7話


 あれから僕は『青き森』ダンジョンの入り口までやってきた。


 もちろん何が起きるかわからないので、【セーブ&ロード】を使用し、いつでもロードでやり直せるようにセーブしておく。


 これまで怪しい人物には遭遇しなかったし、周囲を探る効果もある【開眼】スキルでもわからなかったので、誰かにステータスを調べられるなんてことはなかったはず。一応掲示板も覗いたけど無風だった。


 ちなみに、ここはそのダンジョン名から誤解されやすいけど、『虚無の館』みたいに郊外にあるわけじゃなく、都市の中心部に位置している。


 ほかのハンターが配信してるのを何度か見たことがあるだけで、ここに来るのはもちろん初めてだ。


 見た目はとてもシンプルではあるものの、中はまるで外の世界のように暗い森と空が存在し、永遠に夜が明けることなく常に月光が見下ろしているっていう構造で、同じような景色が続くのでかなり迷いやすいみたいだ。


 さあ、早速【開眼】を使って、このダンジョンに現在どんなスキルが眠ってるのか調べてみるとしようか。


『このダンジョンでは、現在SRスキルが獲得できます。習得方法は、どれでもいいので一本の木の周りを24回、反時計回りにゆっくりと回ることです』


「ははっ……」


 思わず笑い声が飛び出してしまうほど、覚え方はいたってシンプルなものだった。


 でも、いざこれをやろうという発想は普通起きないわけで、もしかしたら【開眼】の隠し効果でもなんでもなく、これが正当なスキルの習得方法なのかもしれない。むしろ、ノーマルスキルやレアスキルは省いて激レアスキルの取り方だけを教えてくれてるのかもしれないな。


 掲示板でも有名な、このダンジョン常連の青の人もスキルを覚えるために色んなことを試しただろうけど、木の周りを回るにしても多くて十回とかだろうしなあ。


 僕の場合も、一時は『虚無の舘』で色々試したけどダメだったのもあって、いつの間にかダラダラ狩るだけになってしまった。結果的にはそれが功を奏したわけだけど。


 早速、入口近くにある木の周りを24回ゆっくり回ってみたところ、透明な箱――スキルボックスが落ちてきた。よーし! すぐに拾って開封することに。


『SRスキル【フェイク】を獲得しました』


【フェイク】だって。どんな効果だろう?


『効果は、自分についての情報を改竄でき、鑑定系のスキルを使ってきた相手の目を欺くことができます』


 へー。これって、今の自分が求めてたスキルじゃないか。よーし、それじゃ【鑑定】されたときのために、スキルボードに【フェイク】を使用してやろう。


 名前:時田翔

 ハンターランク:F★

 所持スキル:無し

 称号:《ひきこうもりハンター》


 所持スキルを初期値の『無し』に戻してやった。ハンターランクについてはこのままでも別に警戒はされないだろうってことで、現時点では手をつけない。あんまり変化がないようだと逆に怪しまれる危険性もあるし。


「……ふあ……」


 夜も遅いってことで、もうさすがに眠いし帰ろうかと思ったけど、どうせなら手土産として魔石が欲しいのでモンスターを狩ることに。


『グルル……』


 それからまもなく、探知効果もある【開眼】スキルのおかげですぐに見つけることができた。青白い体毛を持つウルフで、二メートルほど先から現れたかと思うと、僕に向かって牙を剥きつつ少しずつ迫ってきていた。よーし、一応セーブして戦うかな……っと、その前にステータスを調べてみよう。


 名前:フォレストウルフ

 モンスターランク:E

 特殊能力:(1)

《遠吠え》


 ランクEか。それならコウモリより魔石のドロップ率はいいわけだね。【開眼】によると、特殊能力の《遠吠え》は仲間を呼ぶ効果らしい。


『このダンジョンでは、現在SSRスキルが獲得できます』


 ん? 急にそんなメッセージが流れてきた。ってことは、ウルフが出現したことでスキルを習得できる条件が整ったからなんだろうか。


『SSRスキルの習得方法は、ウルフから一分間一切接触されず、逃げ続けることです』


 おおお、たったそれだけでいいなんて簡単すぎる。ってなわけで、僕はセーブしたのちウルフから逃げることに。失敗したらロードすればいいだけだから気は楽だ。


「ふう……」


 ウルフが思ったよりずっと素早いので苦労したものの、それでもなんとかセーブとロードを繰り返して一分間逃げ続けることに成功し、遂に念願のスキルボックスをゲットした。さあ、どんなスキルなんだろう? ワクワク……。


『【神速】スキルを獲得しました』


 おおぉっ、これは素晴らしい! 確かこれ、素早さが上がるスキルの中で最高位のものじゃないか。スキルをゲットした途端、目に見えて素早くなってるのがわかるし、未だに追ってきていたウルフを軽々と撒くことに成功した。


 このスキルを意識して歩くだけで、全力で走ってるような感じになるんだ。それだけじゃなく、剣を振るときだってシュパパッと目に見えない速度で風を切る感じ。便利だなあ、これ。観客がいないのはちょっと寂しいけど、まだまだ弱い現状だと却って好都合だ。


『ウオーン……!』


 おや、遠ざかったウルフが《遠吠え》で仲間を呼び始めた。そろそろ帰ろうかと思ったけど、仲間が複数いる状況を作り出すことで新たなスキルの習得条件に繋がるかもしれないので、とりあえずセーブしてこのまま傍観することにした。


『『『『『――ギャンッ!』』』』』


 複数のウルフたちに対し、僕は手に入れたばかりのSSRスキル【神速】の効果も相俟って難なく倒せるようになった。もちろん少しだけ残して、特殊能力の《遠吠え》を使わせる。こうすればわざわざ探さなくても向こうからどんどんこっちへやって来るので便利だ。


 新スキルのおかげで以前より格段に素早くなったのもそうだし、コウモリと違って魔石が目に見えてドロップしやすいので戦ってて楽しい。


 新スキルの習得条件はイベントボードに出てこなかったけど、それがどうでもよくなるくらい、僕は夢中で狼たちを倒し続けていた。ふう。僕ってやつは、まさに戦闘狂だ。


『――グルルルルァ……』


「…………」


 なんだ? いつもと違うような重低音の鳴き声がしたと思ったら、見上げるようなビッグサイズの黒いウルフがこっちへ迫ってきた。


 おいおい、まさかのボス登場かよ? ってことは、それだけ数多くウルフを倒したってことか……。

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