3話


 さあ、世界最高峰の激レアスキル【開眼】と【セーブ&ロード】をダブルで獲得できたことだし、『虚無の館』ダンジョンを出るとしようか。


「――あ……」


 僕は意気揚々と一歩踏み出したものの、すぐに思い直した。


 LRスキルの【セーブ&ロード】を早速試してみたくなったんだ。隠し部屋にはコウモリたちがまだ51匹丸々残ってるし、全部倒せば魔石がポロリと出るかもしれない。もし討伐に失敗してボコられて死んだとしても、セーブした時点まで戻れるわけだから。


 というわけで使用すると、『セーブしました』というメッセージがボードに表示された。


「ゴクリッ……」


 いよいよだ。僕は息を呑んだあと、勇気を持ってコウモリの巣へ飛び込む。


『『『『『ピギイイィッ!』』』』』


「うわああぁぁっ!」


 血に飢えたコウモリたちに待ってましたとばかり食いつかれ、すぐに意識がなくなったと思ったら、隠し部屋の前に立っていた。


 あれれ……襲われた記憶はあるのに体はなんともないし、どうやら死に戻りした格好らしい。でも死んでも大丈夫ってわかったから、これで勇気百倍だってことで、僕はまたセーブしたあと隠し部屋へ突っ込むことに。


「――ふう……」


 それを二、三回繰り返すうち、僕はやたらと効率よくコウモリを倒せるようになった。なんか倒すコツを掴むのが異様に早くなった気がするし、これも【開眼】スキルの隠し効果っぽいね。よーし、もっと上手く倒すためにロードして同じことを繰り返すか。


『『『『『ピギャアアァァッ!』』』』』


 そのうち、時間はかかるけどほぼ無傷で倒せるくらい、僕はコウモリ退治が抜群に上手くなっていた。


 なんか普通の赤コウモリよりドロップ率が少しいい感じなのも相俟って、楽しいので癖になって何回も【セーブ&ロード】スキルを使用しちゃったけど、魔石も多いときで5個しか出ないし、飽きが来る前にこの辺でやめておこうかな。


『遅れちゃいました……』


「え……?」


 いきなり視界内の片隅にあるイベントボードにメッセージが流れてきて、誰かと思ったらいつも僕の動画を見てくれる人だった。匿名とはいえ初めてコメントしてくれたので感動する。


『カケルさん、なんだか声が弾んでますね。何かいいことありました?』


「い、いや、久々に魔石が複数出たから嬉しくてね……」


「おおぉ、おめでとうございますー」


「ど、どうも……」


 ログインするのが遅れたってことは、何か用事があったんだろうか。それでも、隠し部屋で戦ってるところを見られなくてよかった。隠し部屋があること自体珍しいし、噂が広まりでもしたら僕の憩いの場でもある『虚無の館』ダンジョンが怖いお兄さんたちの溜まり場になっちゃいそうだしね。


 一日に一回しか同じモンスターが発生する機会はないといっても、赤黒コウモリたちが51匹も湧く隠し部屋ならセーブとロードを繰り返せば魔石を量産できそうだし、何よりこれだけの数を倒していけば、いつかはボスが出現するかもしれない。


 ボスっていうのは弱い順に小、中、大、極大まであって、ダンジョンにおいてはモンスターを沢山倒せば倒すほど出現確率が上がっていくらしい。それもかなりの数を倒さないと出てこないみたいだけど。


『虚無の館』にはずっと通ってるものの、未だに小ボスですらお目にかかったことがない。もし出てきたら倒してみたいし、超レアスキル獲得でモチベーションが激増したのもあり、これからも絶対に独占したいダンジョンなんだ。


 ちなみに、スキルボックスやスキルボードに関しては、動画を見ている人でも見られない仕様になってる。下手すればほかのハンターにスキルボックスを狙われかねないっていうギルドの配慮からだった。


「てか、匿名さん。コメントとか珍しいね。今まで、何度呼び掛けても一回もくれなかったのに……」


 このダンジョンに籠もって半年ほど過ぎたあと、『さすがに退屈だよね?』とか『同情で見に来てるなら、気にしなくていいから』とかこっちからメッセージを何度か送ったんだけど、一切返信がなかったので寡黙な人なんだと解釈してたんだ。


「あ、そうだったんですね。ごめんなさい、カケルさん。実は私、この動画を睡眠導入剤代わりに使ってたところがあって……」


「え……?」


「その……私って不眠症なところがあって、この動画が……その、失礼かもですけど、とても退屈なのが良いんです……」


「……あ、あはは……」


 匿名さんからのなんとも衝撃的な台詞に、僕はしばらく笑うことしかできなかった。ぐっすり眠るためにこの動画を見てたのか。そりゃいくら呼びかけても反応がまったくないわけだ。まあそれだけ退屈すぎる配信だったってことだね。


『でも……何故か今日に限っては、この動画を見なくても眠れちゃって……てへっ』


「なるほど……」


『ふあ……カケルさん、ちょっと用事があるのでそろそろ失礼します~』


「あいあい」


 匿名さん、もうちょっと寝るつもりなのかな? それにしても、この動画にコメントされるっていう一年に一回の珍事が起きたってことは、僕が激レアスキルを二個も獲得したことを合わせると、今日はまさに運命的な日だとしか思えなかった。


 そのあと、僕は魔石を5個ゲットできたこともあり、ハンターギルドの支部へと向かう。


 ハンターギルドとは、ダンジョンを攻略するハンターのために作られた機関だ。場所が近いダンジョン群ごとにひとまとめに設立されていて、そこでは様々な依頼をこなしたり、手に入れた魔石やレアアイテム等を換金、鑑定したりすることができる。ほかにはハンター専用の売店や休憩所、パーティーを組むための場所も用意されている。


 そうした様々なことが一度にできるということもあり、ハンターギルドにはスキルハンターたちが毎日のようにひっきりなしに訪れるもんだから、大体いつ来ても混雑するくらいの賑わいを見せているんだ。


「――あれ、もう着いちゃった……?」


 なんかいつもより早めに到着することができたと思ったら、【地図】スキルの効果も持つ【開眼】のおかげで近道を通れたからっぽい。


 ダンジョン以外だともちろん配信なんてされないのである意味気楽とはいえ、郊外からなので割りと距離があるんだよね。まあそこまで遠いってわけでもないし、健康のためにあえて歩くことも多いんだけど。稀に、スキルを使ってるのか頭上を飛行してきたり、ありえないスピードで横切ったりするハンターも見かける。羨ましい話だ。


 それでも、今の僕には誰もが羨むであろうスキルが二つもある。《ひきこうもりハンター》と呼ばれて蔑まれていた底辺ハンターから一気に勝ち組になれたんだ。これからどんどん生活が快適になっていくと思うと楽しみしかなかった。

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