創世記

story 18 創世記 建国者の勇姿

昔、アイラン村には家族と幸せに暮らすサイラルという男がいた。

サイラルはとても頭が優れておりその村はおろかその大陸、いやその世界の中でもひと握りの頭脳を有していた。

そんな彼は当然村一の人気を持っており、日々村の手助けをしていた。

そんなある日サイラルは村の老婆に頼まれ、村より少し離れた場所にある森の中に薬草を取りに来ていた。


「今日もいい天気だな、木々の空隙から差し込む光は程よく眩しくて、空気は澄んでいるし空には雲ひとつない。…しかしおかしいな、普段なら鳥のさえずりや動物の呼吸が聞こえない。それどころか動物や虫が見えないぞ?」

サイラルの言う通り、森全体が過剰な静寂に包まれている。

(なんだ?これは大災害の予兆か?…そういえば今朝私に依頼した老婆は今まで1度も私に関わろうとしなかった。何かおかしくないか?いっt)

と、その時村の方から神さえ顔を顰める程の轟音と共に濃い紫色の光が全てを飲み込んだ。

その圧倒的すぎる衝撃に思わずサイラルは膝をつき蹲る。

「ー!っなんだ?これは、村の方、か、ら?」

(何だこの音と光!村に!急がなくては!家族が!)


サイラルは劈く轟音と射るような光に意識を朦朧としながら村へ向けて走り出した。


サイラルが森で衝撃に耐えている頃、村では悪夢としか言い表せない光景が広がっていた。

森にいたサイラルには音と光だけが届いていたが、この禍の爆心地には物理的な衝撃が広がっていた。

それにより村の家屋は大半が崩れ去り、衝撃波をモロに受けた住民は血を撒き散らす肉塊へと成り果てた。


この凄惨な出来事が起きたのはサイラルの家族も例外では無い。

しかし村の他の家から小さめの山1個分ほど離れている上心配性なサイラルが以前モンスターが襲ってきた時以来張っていた結界のおかげで被害は小さい。

とはいえ家は半壊しているし2人の子供を庇ったサイラルの妻は左腕を肩口から失い、血を流している。

(なん、なの?いきなり閃光が走って直後に爆発が…、サイラルは?サイラルは無事かしら?)

「サイ…ラル…」

「お母さん!」

「ママ!」

幼い2人にはあまりにも衝撃的なその状況に当然ながら泣きじゃくる。


と、その時3人の耳に何者かの足音が聞こえた。


「大丈夫か!な、アンリー!その怪我は?もしかして2人を庇ってか?!その出血…まずい今すぐ処置しなくては!2人とも、ママの腕を元の位置につけろ!アンリー!かなり痛いだろうが少しの間我慢していてくれ!…

偉大なる大天使ローズベルク!万物を癒す天使の涙をもって癒せ!アルティメットヒール!」


サイラルが唱えた最上位回復魔法は即座にアンリーの怪我を癒し擦り傷をおっていた2人の傷すら回復させた。


「サ、サイラル?あれ、無くなったはずの腕がある?…ありがとう…。」

「グスンお父さん…」

「パパ!良かった、生きてたんだね!」

「よし、これで一安心だn」


何かの液体が飛び散る音ともにサイラルの視界が赤色に染まり同時に鉄の匂いが鼻を刺す。


「え?」


不思議に思ったサイラルが目元の液体を拭い目を開くとそこには口だけが残されそこから噴水のように血を吐き出しながら呻き声をあげる3つの血まみれの肉塊があった。


「は?」

「クハハハ、やはりとても美しい肉塊が出来たぞ!」

「え?は?」

「ム?貴様、この肉塊を見て素晴らしいと思わんのか?もっと目を凝らして見てみろ、この美しすぎる赤、噴水のように吹き出す血、触ってみればわかる臓物の暖かさ、更には永遠に聞こえるこの呻き声!最高だぞ!」

「は?」

サイラルは混乱の顔を浮かべ泣きながらその場に膝をつく。

眼前には禍々しくて直視すれば吐きそうなほどの殺気を放つ強大な黒龍が居る。

「おい、なんとか言ったらどうなんだ?こんなにも美しい作品ができたんだぞ?まさか貴様も我が作る最高の作品のひとつになりたいというのか?ならばー」

「おい、お前…なにを、した?」

「雑種の分際で質問に質問で返すとはなんと愚かな。だが、いいだろう。この寛大すぎる我が特別に答えてやろう。簡単だ、闇魔術「███《解読不可》」を行使したあと、蘇生魔法「███《解読不可》」で命だけをつなぎ錬金術「███《解読不可》」を用いてとても美しい肉塊を生み出したのだ!」

「お前…許してなるものか!糞蜥蜴!」

「あ゛?糞蜥蜴だと?ゴミカスの雑種の分際でこの我に歯向かうなど言語道断、無知蒙昧にも程がある!貴様、我が肉塊コレクションに入れる価値もないわ!死ね!」


サイラルが反応するより早く黒龍じゃりゅうの手から放たれた槍がサイラルの心臓を貫きそのまま背後の壁に突き刺さり、サイラルは死んだ。


と、思いきや今度はサイラルの視界が白色に染まる。



「今度はなんだ!ここはどこだ?!おい!」

「落ち着きなさい、ここは天界、ここではあなたがいた次元と異なる次元のために、時間が進まないのです。慌てる必要はどこにもありません、落ち着きなさい。」

「賢なるものサイラル、あなたは理不尽にもこの世界、ラルジュにおいて最も凶悪で残忍な邪龍、〈ギン〉に出会い殺されてしまいました。」

「…どういうことだ?つまり、私は今死んでいる?のか?」

「そうです。ですが、個人的な怨み、そしてあなたを死なせる訳には行かないのです。」

「は、はぁ。ちなみにあなたの名前は?」

「私は全次元神統括神 ルーナ。ルーナと呼びなさい。」

「ということはあなたは偉大なる神の力で私をここに呼び寄せた。ということですね?」

「ええ、理解に時間がかかるかもしれませんが、その通りです。そして今からさらに混乱させてしまうかもしれませんが、あなたを救うため、あなたに私から力を与えます。それらはとても強大でこの世界、いやあらゆる次元のことわりから外れた力です。」

「…どんな力を私にくださるのでしょうか?」

「ひとつは不死鳥の力。100度まで死んでしまっても再び生き返ることができます。そしてその度にあなたは記憶を保ったまま人生を1からやり直すことになります。」

「ひとつは超回復。あなたの体力や怪我、細胞や精液、あらゆるものの回復の効率をあげます。」

「ひとつは記憶保持。不死鳥の力で生き返ることができるとはいえ老化は起きます。その際に大事な記憶を失ってしまわないようにこの力を授けます。」

「ひとつは統制王。村の再建、又は国を作る際有用です」

「ひとつは転生。これは1度しか使うことが出来ない。しかし1度使えば別の次元の別の世界の人間に転生し生きることが出来る。しかもあなたの世界と繋がりを保ったまま。」

「これらをあなたに授けます。」

「なるほど、ルーナ…の言う通り理から思いっきり外れている。」

「どう使うかはあなた次第。でも、どうか力に溺れて闇に堕ちたりしないで。」

「あぁ。」

「それでは、あなたを元の次元へ戻します。」

「そうか、ではまたいつか」

「ええ。」


サイラルの視界が再び赤色に染まる。

その赤色はギンが放った槍がサイラルの心臓を穿いたためだ。

しかし当の本人は痛みも感じずギンを見据えている。


「な、貴様、我の滅殺の槍を受けて起きながら生きているだと?どうやらただのゴミカスではないようだな。」

「何喜んでんだ糞蜥蜴。蜥蜴は蜥蜴らしく地面を這いつくばってろゴミ。」

と、罵詈雑言を垂れ流しながら驚くほど速い手刀でギンの羽を両断するサイラル。


「GYAAAAAAAAA!な、貴様その怪我で何をしやがった!」

「うるせぇ!」

そう言い放ちながらサイラルは槍の持ち手へと向けて歩き出す。


「な、何をする気だ!何故お前は胸に刺さった槍をものともせずこちらへと向かえる!キモイぞ!」


ギンが驚く程の光景。それは正気の沙汰とは思えないほどの奇行。

胸に刺さった槍を引き抜くのではなく、歯を食いしばって持ち手の方へと歩き出したのだ。

そして数秒後、サイラルは槍から開放される。


「貴様に冥土の土産だ。神よ、厄災を穿ち地上に平和を齎せ。〈θεία κρίση〉」


「n」


サイラルが放った魔法によりギンの身体は瞬きより速く消滅した。





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