ネット配信限定ドラマ お嬢様の街旅 



 お母さんとお父さんの目を盗んで、あたしは城を抜け出す。だって、お城にいるより、街にいる方が楽しいんだもの。

 街にはあたしが見たことのない果物が並んでいるし、靴を磨いているおじさんがいたり。何よりも人がたくさん賑わっているのが、好き。それにお城の中は、静か過ぎてつまらない。

 でも、外は違う。たくさんの人がいて、楽しそうにしているのを見るのが幸せに感じる。 

 それに、外でもお友達が出来たし。そのお友達の家のドアを叩く。

「あ、マーシャちゃん。きょうもお城抜け出したの?」

「そうよ。あたしくらいになると、お城を抜け出すなんて簡単」

「あはは。相変わらず元気だね。さ、中に入って? でも、洋服はもっと地味な方がお城の人たちから見つかりにくいよ?」

「え? そう? 今日は地味なドレスを選んだつもりだけど」

「それで地味なんだ。でも、良いなマーシャちゃん毎日綺麗なドレス着られて」

 あたしの地味な青い服に、アリスは羨ましそうに見る。そんなに羨ましいのかな?

 あ、そうだ。だったら、

「あたしのお洋服とアリスのお洋服、交代してみる?」

 あたしってば名案だわ。このドレス、アリス着たがってるみたいだし。

 だけど、アリスは慌てながら首を横に振る。

「だ、駄目だよマーシャちゃん。そんな綺麗なドレス、私なんかが……」


「そんなことありません」


 突然アリスの家のドアが開き、キラキラなドレスを着た人がいた。たくさんの護衛を連れて。

「お、お母さん⁉︎」

「マーシャ。出掛けるなら、私に声を掛けてからって毎日言ってるでしょ? 護衛も付けないで危ないわよ?」

「ご、ごめんなさい」

「うん、素直に謝れて偉いわ。そんな偉いマーシャにお母さんからお願い。お友達のアリスちゃんで良いかしら?」

「は、はい。アリスです」

「そう。良い名前ね。そんなアリスちゃんにマーシャのお洋服を着せてあげなさい。大丈夫、用意してあるから。メイドの皆さん、それではお願いします」

 お母さんが手を叩いて言うと、どこにいたのかお城のメイドさんが現れて、アリスにあたしのクローゼットに入っていた洋服を着せる。その間、僅か2秒。さすが我が家のメイドさんだわ。

 そして、白いドレスを身に纏ったアリスは鏡で自分の姿を確認し(メイドさんが大きな鏡を持って)、目を輝かせている。

「これが、私」

「そうよ、これが貴方よ。本当に綺麗だわ」

「で、でも良いんですか? 私なんかが」

「駄目よ、そんな落ち込んじゃ顔しちゃ。アリスちゃんは綺麗だし、何よりもマーシャのお友達だ……


 ***


「もう〜。いいところだったのに〜」 

 まながお母さんと一緒に、タブレット端末でドラマを鑑賞していると、広告が入る。この配信サイトは加入していても、広告がなくならない。

 ——これで毎月約二千円。高いな〜。

 まなの母親は、値段設定の割にはデメリットが大きいことにため息。解約したくても、娘のお気に入りのドラマで出来ない。他の配信サイトに、このドラマは移籍して欲しい。

 それと、ドラマをまなが気に入っているから言えないが、


 ——文字ばっかりで、ノベルゲームみたいなドラマだな〜。眠くならないのかな?


 ——私は、眠たくなる。つまらなくて。


 


 

 

 







 

 


 

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