8話


 名前:ダークウルフ(小ボス)

 モンスターランク:C

 特殊能力:(1)

《八つ裂き》


 うわ……。【開眼】スキルで調べたら、やっぱりボスだった。


 ボスはボスでも小ボスだけど、それでもCランクだからかなり手強いはず。特殊能力の《八つ裂き》もついでに調べてみると、これを使用された時点でダークウルフの目の前にいる獲物は文字通り八つ裂きになって即死するらしい。こわっ。


『現在、このダンジョンではURスキルが習得できる状態です』


 お、そんなメッセージが流れてきた。小ボスが登場したことで、URスキルの【開眼】と同等の激レアスキルを習得できるようになったらしい。一体どうやって手に入るんだろう?


『ボスモンスター、ダークウルフの特殊能力を使って敵を倒すことで習得できます』


 なるほど。それってつまり、ボスの目の前にウルフを誘導する形にして、なおかつ特殊能力の《八つ裂き》を使わせればいいってわけか。


 ただでさえ、僕は【フェイク】を使って自分の動きをごまかしながらも、俊敏なノーマルウルフに何度も捕まり、【セーブ&ロード】を駆使することでようやく一分間避け続けることができたわけで、それをボスの前に誘導するとなると不可能に近いような条件に見える。


 しかもこの『青き森』はただでさえ鬱蒼とした木々に囲まれて障害物も多くてツタや根っこ等で足を取られやすいからな。マッピング効果のある【開眼】スキルのおかげでなんとかなってるけど。


 それでも今は【神速】スキルがあるし、タイミングさえ噛み合えば普通にいけそうだなってことで、チャレンジする前にとりあえずセーブすることに。


 あ、そうだ。死んでも大丈夫なんだし、試しにその場を動かないで《八つ裂き》を食らってみよう。僕ってマゾなのかな?


『グルルルルルァッ!』


「はっ……」


 咆哮とともにボスが飛び掛かってきて、その瞬間目の前が真っ暗になり、気付けばダークウルフが離れた状態に戻っていた。


 ってことは、僕はボスの特殊能力で殺されてしまい、セーブした時点に戻ったってわけだ。あの図体でやたらと俊敏なのも驚いたけど、何よりびっくりしたのが《八つ裂き》の威力だ。さすがはボス……。


 まあでも今のはこっちがわざと食らってやっただけだし、仮に大きなミスをやらかして《八つ裂き》を食らったとしても、【セーブ&ロード】で何回もセーブした時点からやり直せるので気は楽だ。


 とりあえず、このままだとダークウルフにまた飛び掛かられるので、僕は後退りして後ろの障害物を気にしながら徐々に距離を取りつつ、ノーマルウルフに向かって徐々に近づいていく。こっちが気付いてない振りをして油断させ、襲わせる作戦だ。


『『――グルルルルルァッ!』』


 寸前まで僕がいた場所に、ちょうどボスとウルフが吠えながらやってきて鉢合わせする格好になった。既にそのときには僕は【神速】で大きく離れていて、大きさが全然違う二匹のモンスターを遠くから眺めてる状態だ。


 その瞬間、僕に使うはずだった《八つ裂き》がフォレストウルフに使用され、普通のウルフはバラバラになって消えていった。よし、スキルボックスが落ちたってことで素早く回収するとともに開封した。


『URスキル【殲滅】を獲得しました』


 せ、【殲滅】スキルだって!? なんか文字だけでもめっちゃ強そう。効果も知りたいな。


『半径一メートル以内にいる敵を全て瞬殺することが可能になります』


 ヒエッ……。範囲系で、しかも瞬殺かよ。一メートル以内だから決して広くないとはいえ、こりゃ凄い。さすがはURスキルなだけあって、強すぎるんじゃないかとすら思える効果だ。


 というか、小ボス関連で最上位レアに準ずるスキルが出るんなら、知られてないだけでLRスキルよりもレアなスキルがあるのかもしれないな。


『――グルルルルルァッ!』


「ちょっ……!?」


 そんなことをぼんやりと考えてたら、いつの間にか近くまで来ていたボスのダークウルフに飛び掛かられて、間一髪のところで横に回避した。おいおい……ボスと戦ってるときに違うことを考えるハンターって、どんだけ猛者なんだよ。


 もう死んだかと思ったけど、目の前にいなければ《八つ裂き》は食らわないみたいだ。そういうわけでセーブして、やつが振り返ってくる前に素早く距離を取ることに。


 ははっ……見る見る僕が遠く離れていったせいか、ボスのやつなんだか悔しそうだ。


 ん、イベントボードにコメントが来てるぞ。それも複数。どうやら誰かが僕の動画配信を見に来たらしい。


『動画やってるのここだけだから、暇潰しに見にきてやったわ』


『こいつって、例の《ひきこうもりハンター》じゃん。なんで『青き森』ダンジョンにいるん?』


『シラネ。『虚無の館』ダンジョンでのひきこもり生活から脱出しようって思ったんだろw』


 なんていうかネガティブな臭いのするコメントばかりだけど、見に来てくれたこと自体僕にとっては大きな進歩なので気にしない。それに、今は小ボスと戦ってる真っ最中だし、少しは目の前のことに集中しないとね。


『てかこいつ、動きとかめっちゃ良くね?』


『逃げるのが上手いだけじゃ?』


『てか、何このモンスター? 俺初めて見たわ』


『マジだ。てか、これってボスじゃね……!?』


「…………」


 段々とコメントの内容が変化するのを楽しみつつ、僕は小ボスのダークウルフを翻弄するまでになってきた。今では余所見しても余裕でかわせるし攻撃だってできる。これぞURスキル【開眼】の賜物で、早くもコツを掴んだんだろうね。


 さて、そろそろ例のスキルを試してみるとしようか。


『グルルルルァッ!』


 やつが猛然と飛び掛かってきたタイミングで、軽々と横にかわすとともに【殲滅】を使う。一メートル以内のはず。


『グガアアアアアァッ!』


 するとダークウルフが横倒しになり、またたく間に消えてしまった。小ボスとはいえ、たった一発で倒せるなんて思わなかった。これがURスキル【殲滅】の威力なのか……。


『スゲー、一人でボスを倒しやがった!』


『時田翔だっけ? こいつ、マジでやばくね!?』


『え、確かこいつ、ノースキルでしかもF級ハンターだったろ。なんでこんなにつええの!?』


「ははっ……」


 コメントの内容が変わりすぎて思わず苦笑いしてしまった。もちろん、この動画を見ている彼らには、僕がボスを倒したことだけしかわからないから問題ない。


 しかも、それを掲示板でリークしたところで、深夜ということも相俟って夢でも見てたんだろうと笑われるだけじゃないかな。調べに来られたとしても、【フェイク】でステータス情報もごまかしてるから平気だしね。


『――あ、あわわ……。こ、これって、カケルさんの動画ですよね……?』


 お、いつもの匿名さんのコメントが来た。なんだか困惑してるみたいだけど、なんでだろう?


「匿名さん、よく来たね。もちろん僕の動画だよ!」


『……そんなの、信じられません。眠れなかったから寝るために見にきたんですけど……どうやら私、もう夢の中にいるみたいですね……』


「えぇ……?」


 あ、そりゃそうか。ボスと戦ってる上にここは『虚無の舘』じゃなくて『青き森』だし、全然退屈じゃない僕の配信を見たんだから、絶対夢だと思っちゃうよな……。

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