6話
「――もう朝か。ふわあぁー……」
目が覚めて早々、僕の口からやたらと大きな欠伸が飛び出した。
夜遅くまで考え事をしてて中々眠れなかったんだけど、いつの間にか少しは寝ることができたみたいだ。
というのも、【開眼】と【セーブ&ロード】っていう超激レアスキルを二つも獲得して興奮したっていうのもあるし、掲示板の例のやつに住所を知られてるという事実が恐ろしくて、床に入ってもあれこれと色んな考えが過って目が冴えてしまったってわけ。
もしかして、ユメさんに片思いしてる子なのかな……? なんせ、付き合ってるっていう僕の嘘の書き込みに対して即座に反応してきたし、その可能性も大いに考えられる。
よくよく考えたら、僕は『虚無の館』ダンジョンの常連なわけで、そこの専用受付嬢のユメさんに対して激しい好意を抱いている人がいたなら当然、誰かがストーカーした等、何かあったときにいつでも襲えるように住所は控えてるか。
【瞬間移動】スキルがあるなんてゲロってたし、いつの間にか僕の部屋に侵入していた可能性は高いように思う。
ただ、普通にユメさんと接するくらいなら大丈夫じゃないかな。それで仲が良くなったとしても、さすがにストーカー認定まではしてこないだろうし。それに相手は只者じゃないと思える一方で、【開眼】スキルさえあれば普通に対処できると感じた。
さて、と。『虚無の館』へ行く前に軽く朝飯にするか。隠し部屋に亜種の赤黒コウモリがいっぱいいるのがわかったし、あれを一日一回殲滅していけばいずれは小ボスにも出会えそうだ。なんせ特殊能力もない弱いモンスターだし、かなりの数をこなさなきゃいけないんだろうけどね。
モンスターの生息数が少ないダンジョンって、そもそもボス自体も存在しないっていう風な言い方をされるのでランクも低くなりがちだけど、隠し部屋にあれだけいるってわかった上に、激レアスキルもあったわけで、ボスがいる確率は高そうだ。
そうなると、いずれは大ボスを倒してダンジョン攻略も夢じゃなくなる。最初にあの『虚無の館』を攻略するのは絶対に僕だ。誰にも譲りたくはない。
「…………」
食事も着替えも終わり、まさにこれから強い決意とともに『虚無の館』へと出かけようとしたときだった。妙な胸騒ぎを感じた僕は、一応いつもの掲示板を覗いてみることに。
ん、やたらとスレッドが伸びてるな。また誰かに荒らされたんだろうか?
【底辺専用】第17支部のダンジョンについて語るスレpart1431【荒らし厳禁】
892:名無しのハンター
しっかし、まさか、《ひきこうもりハンター》のカケルがLRスキルとURスキルを持ってるなんてなあ。てか、どうやって調べたんだ?
894:名無しのハンター
>>892
【鑑定】スキルに決まってる。私はやつの住所を知ってたから、深夜忍び込んで調べてみたってわけだ。
896:名無しのハンター
>>894
てか、まだ信じられん。大体あんな雑魚ハンターを調べようなんて思ったんだよ?
897:名無しのハンター
>>896
受付嬢のユメに魔石を5つも渡してるのを目撃したからな。『虚無の館』は棲息しているコウモリの数自体少ないのに、一日でそんなに取るなんておかしいって思うだろ?
だから、何か有用なスキルでも隠し持ってるんじゃないかって思って、密かに調べたんだ。ギルドで相手のステータスを調べようにも、ある程度近付かなきゃいかんからな。
899:名無しのハンター
>>897
なるほど! 教えてくれてどうもありがとう!
「…………」
僕の胸騒ぎは的中してしまっていた。多分というか間違いなくこいつ、昨日僕の部屋に来たやつだ……。
【瞬間移動】スキルに加えて、【鑑定】スキルまで持ってるんだな。ってことは、深夜に僕の部屋に【瞬間移動】して、ステータスを【鑑定】したってわけか。でも、僕がユメさんを口説いてるわけじゃないので暴力行為まではしなかった、と。
スレッドでは、『虚無の館』でこれからお祭りが始まると騒いでいた。そうはさせるかってことで、就寝する直前にセーブしてたからロードしてやる。昨夜はろくに寝られなかったしちょうどいい。
時刻を見ると、夜の11時を少し過ぎたところだった。そうそう、これから寝るってところでセーブしてたんだ。それこそ、寝てる間に強盗かなんかに入られるなんてこともありえるかもしれないしね。
さあ、これからどうしようか? ここにいたら例のやつが僕のことを調べに来る。そいつと戦ってもいいけど、来るまで待つのも面倒だし新しいダンジョンにでも行ってみようかな。
となると、『青き森』がよさそうだ。現状のランクでも通えるF級ダンジョンだし、青の人より先にスキルを取ってやりたい。そうすれば青の人は掲示板で不遇ネタを提供し続けられるし、そこでの扱いが酷い僕自身も溜飲が下がるしでWINWINだ。
そういうわけで、僕はまずハンターギルドの第17支部へ向かうことに。今回は『虚無の館』じゃなく、別のダンジョンへ行こうと思う。【開眼】スキルもあるし、今度はどんな激レアスキルを獲得できるのか本当に楽しみだ。
欠伸を噛み殺しながら目的地へと向かう。ギルドは夜の12時くらいまでなら対応してくれるので大丈夫なんだ。やがて到着したけど、さすがにこういう時間帯なだけあってか珍しく人の姿はあまりなかった。まあそのほうが都合がいい。
僕はそこでセーブすると、『青き森』ダンジョン専用のカウンターへと歩いた。お、いるいる。受付嬢のアオイさんだっ。彼女は胸元まで髪を伸ばしているクールな感じの美少女で、無表情かつ無口なことで有名だけど、それがまた神秘的なんだとかで一部のハンターたちからは人気があるんだ。
「こんばんは。『青き森』ダンジョンに通いたいんだけど、登録いいかな?」
「…………」
ハンターとしての身分を証明するためのパーソナルボードと、F級ダンジョン『青き森』の一か月の使用料金3000円を払うためのマネーボードを提出すると、アオイさんはそれをちらっと見るなり、無言でうなずいて登録してくれた。
これで入口から『青き森』ダンジョンへ転送されるようになった。ちなみに、F級の依頼の魔石収集に関してはどこのダンジョンでも質が変わらないのでそのまま適用できる。さて、早速行ってみるとしようか。
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