2話


 もしかして、僕は夢を見てるのか……? いや、でも視界の片隅にあるイベントボードにはちゃんとスキルを獲得したっていうメッセージが残ってる。これは動画に対するコメントや、何かを獲得したとき等、自分が確認したいことを表示できるボードなんだ。


 それでもまだ信じられなかった僕は、一応スキルボードを確認してみることに。


 名前:時田翔

 ハンターランク:F

 所持スキル:(1)

 URスキル【開眼】

 称号:《ひきこうもりハンター》


「…………」


 うあ、本当に獲得しちゃってるし……。


 てか、これってどんな効果なのかな? URスキルっていうくらいだから物凄い効果なんだろうけど、【鑑定】スキルがないからわからない。ステータス向上系のスキルなら鑑定する必要もなく一目で理解できるのに。


 鑑定屋へ行くにしても、確か鑑定料がえらく高いんだよなあ。スキルボックス自体、滅多に出ることなんてないみたいだし、向こうもそこが稼ぎ時だって思ってるんだろうね。


『【開眼】スキルを使えばこのスキルを鑑定できます。使いますか?』


 おおっ、なんとか鑑定したいなあと思ってたらそんなメッセージが流れてきた。これって【鑑定】スキルの効果もあるのか。さすがURスキルってことで早速どんな効果なのか調べてやろう。


『【開眼】スキルは、モンスターや人を鑑定できるだけでなく、周辺のマップの構造を瞬時に理解し、意識がある状態であれば敵の存在も探知できます。さらに、各種のダンジョンにて現在どんなスキルが獲得可能なのかということや、その習得方法を知ることも可能です』


「ええぇっ……!?」


 思わず声が出てしまった。【鑑定】スキルだけでなく、【地図】スキルや【探知】スキルの効果も兼ねてるのか。しかも、ダンジョンにどんなスキルが眠ってるのかだけでなく、その覚え方までわかるなんて……。こりゃ、凄いなんてもんじゃない。いわゆるチートスキルってやつだ。


 まさか、僕がそんなものをゲットできるなんて思わなかった。人生ってどうなるかわからないんだな。今更ながら心臓がどきどきしてきたので、しばらく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「――ふう……」


 よーし、いい感じだ。それじゃ、【開眼】スキルでこの『虚無の館』にどんなスキルが眠ってるかを確認してみよう。


『現在、このダンジョンの二階にある隠し部屋にて、LRスキルが取得できる状態です。習得方法は、隠し部屋で一分間瞑想するだけです』


「お、おおおおぉっ……」


 すごっ……。LRスキルっていえば、世界最高のレアスキルじゃないか。しかも一分間瞑想するだけって、そんなにも簡易な方法で習得できるのか。覚え方がこれだけ簡単になるのも、【開眼】スキルの隠し効果っぽいね。さすがはチートスキルだ。


 ちなみに、スキルを所持するための容量には限界があり、一人二十個しか持てない仕様だ。それでも充分な気がするけど、中にはスキルの容量自体が増えるレアスキルもあるらしい。


 僕の場合、まだ一つしか持ってないしスキル枠を心配する必要もないってことで、早速二階への階段を探し始めたわけだけど、【地図】スキルの効果も兼ねてるおかげかすぐに発見することができた。早いなあ。


 しかも、階段を上った時点で隠し部屋の在処までわかってしまった。ここが狭いダンジョンっていうのも関係してるとは思うけど便利すぎる。


 噂によると、【地図】スキルがないと隠し部屋を発見できないどころか、そこに入ることさえできないらしい。とはいえ、その性能を兼ねている【開眼】スキルがあるから大丈夫だろう。


「うわ……」


 二階奥の、騎士の石像が中央に置いてある部屋に入ったとき、僕は背筋が凍りそうになった。というのも、ここの隣にある隠し部屋の見た目は普通なんだけど、コウモリたちがぎっしりと詰まっているのがわかったからだ。


 この『虚無の館』ダンジョンってモンスターの出現数がやたらと少ないと思ってたら、こんなところにいたのか……。


 名前:レッドブラックバット(51)

 モンスターランク:F

 特殊能力:無し


 試しに【開眼】でモンスターを鑑定してみたら、そんな情報がボードに流れてきた。赤コウモリの亜種みたいだけど、ランクは最下級で特殊能力も持ってないし強さは変わらないっぽい。括弧内の数字は、多分単純に隠し部屋にいる個体数を示してるんだろうね。


 そこへの入り口も壁の一部がぼんやりと光ってるのでわかるとはいえ、これじゃ隠し部屋に入って瞑想する前に、コウモリたちにボコボコにされて永眠してしまいそうだ。


 一体どうしよう? この動画をいつも見てくれてる人がもしいたなら、普段のダラダラした空気とは全然違って緊張感があるからびっくりしたかもしれない。


 うーん。誰かもう一人、囮になってくれる人がいたらいいんだけど、そんな都合よくは……って、そうだ。


 僕はを思い立って、石像を押してみる。横からと前からはダメだったので後方から押してみたら、かなり重かったものの手応えがあって、まもなく石像が前に動くのがわかった。ダンジョンにあるものは大抵動かせないんだけど、これはやはり隠し部屋に入るために用意してあるとしか思えなかった。


『『『『『――ピギーッ!』』』』』


 入り口をすり抜けるようにして隠し部屋に入って早々、大量のコウモリたちが石像に襲い掛かる中、僕は座り込んで一分間瞑想することに。これだけの数、手を出すと一気にこっちに向かってくる可能性もあると踏んだんだ。


 頼む……ターゲットが石像に向かってる間に、早く一分経過してくれ……。


 どれくらい経ったか、もう大丈夫かと思って恐る恐る目を開けてみると、透明の箱が落ちていた。スキルボックスだ! それを手に取り、隠し部屋から脱出するとともに開封してみる。


『LRスキル【セーブ&ロード】を獲得しました』


 うおおおぉっ……遂に来たあぁぁ。おそらく文字通りの効果だと思うけど、念のために【開眼】スキルで調べることに。


『【セーブ&ロード】の効果は、セーブした時刻にいつでもロードで戻ることができ、死に戻りも可能になります。なお、セーブした時点に戻った際に一旦効果が解除されます』


 死んでも生き返ることができるなんて、やっぱり神スキルだ。URスキルに続いてLRスキル獲得なんて、本当に夢というか、夢の中でさらに夢を見てるみたいだ。試しにスキルボードを確認したら、ちゃんと新たに追加されていた。これは底辺からの大逆転が見えてきたぞ……。

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