18話
「いやぁ、時田翔氏。前回のストーカー事件に続き、今度は誘拐事件も解決してしまうとは、またしてもお手柄ですな!」
「ど、どうも……」
第17地区の警察署内、僕はアオイさんを誘拐犯から救ったってことで表彰されていた。警官って制服とか胸のバッジとか格好いいし頼りになるから嫌いじゃないんだけど、目つきが鋭いところがちょっと苦手なんだよね。まあ仕事柄しょうがないか。
「ハンターさんはそんなにお強いわけだし、ここまで犯人確保のために迅速に動いてもらえるのなら、もうダンジョンではなくいっそこちらで働いてもらうというのは?」
「い、いえいえ、僕はまだまだ未熟なんで……」
「まあそういわず。いつでもお待ちしておりますよ!」
ストーカー犯に続いて誘拐犯を警察に突き出した僕は、こうしてスカウトまでされてしまった。よく考えたら僕って警察より警察っぽいことをしてるんだな。でも、そういうのはハンターを引退してからでもいいと思うし?
さて、あとは僕がアオイさんを家まで安全に送り届けないと。
「アオイさん、行こうか。大丈夫?」
「……はい。大丈夫です。カケル様、助けていただいてありがとうございます。でも、これくらいで挫けていたら、受付嬢なんて到底できませんから……」
「へえ、アオイさんってタフだし、結構大変なんだね、受付嬢って」
「……ですよ。怖い方々からクレームもよく来ますので」
「そっか。普段からハンターを相手にしてるわけだしねえ。てか、今回は完全に僕のせいだ」
「……それは、どうしてです?」
「だって、あの阿佐霧って男は僕の変化に目をつけて、それでアオイさんが何か知ってると思って誘拐したんだ。僕が『虚無の館』にずっと引きこもってたら、多分こんなことにはならなかったよ……」
「そんなことはありません」
「アオイさん?」
アオイさんは立ち止まると、真剣な顔で僕を見上げてきた。強い表情っていうより、なんだか見てると引き込まれるような、そんな澄み切ったような面持ちなんだ。
「カケル様……あなたが私の受け持つ『青き森』ダンジョンに来たことは、私にとっても嬉しい出来事でした。人は誰でも幸せになる権利があります。なのに、それを放棄するのはおかしいです」
「アオイさん……」
僕が思ってたより、アオイさんは精神的に強くてよく喋る人だった。まあ彼女が青の人だって知ってるのもあって、そこまで驚きはなかったけど。
「……私がぺらぺらと喋るので、引いちゃいました? 実は、こう見えてお話するのは好きなんです」
「引かないって。話好きってことは、掲示板とかもよく見てたり?」
「……ですね。実は……青の人って、私なんですよ」
「え、ええぇっ!?」
驚く振りをしたつもりが、結構自然にびっくりしてしまった。というのも、アオイさんが自らそれを明かすとは思わなかったから。
「アオイさん、ハンターとしてダンジョンに潜ってたの?」
「いえ、あれは真っ赤な嘘です。受付嬢をしているのに、そんなことができる余裕はないですから」
「じゃあ、どうしてそんな嘘を? 宣伝目的とか?」
それについてはかなり気になっていて、いずれは本人に直接聞こうと思っていたことだ。さあ、アオイさんはなんて答えるかな。
「……それには、深い理由があるんです。私、受付嬢をやる前はハンターをやってて……」
「え、えぇっ?」
そりゃ意外だ。アオイさんがハンターをやってる姿は正直想像できない。
「あるとき、『青き森』で一人で狩りをしていたら大怪我をしちゃって、人も少ない時間帯だったのでもうダメかと思ってたら……偶然通りかかった一人のハンター様に助けていただき、命拾いしたんです……」
「そりゃよかった……」
「はい。でも、私はそのとき、極度の人間不信で、お礼さえも言えなくて……」
「えぇ? アオイさんが?」
「はい……。捨て子だった私は、孤児院でもいじめられて……いつかハンターとして色んなスキルを獲得して成り上がって、見返してやろうって思って……今思えば最低の人間でした」
「…………」
「助けてくれた人に、何度も大丈夫かって言ってもらったのに、私、返事さえしなかったんです。もういいです、ほっといてください、死なせてくださいって、そんな言葉を吐いて叱られました。どんなに辛いことがあっても、強く生きなきゃダメだよ、人は誰でも幸せになる権利があるって言って、入り口まで送ってくれて……それからのことはよく覚えてないんです。ただただうずくまって泣いていたような気がします」
「そんなことがあったんだ……」
「はい。私、名前も知らないその人に会ってあのときのお礼を言うために、『青き森』ダンジョンにずっと通ってたんですけど、会えなくて……」
「登録してるハンターの住所を調べたりとかは?」
「それが、住所を書かないハンター様も結構いるものでしたから。それで掲示板に具体的なことを書き込んだりもしましたけど、結局連絡つかずだったんです。それで受付嬢になって、ああいうことを毎日掲示板に書いていけば、いつか青の人として話題になって、『青き森』ダンジョンに興味を持ってまた来てくださるかもしれないと思って……」
「……それならもう、多分相手に伝わってるんじゃないかな」
「えぇ? どうしてわかるんですか?」
「アオイさんは以前のことを恥じて、毎日のように受付嬢をやってるから、その姿を見たらきっと、相手も成長したなって感じてると思うんだよ」
「……でも、それならどうして目の前に現れてくれないんでしょうか」
「アオイさんのことを思うからこそかもね。もし会ったら達成感で仕事を辞めちゃうかもしれないって思って、それで遠くから見守ってるんだよ」
「……そう、ですよねっ……。あの人ならそう考えそうな気がします。強く生きなきゃダメだよってまた叱られちゃいそうです」
アオイさんはそっと目元を拭うと、僕に向かって微笑んでくれた。これで一つ、踏ん切りがついたのかもしれない。
「でも、掲示板への書き込みはやめませんよ?」
「ええ?」
「青の人としては、一度だけですけどね。とうとうスキルを見つけたって書きます。【カケル様】っていうスキルを!」
「ちょっ、何それ……!?」
「私を守ってくれる効果があるそうです。もちろん、スキル名までは書きませよ……」
「は、ははっ……」
アオイさんって、結構ユニークな子なんだな……。
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