4話


「――ふわぁ……あっ、カケルさん、どうもですう……」


「どうも、ユメさん」


 ハンターギルドの第17支部にて、『虚無の館』ダンジョン専用のカウンターで受付嬢のユメさんが迎えてくれた。ポニーテールの髪形がよく似合ってて、いつ見ても目を半開きにして眠そうにしてるのが印象的な美少女だ。


 この支部に通ってるハンターたちの間じゃ、ユメさんは根強い人気があって、彼女のためだけにダンジョンの使用料を払うハンターが出てくるほどだけど、そういう人でも通うのはすぐに断念しちゃうくらい退屈すぎる迷宮なんだよね。


 っていうか、そこに一年以上通ってた僕って割りと異常なのかも……。


「あのこれ。『虚無の館』で魔石が5つ出たから、例の依頼の報酬を貰えないかな?」


「はあい……。それでは少々、お待ちくださいねえ……」


「う、うん……」


 見てるだけでこっちまでトロンとしちゃうくらい、すっごく眠そうなんだけど、仕事はきっちりできるところもユメさんの魅力の一つだ。


 ちなみに僕が受けた依頼は、『魔石を幾つでも引き取ります!』と謳っているF級の依頼の一つで、普通に商店街で売るよりは割高で引き取ってもらえるのでこっちに魔石を供給するようにしている。その時々で相場は変化するけど、魔石なら一個で大体1000円ほどで、依頼の報酬だと1200円くらいになる。


 魔石は仄かに光っていて、二個以上で共鳴して強いエネルギーを発するため、料理、照明、暖房、乗り物にも使える。また、武器や防具、マジックポーション、魔道具の原料にもなる上、【魔物使い】というレアスキルがある場合、あらゆるモンスターを手懐けるための餌としても使える優れものなんだとか。


 魔石にはそれ以外にも、僕が知らないだけで色んな用途があるらしいから、どれだけ生産されても需要は尽きないってわけ。


「全部で6100円になります。確認してくださいね~」


「おおっ……」


 ユメさんの手から直々にマネーボードを受け取る喜び。しかも今までは一日中頑張っても魔石が1つ出るか出ないかってところだったから、凄く得した気分だ。今日は奮発してお寿司でも買うかな? っと、その前についでにスキルボードを確認してみるか。


 名前:時田翔

 ハンターランク:F★

 所持スキル:(2)

 LRスキル【セーブ&ロード】

 URスキル【開眼】

 称号:《ひきこうもりハンター》


 おおっ……。ハンターランクがF級のままなのは当然として、熟練度が一定の基準に達したことを示す★がついていた。


 これで星をあと三つ獲得すれば三ツ星以上確定でEランクに昇格ってことで喜びも倍増だ。F級の依頼をずっとこなしてきてようやく星がついた。一つのことをやり続けるだけでなく、幅広く色んなことをやっていけばさらに星が増えるらしいから頑張らないとね。


「それにしても、カケルさん。今日は魔石が5個も出るなんて、とっても珍しいですねえ。何かあったんですか?」


「あ……」


 ユメさんの眠そうな顔から鋭い一言。スキル獲得の報告をするかどうかは個人の判断に委ねられているとはいえ、今後の参考にするのでできれば詳細を報告してほしいというのがハンターギルド側の本音らしい。


 というのも、激レアスキルが出たという公式な情報が出回れば、そのダンジョンが有名になるわけで、それだけこの支部にもハンターの来訪が増えるからだ。もちろん、そのことはユメさんの給料が上がるということも意味している。


 仮に報告した場合、その情報をどうするかはギルド側の自由なんだそうだ。ただ、報告したハンターが非公開にしてほしいと頼めば、従う人も中にはいるらしい。さて、どうするべきか……。


 って、そうだ。【セーブ&ロード】をここで使ってどうなるか実験してみたらいい。仮に報告しても、ユメさんが気を使ってくれてスキルが出たことを喋らない可能性だってある上、僕のことを凄いハンターだと思って尊敬してくれるかもしれない。というわけで、僕はこの時点でセーブすることに。


「あ、あの、ユメさん、ちょっといいかな?」


「はい……? カケルさん、どうされましたかあ?」


「実は、凄いスキルが出ちゃったんだ……」


「……えぇぇっ。そうなんですかあ? あ、あのぉ……どんなスキルなのか、こっそり教えてもらっても……?」


「う、うん……。実は――」


 眠そうにしつつも興味津々な様子のユメさんに対し、僕はドキドキしつつ耳打ちした。クラッとするような良い匂いがする……。


「――LRスキルの【セーブ&ロード】と、URスキルの【開眼】が出たんだ……」


「そ、そ……それは凄いですううぅっ! LRスキルの【セーブ&ロード】と、URスキルの【開眼】が『虚無の館』で出るなんてえええぇぇっ!」


「ちょっ……!?」


「「「「「ザワッ……!」」」」」


 ユメさんがはっとした顔で大声を出したことで、ギルド内が一気に騒々しくなった。


「おい、それってマジかよ!?」


「すげーぜ!『虚無の館』って、確かF級ダンジョンだろ!」


「《ひきこうもりハンター》のカケルでも取れたなら、自分だっていけるかも……!?」


「よし、俺たちも籠もるぞ!」


「「「「「うおおおおぉっ!」」」」」


「…………」


 ああああ、ハンターたちが盛り上がってる。これはまずいことになった……って、そうだ。セーブしてあるんだし、ロードすればいいだけだってことで使用する。巻き戻れ!


「――あのぉ、カケルさん? 私の顔に何かついてますう?」


「え……? あ、いや、なんでもないよ……」


 本当に過去へ戻れたのかどうか、僕は思わずユメさんの顔をまじまじと見つめてしまったけど、彼女は眠そうな顔のままだし、周囲は嘘のように静まり返ってるしで、元に戻ったってことをようやく実感できたのだった。

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