16話


【底辺専用】第17支部のダンジョンについて語るスレpart1433【荒らし厳禁】


 154:名無しのハンター


 俺たちのアオイさんが誘拐されたってマジ!?


 156:名無しのハンター


 >>154

 ガチのマジや・・・

 ワイ、手が震えとる・・・


 157:名無しのハンター


 >>154 

 ここまでの軽い流れ


 何分か前、公園近くでアオイさんが怪しいやつにつけられてるって書き込みがあった。


 んでそのあと見失って、通報を受けた職員から本人に連絡がいったけど、まったく反応がないらしいってことでお祭り状態。もうすぐ速報ニュースも出るはず。


 159:名無しのハンター


 >>156-157

 情報サンクス!

 めっちゃ心配だな、アオイさん。。。無事でいてくれ。。。


 160:名無しのハンター


 誘拐犯の強さや人数にもよるが

 低級ハンターと同程度の警察じゃ対処が難しいかもな

 一般人を巻き込んでしまうくらいなら静観する可能性さえある


 161:名無しのハンター


 >>160

 今は17地区の警察署にも、そこそこ強い元ハンターが配属されたって聞いたけどね。ハンターギルドとは元々協力関係にあるし、警察としてのメンツもあるしで、受付嬢が誘拐された事件だから全力で行くでしょ。


 162:名無しのハンター


 もしや、おまいらの仕業か!?さっさと白状しるッ!

 アオイたん、今頃奴隷にされてないか心配すぐる

 嗚呼ッ、吾輩が地下室で飼ってやりたい人生だった、、、


 164:名無しのハンター


 >>162

 意外とあんたみたいに、こんなときでも冷静にそういう不謹慎なこと書き込めるやつが犯人だったりしてなあ。


 165:名無しのハンター


 >>164

 正義マンのお前も意外と犯人かもなw


「…………」


 衝撃が大きすぎると声すらも出ないって本当なんだな。僕がユメさんとデートを楽しんでる間に、まさかこんな事件が起きてたなんて……。


 しかも、それが書き込まれた時刻を見てみると約30分前の出来事だった。ニュースにもなってて、第17支部ダンジョンの受付嬢が何者かに拉致されたという記事が出ていた。


 って、それについて新しいニュースが来てると思ってすぐに確認したら……アオイさん――葉月葵はづきあおい――が、本日午前9時頃に第17地区の河川敷にて、遺体で発見されましたって……。


「くっ……一足遅かったか……」


 サツキもそのニュースを覗き込んできて、無念そうに項垂れる。きっと、彼女は掲示板を見て、アオイさんが何者かにさらわれた事実をなんとか僕に知らせようと思って頑張ってたんだろうね。


 それなのに、こんな悲しすぎる結果になるなんて。気付いてやれなかったことが悔しい……って、そうだ。僕には【セーブ&ロード】スキルがあるし、しかもアオイさんの遺体が発見された場所も判明してるので、ロードしてセーブした時点に戻り、この第17地区にある河川敷へ先回りすればいいだけだ。


「この書き込みがあったあと、私はアオイがいそうな場所を手あたり次第に【瞬間移動】スキルで探ってみたんだが、もう連れ去られたあとではどうしようもなかった……」


「なるほどね。それで僕に頼ってきたってわけか」


「……そうだ。カケルは私を倒した唯一の男だし、【鑑定】スキルもないのに私のスキルを調べられるしで、なんか得体のしれない力を持ってる気がして」


「あははっ……。まあ実際、その通りなんだけどね。ちゃんと戻れるから大丈夫!」


「え、戻れるって、どこに……?」


 サツキが不思議そうにまばたきするのもわかる。【フェイク】でスキルボードを弄ってるから、【鑑定】を持ってる彼女でも僕が【セーブ&ロード】を持ってるってことを知らないんだ。


「それはね、秘密の場所だよ」


「秘密の場所……?」


「そうそう。とっておきの場所さ」


 僕はサツキに悪戯な笑みを浮かべるとともに、ロードすることに。すると、景色が屋外からガラッと変わって、そこはコーヒーやスイーツの香りが漂う屋内で、少し前に別れたはずのユメさんが向かいの席にちょこんと座っていた。


 つまり、今から30分くらい前の、僕らが喫茶店にいた頃に戻ったんだ。隣にはサングラスとマスク姿の怪しい少女――変装したサツキもいて、相変わらず僕に気づいてもらおうと懸命にアピールしていた。


「ユメさん、起きてる?」


「……ふわぁい? ちゃんと起きてますよ~」


 ……多分、目を開けたままちょっと眠りかけてたな。


「ちょっとトイレ行くね」


「わかりましたあ」


 こうすればユメさんに違和感を持たれる心配がなく、サツキと話をする機会もできるってことで、僕はまずセーブして店内のトイレへと向かう。すると、すぐに彼女が後ろから追いかけてくるのがわかった。


 本音としては今すぐアオイさんを助けにいきたいところだけど、今の時点で何も知らないはずなのに救出に向かうのは不自然だしね。ユメさんやサツキをここに置いてけぼりにするわけにもいかないし。


「――カケル、私だっ! これを……これを見てくれ!」


 トイレに入った途端、サツキが端末を掲げながら駆け寄ってきた。


「あぁ、わかってるよ」


「え、わかってる……?」


「あ……い、いや、サツキが変装してアピールしてきたもんだから、なんとなく事件が起きたんじゃないかなって気がして。それでこうしてトイレに来たんだよ。ユメさんと一緒にいるままだったら話しかけ辛いだろうし」


「な、なるほど……」


 思わずわかってる、なんて口走ってしまったけど、これで上手くごまかせたみたいだ。


「カケルって、ノースキルなのに本当に勘の鋭いタイプなんだな……」


「そ、そうなんだよ。なんとなく先のことがわかっちゃう、みたいな?」


「うぬぅ。だから私はあのとき、無様に負けてしまったのだな。カケルの、レアスキル並みの察知能力に……」


「…………」


 まあ、そういうことにしておこう。もし【セーブ&ロード】なんていう激レアスキルを持ってることがバレちゃうと、悪いことをしてないのに密かにしてるんじゃないかって疑いの目を向けられる可能性もあるしね。


 とにかく、何者かに誘拐されてしまったアオイさんを早く助けにいかなきゃ。

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