死装束

「僕と結婚してください」


「……はい!」


ある日のこと、僕は君にプロポーズして婚約した。

そしてもうすぐ結婚式をする予定だった。



「危ない!!!」


「えっ……」


ドンッ、と鈍い音がして周囲から悲鳴が上がった。

咄嗟に瞑った目を、恐る恐る開けた。

停車したトラックの少し先に、倒れている君を見つけた。

新品なんだと嬉しそうに自慢していたクリーム色のロングコートに、血が飛び散っていた。


「おい!起きろって!」


「ご……めん……ね……」


そのまま君は永眠してしまった。

あれだけ楽しみにしていた結婚式をすることなく、突然この世を去った。



「この度は心からお悔やみ申し上げます」


「あらまぁ、来てくれたのね」


「えぇ、大切な人も守れない愚かな奴ですけど、一応婚約者ですからね」


本当は来るつもりなんてなかった。拒絶されて追い出されるかと思うと、怖くてたまらなかったから。


『相手の信号無視が原因ですって』


『まだ若いのに、可哀想よね……』


参列者のひそひそ話が聞こえてくる。

わざと聞こえるように言っているのか、それとも聞こえていないと思っているのか。



白いウエディングドレスを着るはずだったのに、今目の前にいるのは白い死装束を着た君。


「もう隣で笑えないとしても」


それでも僕は彼女と結婚したい。

ずっとずっと、一緒にいたい。

物理的な距離は離れていても、心の距離だけは近くにあって欲しい。


だけど、後を追うのはなんか違う気がして。


「いつまでも、君を愛すると誓うよ」


そう言って僕は、眠ったままの君へ、誓いの口づけをした。

もちろん、他の参列者には変な目で見られたし、葬儀会社の人にも注意された。


だけど、これでいい。

本当は僕も白いタキシードを着たかったな。

もっと好きって言っておけばよかった。

それがちょっと心残りだよ。



そういえばさっき、君が少し笑ったように見えたのは、気のせいかな。

それとも、僕の誓いに答えてくれたのかな。



もし結婚式をする前に、相手の方が帰らぬ人となってしまったら、君はどうする?


誰だって、明日生きているとは限らない。

だから伝えられるときに伝えなきゃね。

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キスのカタチは人それぞれ 翠柘。 @suzaku_0805

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