろに回り込むことに。なるべく早く助けたほうがアオイさんに怖い思いをさせなくて済むけど、二人の話を聞いてからでも遅くはない。あの男がどうしてアオイさんをさらって殺害しようとするのか、その理由がわかるはず。
っと、会話し始めたので聞いてみよう。僕は一応、自分の影を【フェイク】で消して耳を傾けることに。
「いいか、女、よく聞け……。俺は腕力を向上させるスキルを持っている。だから、お前の細い首なんて片腕だけでもすぐにへし折れる」
「…………」
「おい、聞いてるのか!?」
「……ちゃんと聞いてます。もう、こんなことはおやめください……」
「ああ、やめてやるともさ! お前がちゃんと俺の言う通りにすればな」
「……何をすれば?」
この阿佐霧ってやつ、一体何をしようっていうんだろう? もしかして、アオイさんにエッチなことをするつもりか? でも、それならわざわざこんなところまで連れてくるとは思えないけど……。とりあえず僕は一旦セーブしてもう少し様子を見ることに。
「簡単なことだ。時田カケルってやつは知ってるだろう」
「……はい。知ってますけど……」
「…………」
え、まさかやつの口から僕の名前が出るなんて思わなかった。どういうことだ?
「やつがどんなスキルを持ってるか言え!」
「えっ……?」
「えっ、じゃねえ! やつはちょっと前までクソ雑魚ハンターだったはずが、今じゃソロでボスを狩るまでになった。これは、『青き森』でなんらかのレアスキルを取ったからだろう。それがなんなのか、どうやって取ったのかも今すぐ教えろ!」
なるほど。『虚無の館』で引きこもってた僕が急に強くなったのは『青き森』が関係しているはずで、その受付嬢であるアオイさんを拉致して、そこでどんなスキルを手に入れたのか聞き出す狙いだったのか。
「……知りません。というか、もし知ってたとしてもあなたなんかに言いたくありません……」
「しらばっくれるな! あの雑魚のカケルのことだ。もし強いスキルをゲットすれば、いの一番に受付嬢にアピールしてモテようとするはず! 僕はこのダンジョンでああやってレアスキルを取りましたってなあ。さあ、教えろ! さもなくばここで殺す!」
おいおい、どんだけ僕のことを見下してたんだよ、この男は。ユメさんのほうを拉致しようとしなかったのは、サツキの影がちらついてたからかもね。とにかく、もう我慢ならないってことで僕は男の背後に迫り、肩をトントンと軽く叩いてやった。
「なっ……!?」
誘拐犯が驚いた様子で振り返ってきた隙に、僕はアオイさんを抱えて今まで自分がいた場所に彼女を隠すと、男の目の前に立った。さすが【神速】スキル。ここまでのことをやって僅か1秒程度しかかからなかった。
「な、お、お前は、カケルだと……!?」
「やあ。ギルドでよく見かけたけど、まさかこんな悪いことをしてたなんてね」
「こいつ、あの女をどこにやった!? お前もやつと一緒に死にたいのか!」
「とにかく、かかってきてよ」
「こ……こんのやろおおおぉぉっ!」
男が顔を真っ赤にして殴りかかってきたけど、全然当たる気配がない。いくらパワーがあっても当たらなきゃ意味ないんだよなあ。
「……はぁ、はぁ……。や、やはり、レアスキル持ち、か……。う、うぬう――はっ……!?」
やつは周囲の景色と【同化】して逃げようとしたけど、予想していた僕は間合いを詰めると怒涛の下段蹴りで転ばせてやった。
「さぁ、お仕置きの時間だ」
「や……やめてくれえええぇぇっ! あががががががっ!?」
そのあとは、誘拐犯に馬乗りになった僕による、【神速】のフルボッコ祭りが開催されるのだった……。
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