9話
名前:時田翔
ハンターランク:F★
所持スキル:(5)
LRスキル【セーブ&ロード】
URスキル【開眼】【殲滅】
SSRスキル【神速】
SRスキル【フェイク】
称号:《一匹狼》
「……うわっ……」
あくる日の朝のこと、ベッド上で自分のスキルボードを確認すると、うっとりするような激レアスキルの羅列があった。やっぱり、夢なんかじゃなかったんだ。昨晩の出来事は。
それに加えて、小ボスが出現しちゃうほどウルフを倒しまくったもんだから、魔石を18個もゲットできたしホクホクだ。
さらに、称号も《ひきこうもりハンター》という汚名に近いものから《一匹狼》に変わっていた。これは自分では決めることができないんだ。ってことは、例の場所で話題になってるのかもしれないってことで掲示板を覗いてみることにした。
【底辺専用】第17支部のダンジョンについて語るスレpart1432【荒らし厳禁】
670:名無しのハンター
あの雑魚のカケルが、『青き森』ダンジョンでボス狩りしてたってマジ?
ありえねー……。
672:名無しのハンター
それもソロでだろ。そんなんありえるか?
F級ハンターみたいな雑魚ならパーティーでボス狩りするのが普通だろうに。
675:名無しのハンター
てかボスが出てるってことは、それだけウルフを大量に狩ったんだろ。実はカケルって、雑魚に見せかけて雑魚じゃないんじゃ?
あいつがぼっちなのもさ、群れる必要がないくらい強いからで、あえて群れない一匹狼タイプだったんだよ!
676:名無しのハンター
>>675
カケルさん超カッケーっす
678:名無しのハンター
>>675
カケル氏、自画自賛乙です。
679:名無しのハンター
>>675
一匹狼のカケルさん素敵だわ~。抱いて♥
「……おいおい……」
なんか675が僕本人みたいな流れになってて複雑だけど、まあいっか。これで《ひきこうもりハンター》なんていう不名誉な称号も消えてなくなったわけだし。
ちなみに、ソロハンターっていうのは一人前のハンターともいわれていて、よっぽど実力がないとやるのは厳しいといわれてるんだ。そりゃ単独でダンジョンに籠もるんだから当然として、悪い連中に狙われやすいっていうのもある。
動画配信自体、防犯のためなんだけど、有名なソロハンターを狩って売名したいって思うようなろくでなしのハンターもたまにいるんだ。視聴者が増えれば増えるほどお金だって貰えるわけだしね。
僕の場合、登録者が0に近いのもあって一か月30円程度で、悪い意味で有名ってことで狩りの対象じゃなかったみたいだけど。
有名税ってやつで、名前が知られれば知られるほど狩りの対象、すなわち賞金首になる確率も上がるんだそうだ。そのハンターが良いやつか悪いやつかなんて関係なく。
もちろん、有名なハンターほど強くて賞金も多くなるので、返り討ちに遭うリスクも跳ね上がるんだけどね。僕の場合、【フェイク】で情報を隠してることもあって、まだその対象にはなってないはずだけど、そのうち配信するうちに上級者に何かおかしいって勘付かれる可能性もあるし、今のうちにどんどん激レアスキルを獲得してもっと強くならないと。
っと、魔石もゲットしたことだしハンターギルドへ行くかってことで、早速向かう。うわ、はやっ!【神速】スキルを意識して急ごうとしたら、ほぼ一瞬で到着することができた。スピードアップ系の中で一番序列が高いスキルなだけあって凄い性能だ。
「――どうも、アオイさん。これ、『青き森』で獲得した魔石ね」
着いて早々、僕は受付嬢のアオイさんに魔石を18個渡すと、しばらくして彼女が無言でマネーボードを返してきた。うんうん、ちゃんとお金がたっぷり入ってる。凄い。21960円も増えた。へへっ、今日もご馳走にありつけそうだなあ。
「……見ました」
「え?」
「……動画」
「あっ……!」
アオイさんにボソッと話しかけられたので何かと思ったら、彼女も見てくれてたのか。なんせ寡黙な子だから、見ててもコメントしそうにないしな。もしやと思ってイベントボードを見ると、僕の動画登録者が一人だったのが十人になっていたので思わず二度見してしまった。自分の中じゃ激増といってもいい変わりようだ。
「も、もしかして、アオイさんも登録してくれたのかな?」
「…………」
僕の質問に対し、コクコクと無表情でうなずくアオイさん。なんだか小動物みたいで可愛い。
そうだ、普段から無口な彼女であれば、スキルを獲得したことを打ち明けても黙ってくれるかもしれない。それなら彼女の給料も上がるし、僕のことをより一層リスペクトしてくれるだろうしでいいことしかない。よーし、一応この時点でセーブして伝えてみるか。
「あの、アオイさん」
「…………?」
「実は――」
「――えっ……?」
耳打ちでスキルのことを告白した途端、アオイさんの様子がおかしくなった。異様に落ち着きがなくなったというか。
「……ご、ご、ご冗談を……」
「本当だよ。これ見て」
僕は証明するためにアオイさんにスキルボードを見せてやった。これはパーソナルボードの代わりにもなるものだけど、自分のスキルを公開してしまうものだけに、こうして堂々と見せる人は少ないらしい。さて、どんな反応を見せてくれることやら……。
「……あ、あ、あの『青き森』から、こんな……凄いもの、が……」
「ア、アオイさん……!?」
アオイさんが見る見る青ざめていったかと思うと、卒倒しそうになるのがわかったので慌ててカウンターの内側に飛び込んで受け止める。その反動で彼女の下着が丸見えになってしまった。お、青色じゃなくて水色なんだ……って、こんな状況で何考えてるんだか。
「「「「「ザワッ……!」」」」」
僕のスキルについて、彼女はユメさんみたいに大声で叫ばなかったから周囲にバレなかったけど、いきなり倒れちゃったもんだから別の意味で騒ぎになってる。
「お、おい、アオイさんが倒れたみたいだぞ!」
「どうした、何があった!?」
「…………」
こりゃまずい。僕がアオイさんに何かしたんじゃないかみたいな空気になる可能性もあるし、ギルドの騒々しさが極まってきたところでロードすることに。念のためにセーブしてて本当によかったあ。
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