雪に落ちる恋

神木駿

落ちた音は無い

 白く降り積もる雪は音を消す。


 歩く音も誰かの喋り声も、恋に落ちる音も。


 空に舞う雪をあなたの瞳は捉えている。


 舞い散る雪に頬を撫でられ、その瞳は少し閉じられた。


 その物憂げな瞳は私の中にあった何かを落とさせる。


 音もなく落ちるそれは雪の中に溶けていく。


 息をすることも忘れていた私の頬を雪は優しく撫でていく。


 その冷たさに驚いて、吐き出された息は白く舞う。


 届きそうで届かない。もどかしい距離にいるあなたは何を見つめているのだろう。


 あなたのことは何も知らないけれど、1つだけわかるとしたら、あなたも雪の中に落としものがあるということだけ。


 どこに落としたかは音のない世界では分らない。


 その瞳にはほんの少しの希望と諦めが混じっている。


 探しものは見つかっているけれど、手にすることができないもの。


 今の私とおんなじだ。


 あなたに声を掛けようにも深々と降る雪がその想いまで吸い込んでしまう。


 かじかんだ手には冷たい感触だけが何度も募る。


 その手をあなたに…


 出来るならあなたの手を…


 だけどあなたが伸ばすのはきっと私ではない別の誰か。


 私と同じようにその手は空を彷徨うことになるのだろう。


 それならいっそ、私のもとに…


 そうはできない。


 分かっている。私も同じだから。


 誰かの手を取りたいのじゃなくて、あなたの手を取りたいのだ。


 やがて雪は積もっていく。それでもあなたの手を待ちづつけてしまう。


 そうすることしか出来ないのだから。


 音のない白銀の世界が私たちを冷たく包み込む。

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雪に落ちる恋 神木駿 @kamikishun05

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