第11話 保健室で
***
平野……?
無人の保健室になぜいるのかは分からないけど、とりあえず呼ばれるがまま中に入る。
昼間だというのに、電気はついてなくカーテンも閉まっているためかなり暗い。
よく考えてみれば、保健室に入るのは初めてかもしれない。
他の教室とは違い消毒液などの独特のにおいが鼻をつく。
「こんなとこ勝手に入ったら駄目なんじゃないか……?」
「大丈夫だよ。あの張り紙があるときは、昼休みが終わるまで先生は戻ってこないから」
「そういう問題じゃ……」
平野だって俺が言わんとしていることは理解していると思う。
そしてまた俺の方も、平野が何の理由で俺をここに呼んだのか直接口に出さなくても察することができた。
「そんな所に突っ立ってないでこっちにおいでよ」
ベッドの上に腰かけた平野は足をブラブラさせながら俺に向かって手招きする。
俺は平野の隣に腰を下ろした。少し間は空ける。五十センチぐらい。
沈黙の時間が流れる。平野は何も言わず、俺は正面の献血のポスターを眺めていた。
それがどれくらいの時間だったかは分からない。ほんの一分足らずのようにも感じたし、その十倍以上だと言われても信じると思う。
ふいに平野が立ち上がった。
移動し、俺の正面に来る。
片手でスカートの後ろを抑えながら、もう片方の手を俺の肩に乗せる。そうやって支え替わりにして、平野は俺の太ももの上に対面する形で座った。
「保健室ってだけでドキドキするね」
「平野、さすがにここでは……」
平野だって馬鹿じゃない。学校の中でそういうことをして、もしそれがバレたらどうなるかなんてちゃんと分かっているはずだ。
頬に手を添えられる。目の前には、とろけるような目で俺を見つめる平野。ピンク色の唇が近づいてくる。
――やっぱりダメだ。
とは言えなかった。
唇を塞がれる。いつもより甘酸っぱい味。
均衡を保っていた本能と理性が少しづつ傾き始める。
今まで学校でそんなことなかったのに、どうして今日に限ってーーという質問はもう俺の頭の中から消え去っていた。
「口ではあんなこと言ってたけど、滝沢だってちゃんと反応しているじゃん」
平野に抱きつかれ、俺の身体は抵抗することなくそのまま後ろに倒れた。
スカートを捲りあげ、直接下着を俺の反応している部分に押し当てるとゆっくりと上下に腰を動かしていく。
俺は平野の背中に手をやり、深いキスで舌を俺の中に入れてくる平野を受け入れていた。
もしここで誰かが入ってきたら確実に停学だろう。
その噂はすぐに学校中に回り、俺と平野は卒業までずっとそういうやつという認識を持たれたまま残りの高校生活を過ごすことになるのだ。
今ならまだ止めることはできる。その気になればいくらでも引き剥がすことはできる。
けどそんな理性が打ち消されてしまうぐらい、言いようのない快楽が広がってきているのも事実だった。
まだキスをしているだけなのに。互いに服は着たままで、布越しに擦りあっているだけの行為だというのにいつも以上に身体が火照ってくる。
ここが高校の保健室。バレたら終わり。そういう非日常感が俺の感覚を狂わせているのだろうか。
……段々とごちゃごちゃ考えるのも面倒くさくなってきた。生殺しの時間が長くなればなるほど、俺の中の理性が失われていく。
結局は俺も、性欲に抗えないただの男子高校生ということだろうか。
ここで一線を超えるような行為どころか、その手前すら許されないことなんて分かりきっている。けど本能に従うのならば、平野と最後までしたい。
周りのことなんて気にせず、クラスの中では笑顔を振りまいているだけの平野が乱れている姿を今すぐにでも見たい。
「実は昨日の夜、滝沢のバイト先に行く前に買ったんだ」
互いの口から唾液が線を引く。それを自らの舌で舐めとった平野はブレザーの内ポケットから一枚取りだした。
「ねえ、このままじゃつけられないよ。どうしたらいい?」
平野の腰使いは止まらない。俺は自分の手でベルトを緩めた。
「……これでズボンは下ろせる」
「んっ」
俺に跨っていた平野は一度床に降りると、緩々になったズボンとパンツ同時に手をかける。
そして何の躊躇もすることなく、器用にまとめて膝の辺りまでずり下ろした。
「すごいね滝沢、暗がりだけどいつも以上に立派に見えるよ」
「……いつもと一緒だ」
「ふーん、いつもはわたしが上も脱がないとここまでにはならないような気がするけどなあ」
反論はできなかった。
確かに俺が一番平野の身体に興奮を覚えるのが、その小さな身体に似つかわしくない豊満な胸が露わになっているときだ。
しかし今はガッチリと制服で固めている。俺はキスと制服越しの刺激だけで、こんな風になってしまったのである。
「もうここまで来たら後戻りはできないからね」
そう言った平野は避妊具を口に含みしゃがみ込む。
――軽くキスをすると、そのまま根元までしっかり咥えられる。
そして付け終わって、もう一度平野が俺に跨ってきたとき、ちょうど昼休み終わりを告げるチャイムがなった。
「どうする? このままサボって続ける?」
「保健の先生が帰ってくるんじゃなかったのか?」
「あっ忘れてた。急いで出ないと。やっぱり十分少々じゃ厳しいね」
今のチャイムがまるで何かのスイッチだったかのごとく、平野は素の平野に戻っていた。
ちなみに俺も、学校のチャイムという現実的な音のおかげで理性を取り戻すことができた。
急いでゴムを外してポケットに突っ込む。パンツとズボンを上げてベルトを締め直すと、平野に先に出てと言われた。
「一分後ぐらいにわたしも出るから」
俺は頷き返すと、ゆっくりと扉を開ける。
最悪先生に見られなければ、他の生徒に見られてもギリ誤魔化せると思う。
廊下に出た俺は、扉に背中を向けたまま静かに扉を閉めた。
そのまま左に方向転換して教室に戻ろうとしたときだった。
「……速斗?」
反対側の曲がり角から、沙月がやってきた。
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