第44話 レベルアップ

 引き寄せて、十分に引き寄せてから……今だっ!

 

 なんの予兆もなしに、ガバッと振り返る。……いた。前のヤツだ。ゴブリンは、小豆みたいな瞳を動揺に揺らして、ハダカデバネズミのような顔を、驚愕に引きつらせている。

 

 全身を真っ青にして! あ、それは元々だったか。

 

 突然のことに、ヤツは電撃ショックを喰らったみたく、その場で立ち尽くしている。

 

 その、刹那のチャンスを、俺は見逃さなかった。

 

 ボクサーみたいに素早く腕を伸ばして、ゴブリンの両手を掴む。湿ったイボカエルのような、なんともいえない嫌な感触が手に伝わる。


 抵抗される前に、反対方向に身を捩じって……ゴブリンの両腕が宙に浮いた。見た目通り、体重は軽い。いけるっ。いけるぞっ!


 そのまま勢いよく、外へポイッ! 

 ゴブリンは、なにがなんだか分からないまま、しなしな手足をもがきながら……岩の下へ消えていった。

 

 バケツ二個の無事を確認してから、おそるおそる岩の外を覗いてみた。

 

 ゴブリンは、鮮血を流して、グッタリ打ち倒れていた。鋭利な石の上に叩きつけられ、おそらく即死だったのだろう。


「ふう……やった。ゴブリンに勝った」


 俺は、とてつもない安堵感に包まれ、その場でゴロンと寝ころんだ。 


 夕焼けを帯び始めた空が、疲弊した俺の心に、すうっと染み入ってきた。


 <ゴブリン一体の討伐を確認>

 

 すると突然、「ステータスオープン」の言葉を唱えていないというのに、視界中央に、例の青白い文字が浮かび上がってきた。


 <レベルが15にアップしました>

 

 おおっ! 一気にレベルが5も上がった。

 

 しかも、こんな短時間で、こんなにも少ない労力で。やはり、モンスターを狩るのは効率が桁違いなのだっ。

 

 だがしかし……せっかく異世界に転生したというのに、はじめてのモンスター討伐が、まるで日曜サスペンスのような、地味な方法になってしまった。

 

 まあ、いいだろう。これからもっと強くなって、バッサバサとモンスターを狩り倒していけばいい。

 

 どれどぉれ。ステータス値は? こんどこそ大声で叫ぶ。


「ステータスオープン」



ーーーー

神田陽介

種族:人間

レベル:15

攻撃力:37

防御力:30

素早さ:31


固有スキル<状態:発動>

精霊遣い


<効果>

ただよう精霊の姿を見ることができ、彼らの持つ特殊効果の恩恵を受けることができる。精霊のエネルギーを浴びることによって、常に幸運を引き寄せることができる。


特殊スキル一覧

なし

ーーーー



 ようし。なかなか良いステータス値ではないか。自然、脳内麻薬ドーパミンがドッバドバと放出される。


 いや、こんな岩の上で、上昇したステータス値を眺めて恍惚としている場合ではない。いくら最大の脅威が排除されたとはいえ、タイムリミットが刻々と迫っていることに、変わりはないのだ。


 俺は、足元のバケツを二個、手に取ると、岩を立ち去り山の斜面をズルズル下り始めた。

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