第47話 足音
命の危険に晒され、川に揉まれて、あげく鼻血を噴き出して……ああ、ゴブリンのせいで、まったく散々な目に遭わされた。
あんな思いは、もう御免だ。奴らと二度と出会ってたまるか。俺は、満杯になったバケツを両腕で支えて、奴らと遭遇しないための方法を模索しながら、ウンショウンショと山を登った。
結局……なんのアイデアも思いつかぬまま、訓練場にたどり着いた。
「おかえりぃ。二度の登山は、さすがにハードだったかのう?」
まともに返す元気もなく、俺は、防火服のギラギラした銀の光を浴びながら、水槽にバケツ二杯分の水を注いだ。
ザッバアァァ……。
水面は、半分よりもすこし上の位置。笹船に乗った蝋燭の火は、明らかに胃酸の方へ近づいている。
このペースでは、本当に間に合わない。やはり、ゴブリンに襲われたのが致命傷となったのだ。念のため、
「ステータスオープン」
ーーーー
神田陽介
種族:人間
レベル:15
攻撃力:37
防御力:30
素早さ:31
固有スキル<状態:発動>
精霊遣い
<効果>
ただよう精霊の姿を見ることができ、彼らの持つ特殊効果の恩恵を受けることができる。精霊のエネルギーを浴びることによって、常に幸運を引き寄せることができる。
特殊スキル一覧
なし
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ステータスに変化はなし。つまり、どう頑張ったって、これ以上、登頂スピードを上げるのは、物理的に不可能なのだ。
どうしよう……。このまま打開策を見出すことができずに、無残にも水槽は爆発してしまうのか。
俺は、暗澹たる気持ちを抱えながら、空のバケツを二個持って、ふたたび山の森へ駆けた。
頭のてっぺんからつま先まで、全身土まみれ。まるで歩く土偶みたいな、おそろっしい姿で、俺は三度目の山を登っていた。
極端な話、俺から発せられる匂いと音を完全に消し去ることができれば、ゴブリンにとって、俺の存在は幽霊も同然、居ないに等しいのである。
匂いは、全身に土を塗りたくり、森と同化することで、なんとか誤魔化すことができそうだ。
だが……音の方は? 一枚一枚、落ち葉をどかしながら歩くわけにもいかないし、風船のように空を飛んで進むわけにもいかない。サクッ、サクッと落ち葉を踏みしめる、乾いた足音だけは、どうしようもないのだ。
これでゴブリンに俺の存在を知られたらば、今度こそ命はないかもしれない。運良く切り抜けても、大幅なタイムロスは避けられない。
だがしかし……後退することは、タイムリミットが許してくれない。ああ、そう分かっていながらも、先へ進む他ないのだ。
なにか良いアイデアが、空から降ってくればいいのになぁ。
すると、次の瞬間。俺の目の前をサッと、透明なビニール袋のような、奇妙な物体が横切った。
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