スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
1話
「それっ!」
『ピギャーッ!』
コウモリが急降下してきたところで、タイミングよくショートソードを振り下ろして斬り落とす。最初は苦労したけど、もう手慣れたもんだ。
「……ちっ、ハズレか……」
モンスターの体が消える際、生活費の頼みの綱である魔石は出なかった。まあドロップする確率は、個体が弱いほど低いって言われてるし仕方ないか。
僕が現在いる場所は、郊外にあるダンジョン『虚無の館』だ。
無数にあるダンジョンの一つで、ここも入るたびに内部構造が変わるとはいえ、基本は廃屋のような古びた二階建ての家なのでたかが知れている。
およそ20年前にダンジョンが誕生して以降、膨大な種類のものが発生していったそうで、ここはその中の一つで最下級のFランクダンジョンだった。
それもそのはずで、たまに赤コウモリが湧く程度でマップとしても古びた部屋が幾つかと荒れ果てた庭がある程度だから、興味本位でやってきたスキルハンターもすぐに飽きて帰ってしまうくらいなんだ。
でも、僕は一年ほど前に晴れてスキルハンターになってから、ずーっとここに籠もり続けている。
なんでかって? それはこの場所が妙に気に入ったっていうのもあるんだけど、居心地がよすぎてほかのダンジョンに行けなくなったからなんだ……。
なんせ一人でも気楽に潜れるくらい、出現するモンスターが弱くて安全な上、ホーム型ダンジョンだから家にいるときのようにリラックスできるしね。
とはいえ、楽なことに慣れすぎちゃってぼっち&引きこもりみたいになったってわけ。掲示板じゃ、ここでコウモリが出ることもあって《ひきこうもりハンター》なんて呼ばれてバカにされることもしばしばある。
ここで魔石をゲットするまでしつこくコウモリを狩る→出たらハンターギルドに報告して魔石の報酬を貰う→そのお金で商店街へ行き、飯を買って家で食べる→端末で掲示板を覗き、そのあと就寝→起床して朝ご飯を食べたら、『虚無の館』ダンジョンへ出発。この繰り返しだ。
凄く楽ではあるんだけど虚しい。そういや、いつも僕の狩りを見に来てくれてる人も今日はいないし寂しいな……。動画配信はスキルハンターにとっては防犯対策として義務付けられているものだけど、たった一人しか僕の動画を見てくれる人はいないんだ。まあこんな退屈な冒険を見るのは余程の物好きくらいだろうけどね。
「はあ……」
思わず溜め息が出る。僕って本当にダメなやつだ。同期のスキルハンターたちはどんどんランクを上げて出世してるっていうのに……。何かの間違いで、いつの間にか気付かないうちに何かのスキルを獲得してるとかないかな? 僅かな期待を込めつつ自分のスキルボードを見てみることに。
名前:
ハンターランク:F
所持スキル:無し
称号:《ひきこうもりハンター》
「はあ……」
やっぱりダメだったか。公開は義務じゃないので当然してないんだけど、誰もが見たら驚くであろうこの真っ白なスキルボード。もちろん自分のものだ。スキルが全ての世界で、これほど虚しいことはない。
たとえば、筋肉ムキムキになるまで自分の体を鍛え上げたとしても、力が上がる系のスキルで一番弱い【腕力向上・小】を持っている人にすら遠く及ばない、そういう世界なんだ。じゃあ武器で攻撃力を補えるかっていうと、そういうスキルを持った人が素手で戦うほうが断然破壊力があるってわけ。
んで肝心のスキルはどこにあるかっていうと、スキルボックスという透明な箱に収納されてるらしい。僕は一度も見たことないけど。
ダンジョンでの行動によってスキルボックスは出現するといわれ、それについては様々な研究がなされてきたけど、結局のところ詳しいことはまったくわかっていない。
というのも、スキルを獲得したとされるハンターたちが、どこでどういうやり方で手に入れたかを頑なに明かさないから仕方ない。ライバルを増やしたくないだろうし、当たり前といえばそうなんだけどね。
ただ、取得方法については掲示板等でああだこうだと噂されてるので、そういうのを頼りにするのもいいかもしれない。出鱈目も多いみたいだから鵜呑みにするのは危険だとしても。
そういや、こういう話を思い出した。
どこのダンジョンかは忘れたけど、入口の壁を素手で一時間殴れば、腕力上昇系の現時点での最上級スキル【怪力】を手に入れられるとかいう怪情報があって、それをやった人がみんな手を腫らしちゃって、そのあと掲示板で情報提供者から『大笑いさせてもらった』という書き込みとともに釣り宣言があったんだよな。
本当にやったやつはとんでもない阿呆だとか、偽情報を流したやつを必ず探し出して殺してやるとか、荒れに荒れた記憶がある。
そういう意味じゃ、一年間もなんの変化もないのに同じダンジョンに籠もり続けてる僕って、それ以上の大馬鹿者で笑い者なのかもね。はあ……。
『『『『『――キイィッ!』』』』』
「…………」
なんかもうどうでもよくなってきたと思ったら、コウモリたちが複数同時に湧いてきた。一匹ならともかく、何匹も一斉に現れると普通は焦ってしまうのに、こんなときに限って無の境地でサクサク倒すことができた。
へえ、余計な力が入らないと、こうも簡単に倒せちゃうんだな。はあ。
ん? 今なんか落ちたぞ。半透明の箱だ。
ま、まさかスキルボックス? いや、ただの悪戯だろう。一体誰がどんな罠を仕掛けてるのやら。警戒しなきゃいけないところなのに、どうでもいいと思って僕はためらいもなく箱を開けてしまった。
『
「えっ……?」
URスキルっていったら、
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