第61話 引き返せない入口
ガッバアァッ!!!
驚くべきことに、滝が、水の溢れ落ちるてっぺんから、水しぶきの轟音を立てて、真っ二つに割れ始めたではないか。
まるで、滝つぼの中から滝の頂上へ向かって、一本の透明な巨大な柱が、ニョキっと生え出たかのようだ。
そして、滝がカーテンのように二方向に別れ、水流によって隠されていた、滝の内側が明らかになる。
「これでやっと、ダンジョンの入口が見えるようになったわい。最初にここを見つけた大昔の人は、よっぽど頭がよかったんだろなぁ」
ああ、滝によって隠されていた奥地には、いかにも洞窟の入口らしい、橙色の岩で象られた扉があるではないか!
古びた岩でできた輪郭とは反対に、扉の内側には、まるで今日昨日作ったかのように新鮮で綺麗な、青白い膜のような霧のような、不思議な幕が下りていた。
「……すごい。滝の裏に、ダンジョンが隠されていたなんて」
「大抵のダンジョンは、すぐに見つからないよう、周囲の環境に巧みに溶け込んで、擬態している。自然や人工物にかぎらず、その方法は様々で、まるで生きているんじゃないかと思わせるほどに、その環境に適した姿形になるんだよ。
まあ、ダンジョンってのは、戦士たちがレアアイテムを求めて駆けずり回る以前に、モンスターたちの巣でもあるからな。外敵から存在を察知されないよう擬態するのも当然だし、不法に侵入してきた異物を排除しようとするのも、奴らにとっては、道理に適っているってわけだぁ」
なるほど。ダンジョンにそのような性質があったとは、思いもよらなかった。もしかすると、渓流で出会ったゴブリンどもは、ここの住人なのかもしれない。
目の前のダンジョンに挑むのは、己の限界に挑む挑戦であると同時に、奴らへの下剋上、リベンジッ! でもあるのだ。
「さて、ダンジョンへ入ったら、いよいよあんた一人っきりの単独行動になる。なにがあっても、ダンジョンの外にいるワシにはわからない。もちろん、助けることもできん。扉は厳重で、許可した者以外は、入ることも扉を叩くことすらも許されないんだ。どんな効力をも弾き返してしまう。ワシの魔法とスキルをもってしてもだ。そうしてダンジョン内の聖域は、常に神聖さが保たれているのだよ」
「許可した者っていうのは?」
「一度、ダンジョンを踏破した者だ。アイテムの取り逃しがあっても、二度は同じダンジョンに入ることができない」
なるほど、ゆえに正一爺は、このダンジョンに干渉することが許されないというわけか。
「基本的な説明はこのくらいにしておいて……ほかに何か聞きたいことはあるか? 後で思い出しても、もう手遅れだぞい?」
「その、一度ダンジョンへ入って、途中でリタイアすることって、できるんですか」
「無理だわい。ダンジョンへ潜ったら、死ぬか、ダンジョンボスを撃破してクリアーするか、この二つ以外に辿る運命はないのだっ!」
ああ、なんという残酷さ。決して退くことを許されない、鬼畜難易度のマゾゲーじゃないかっ。
俺は、岩に縁どられたダンジョンの入口を睨む。
あの青白い靄の内側には、きっと、俺が見たことも聞いたこともないような、危険極まるモンスターたちが、ウヨウヨと蠢きひしめき合っているに違いない。
これまでに幾人の新米戦士たちがペロリンと呑み込まれ亡き者にされてきたか数知れない。
なんだか、目の前の扉が、パックリと開いた巨人の口のように見えてきて、俺は途端に怖くなってきた。
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