story 26 ダンジョン

ダンジョン攻略当日朝。

一同は帝国城内地下、およそ200メートルほど下へと降りた場所にある、起動前のダンジョンへ転送ポータルの上に並んでいた。


地下にある理由は単純で、ダンジョンそのものが遠くにあるということ。加えて強大なダンジョンであるため、簡単には侵入出来ないように帝国が管理をするために地下に設置されたらしい。

このダンジョンはこれまでにも勇者育成のために使われていたことがあり、その時の記録が記された伝記によると、勇者1人の最高到達階層で128階層まで攻略済みらしい。

その話だけを聞くと相当強かったのだと知ることが出来るが、少し見方を変えると大勢で当たればもっと記録を更新することも可能なのではないかと言うことが言える。

もちろん危険なダンジョンであるため、油断は大敵であるが未知のものであるダンジョン。それも攻略寸前ということでかなりの緊迫感に迫られた息苦しい状態であったが、

そんな安心感が一同を取り巻いていた。


安堵も束の間。数秒後一同はある一点に視線を向けることになる。

目線の先にいるのは一同を先導する燈威。

地球にいた頃見せていた姿と比べてもその顔には、その姿には情熱に燃える強き男の姿が映っていた。


「お前ら!準備は出来たか!!ここから先は未知に溢れ危険が蔓延るダンジョンという場所だ!お前ら!覚悟は出来たか!!ここから先では誰が死のうと助けは来ない!どれだけ凶悪な敵と相対しても、命の危機がせまろうとお前らを助ける存在はいない!その時は自分で抗うしかない!それでも戦うか!!戦う意思のある奴らは俺についてこい!!!!」

「「「「「「「wuoooowww」」」」」」」

誰一人として怖気付くことなく燈威について行くことを告げた。

もはや既に一同の気は決まっていたのだ。

生きるか死ぬか。

邪心、野心、慢心あれど

当然の選択をしたまでである。

意思は固まった、もはや敵無しと言った所である。

その直後足元の魔法陣が光だし、視界は白に染った。





感じたことの無い浮遊感。

全身を駆け巡る風の感覚。

虹に染まる視界。

未知の出来事のオンパレードの後、一同はダンジョン1階層「果てなき廊下」へと到着した。



「…知らない天井だ。」

「当たり前だ。やっと目ぇ覚ましたか燈威指揮官」

「なんやその言い方。、…なぁ遊田?」

「ははは×2」

「はぁ…まあいいか。ところでほかのみんなは?」

「まばらだが、既に殆どが目を覚まして臨戦態勢に移ってる。ダンジョンなんて俺達にとって未知の場所じゃあこうなるのも仕方ねぇけどさ、正直最初っから気ぃ張ったままじゃ持たねえ。だからよ、な?」

「…フッ安心しろ。この指揮官様に任せとけ。なんてな おぉい!みんな!そんなに気を張ってると持たねえぞ!それにタンカーの中鳥と聖職者の満帆が咄嗟の事態でもバリアを張れる。だからもう少し気を抜け!」


燈威の言葉に異論は無いようで、先程までピリついていた空気は少しお肌に優しくなった。

加えて今の声かけにより先程まで意識を失っていたほかのクラスメイトも目を覚ましたようだ。


そして各々体勢を整え、ダンジョン攻略の1歩を踏み出した。



禁忌に包まれたダンジョンであるがその実、1階層はかなり優しく、生産職のクラスメイトですら手こずることなく倒せる敵ばかりであったが得られる経験値が半端でなくみるみるうちにレベルが上がっていく一同。

ペース高くボスすらあまりに順調に倒しながら進み、当初の計算より早く一同は20階層を突破し第1エリアのラスボス 浮遊獣 の居た部屋のさらに奥にある、部屋にて休憩をしていた。

どうやらここは敵が入ることは出来ぬ上トラップも無く、変わりに回復装置や食料保管庫があった。


「はぁ人が多いってだけでこんなに速く進むんやな、数の暴力様々だわ〜アハハハハ!」


「なんかめっちゃ吹っ切れてんな満帆。

なんかイメージ変わるっつうかなんつーか。なんなん」


「あはははは!そういう中鳥だって吹っ切れてんじゃん!割と喋るんやな!面白い〜」


アハハハハ!と笑うのも無理はない。

というとのも、当初は2階層ごとに一日かかると想定していたが、生産職の活躍により20階層を一日でクリアしてしまったのだ。

もはや計算の範囲等とっくに超えており、計画は予定よりはるかに早くクリア出来そうである。


「はぁ〜身構えてたのが馬鹿らしいぐらい早かったな。ほんと。」

「あぁそうだな。でもこっから下はどうなってるのか、正直伝承の通りの構造なのかもわからんし、気は抜けないぞ?燈威。」

「まぁな。」

「ま、でもここにいる間ぐらいは気を抜いてもいいか。流石に疲れたろ。いくら早くここまで来たとは言え、一日中ずっと指揮を執ってたんだ。周囲の確認やら陣形の組み換え、後方支援に徹して指揮かと思えば、ピンチの時にはまさかのその旗を敵に全力で叩きつけて前線で戦い出すとはな。俺は正直そんな事出来ん。ただ地球にいた頃鍛え続けてた走りを活かして前線で暴れるしか脳がないからな。」

「そんなこと無いぞ遊田。現にほら、今僕と会話してるやん。助かってるやで。」

「そか。」

「おふたりともめちゃくちゃイイ感じだね。結婚したら?式には私も参列するよ?」

「っとアイリスか。何だ急に」

「いやぁなんでも?」

「なんで疑問形なんや」

「いいじゃん。ただなんか2人の周りに薔薇が咲いていた気がしただけy」

「ふぁああああんもぉぉぉぉ!疲れたぁ!」


ビクッ!ビクビクビクッ!!


「!?」


「あ、ごめん驚かせた?」

「なんだ豪汰か。びっくりした」


突如聞こえたその疲れたっぷりの声に、それまで喋っていた燈威達、そしてクラスメイト達もどうやらアドレナリンが抜けて緊張が解け、疲れがなだれ込んできたようで、みるみるうちに寝だしている。


その場に大の字になって寝る者

壁際によって寝る者

壁に寄りかかり武器を抱えて座って寝る者

中には生産スキルによりベットを作り出し寝ている者や、浮遊している者もいる。


寝かただけでもこれだけ違いがあるんだなと遊田が感心していると、突如、上半身執事服で下半身むき出しのマッチョが現れアームストロング砲を振り回しながら遊田に向かって突進してきた。

その変態筋肉は「我はこの世界のダンジョンの神、フツー・ノヒトである!逃げるなァ!」と叫びながらどこから取りだしたのか片手で縄を振り回している。


遊田はこの状況が呑み込めず困惑していたが、当の本人はおいおい風邪ひいちまうぞ?と心配していた。傍から見れば明らかに心配する点が違うのだが、その心配がおかしいということに本人は1ミリたりとも気づいていなかった。


隠して部屋の隅っこに追い詰められた遊田は至近距離にアームストロング砲を見つめながら変態筋肉の話を聞くことになった。


「我はこのダンジョンにて暇をしている神、フツー・ノヒトだ。暇を持て余しすぎた結果貴様に助言をくれてやろうと思ってな。ほれ、これを受け取っておけ装着しているだけで皮膚がダンジョンの壁と同等の硬さになる神器のパンティーだ。セールタイムだし、貴様にはさらにこれらの神器も渡す。今ここで着ろ。ほれ、装着すると嗅覚が地獄の番犬並に鋭くなるカチューシャと体力消耗を1/5にまで落とすワンピース、スキル使用時に移動速度を2倍にするエプロン(白)、魔力量を3倍にするブローチ付きのスカーフ。これら1セットで可愛いメイドさんセットである。

拒否権は無い。着ろ!!!!」


渋々変態筋肉の目の前で着替える遊田。

彼は(彼女になったな)顔が非常にイケメンであるため、最高の仕上がりになった。


「こ、これ大丈夫かな?」


「恥ずかしがるところも実に可愛い。よぉく似合っておるわ!ふむ、今晩のおかずにありつけたところだ。貴様に助言をしよう。目が覚めたらお仲間さんに伝えるといい。 貴様らがこれから降りていく階層は「生の廊下」、壁や床がヌメヌメとした奇妙な物質出できた階層だ。20階層あるその「生の廊下」では非常にムフフなハプニングが起きる。貴様のその服はそのためのものでもある。何が起きるか?それはお楽しみだ」


「お楽しみだって…おいおい。てかそんなことより「生ける廊下」だって?次は「果てなき草原」があると聞いていたんだが、違うのか?聞いてねぇぽ。」


「…ぷぷ。ほれ、さっさと目を覚ますんだな、小僧。お仲間さんが困惑しながら貴様を見つめてるぞ。われもそろそろ失礼して、貴様のハプニングを待ちながら全裸待機しているとしよう。さらばじゃ!」


「えぇ…」


「……夢か。」

遊田は目を覚まし、真顔でそう呟いた。

どうやら先程見ていた光景は夢だったようだが、何か体の感覚がおかしい。

「夢、だよな?」

なんというか少し体が重く、その、ふわふわとした手触りがある。


周囲を見渡すため立ち上がろうとした時、視線の先にあったものは、不自然に壁に設置された鏡と、そこに写るメイド服を来た己があった。

「おいおいおい…俺までこんなに…はぁ。」

確か神器でカチューシャとワンピース、エプロンとスカーフは貰ったよな?なんかプラスされてないか?白のニーソックスとラウンドトゥパンプスて。完成されてるやんけ!

あ、そういやなんか下着も貰ってたよな。よく分からん

ハイパーぶっ壊れパンティー。

もしかして?履いてるのか?今。


そう思いワンピースの裾をたくしあげる遊田。


そして見えたのは白いパンティーであった。


「あぁ、まじか。これで最強の装備ってんだもんな。やべー。……でもこれいいかも。なんか背徳感?」

「遊田っちそんな趣味あったんだ。」

ふと背後から声をかけられた。

アイリスだ。

見られちまった。

あぁ神よ。

人生終わったぞこれ。


なんて思っていると自分に視線がいくつか集まっていることに気がつき、かくかくしかじか話し始めた。

「という夢を見たのさ。」

「何そいつキモ」

「変態だ…」

「…(絶句)」

インパクトは結構。

わかって貰えたようである。


そしてこの格好になった理由を話した後俺はダンジョンの神「フツー・ノヒト」から聞いた次の階層について話しだした。


かくかくしかじか。


「なるほどね。それじゃ、1夜休んだことだし次に進みますか。__おーいみんな、十分休んだろ?次行くぞ!準備しよ!」


掛け声とともにほかのクラスメイトは準備を初め、物資の補給や準備運動をし、次の階層に向けて気を引き締めている。



10分後、準備を終えてゲートをくぐった彼らはとんでもない光景を目にした。


「なんだよ…これ」

「お、オェェ!」

「‪うわぁ。キモ。」


そこにはピンク色の床、壁。

幅は、15m。高さは17.3m。

しかしただピンクなだけでは無い。

ヌメヌメとしており加えて気味悪くウネウネと動いているのだ。

気持ち悪がって吐くのも無理はない。

想像して見てほしい。

その異様にも程がある廊下を。

私なら、確実にぃ、吐k…おrrrrrr キモチワルイ…おrrrrrr…



ふぅ。…失礼。

まぁその場に居ない私でさえこうなるのだからその場にいる彼等はもっときついのである。

しかしこの階層において最も問題であるのは、1つづつ階層を降りる度に誘惑の香の濃度が増えて行くというのである。

廊下自体は短く、ボスやラスボスもサキュバス、インキュバス。そしてラスボスはサキュバスクイーンと比較的倒しやすいのだか、それは戦闘面だけの問題であり、まだ精神の成長しきっていない彼等は常に空気中に欲求不満を抱えながら戦わなくてはならないのだ。

果たしてどのように彼等は戦うのか。

実に楽しみである。


「これ…どうすればいいんだ?」

「ん?どうした燈威。そんな険しい顔しちゃってぇ。」

「なっ、遊田お前なんともないのか?こう…なんというか、その、興奮するとかさ。」

「ん?ムラムラ?してないよ笑そんな恥ずかしがっちゃってもう。可愛いんだから。」

「なっ//そうやっていじるのはやめてくれ。…ムラムラしてきただろうか!お前がそんな格好してるから!お前なぁ!可愛いんだよ!」

「なるほど…今の発言も、俺に何も起きてないのもこの服のせいか。クソ!」

「でも、お前がいればこの20階層、簡単に攻略出来るかもしれない!」


かくして、気まぐれで自己中なダンジョンの神「フツー・ノヒト」がもたらしたアイテムが攻略の鍵となる可能性を見つけた燈威はある作戦を思いつくのであった…


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