第23話 勇者の装備ゲット?
次の瞬間、意思とは無関係に、次々と視界に青白い文字が浮かび上がってきた。
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【勇者の大剣】
攻撃力:300
効果
勇者の称号を得た者に贈られる、奇跡の剣。その斬撃は、大地を真っ二つに割り、空の雲を散り散りに引き裂いたという。
<推奨レベル:80>
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「……ゆ、ゆ、勇者の大剣? 攻撃力が300だって!?」
俺は『太い鉄棒』の驚くべきその正体に、驚嘆の声を上げざるを得なかった。
目の前の、錆び切った鉄棒みたいな、この鉄屑が、勇者の扱う最高級の剣だって?
信じられない……。だが、何度目をこすっても、視界に表示された情報に変わりはなかった。
つまり、この錆びた太い鉄棒は、本物の勇者の大剣。
ああ、まさかこんな貴重なものが、正真正銘のガラクタと一緒に、暗い蔵の底に放り投げられているなんて。
訝しながらも、確認のため、俺は足元に転がった他のガラクタたちにも手を触れていった。
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【勇者の胸板】
防御力:250
効果
勇者の間で代々引き継がれてきた、秘匿の防具。その鎧は、一万本の槍で突かれても傷一つもつかない、奇跡の耐久性をもつ。
<推奨レベル:85>
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ああ、錆びた色の鉄板が、勇者の装備だっただなんて……。
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【勇者の腰当て】
防御力:50
素早さ:200
効果
勇者専用に鋳造された、神秘の腰当て。羽のように軽い不思議な素材でできており、素早さと防御力という、背反する二つのステータスの両立を実現した。
<推奨レベル:80>
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この巨大な釘で打ち留められた鉄屑は、素早さのステータス値が200の腰当て……。
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【勇者のネックレス】
攻撃力:?
防御力:?
素早さ:?
効果
世界に二つとない、太古の碧玉が埋め込まれたネックレス。その価値の高さゆえに、勇者以外への譲渡を認められていない。装備する者によって、そのステータス値は、変幻自在に上下する。
<推奨レベル:90>
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足元のガラクタを一通り眺め終わると、俺は、感嘆ともつかぬ深いため息をついた。
「ワシのお古でよければ、全部使って構わんぞ。どうせもう使うこともない」
正一爺は、吐き捨てるようにそう言う。
「こ、こんな貴重なアイテムが、どうしてこんな場所に……」
「言っただろう。ワシは、すでに勇者を引退した身。あの頃のことを、本当は思い出したくもないのだ。……イテテ、そいつらを見ていると、胃がキリキリ痛み始めたわい」
ここへ来てしまったことを後悔するかのように顔をしかめると、正一爺は体を縮こませながら、装備品から背を向けてしまった。
……勇者時代の苦い思い出を、当時の品々と一緒に、ここへ封じ込めてしまったのだろうか。
時の流れから置き去りにされたような、この暗い蔵の底に。
すっかり小さくなった正一爺の姿を見ていると、俺は、なんだかいたたまれない気持ちになってきた。
「あの……なんかすみません。俺が変なことを言ったせいで、嫌な記憶を無理に思い起こさせてしまって」
正一爺はくるっと振り向くと、
「なに言っておる。約束は約束だ。ワシに出来ることならば、なんでもする。その信念はまったく揺らいでおらん。むしろ謝らなければならないのは、みっともない姿を見せてしまった、このワシの方だ」
パチンと両の手で頬を叩く。ようしっ、としわがれた調子のよい声が蔵に反響する。
「気持ちを切り替えて……では早速、訓練の準備に取り掛かるぞ。錆びれた装備品を持って、蔵の外へ集合っ!!」
正一爺は先とは打って変わり、ぎらぎらとした覇気を放つ精悍な顔つきで号令すると、そそくさと蔵の外へ出ていった。
蔵には、レベル1の新米戦士と、すっかりくたびれてしまった勇者の装備が残された。
俺は、貧弱な筋肉をフル稼働して、ヨイショヨイショと重い鉄の塊を蔵の外へ運び出しはじめた。
「なにをもたもたしておる。時間は命っ! 勇者の鉄則だっ!!」
「は、はいぃ……」
ようやく装備品をすべて搬出し終えた俺は、ゼエゼエと息を切らして、額から滝汗をボタボタ垂らしながら、正一爺の説教を真正面から喰らっていた。
「すべて運んだら、こんどは装備品の掃除だ。いくら高級アイテムとはいえ、それでは、その真価を発揮できん。自分で使うモノは、心をこめて自分で手入れをする。戦いに挑む者の基礎的な心得だ。そうすることで、己の心も同時に磨かれ、勇者たるものの精神へ、一歩近づくだろう」
熱血のスパルタ教師みたいな言い草に、俺は思わず身を震わせた。
「それを持って、今から近くの川へ移動するぞ。川でお洗濯っ! 男は黙ってタワシごしごうしっ!!」
「でも、正一爺さん、もうすぐ日が暮れてしまいます。夜になると、川の水も冷たくなってしまいますし……」
傾き切った太陽は、いまにも地平線に吸い込まれそうで、残り火のような淡い光を輝かせている。
「心配せんでええ。ほら、見ておれ。……ンポッ!」
正一爺が細い人差し指を、煙のように振りかざす。
すると、突如として目の前に、怪しげな火の玉が現れた。
握り込んだ拳くらいの大きさをした火球は、真っ赤な光をメラメラと燃やしながら、ふらふらと二人の周囲を飛び回る。
「すごい……」
橙色の温かな明かりに照らされながら、俺は思わず感嘆の声を漏らす。
「一応ワシとて、元は天才ともてはやされた勇者だ。このくらいの下級魔法は、朝飯前なのだ」
正一爺の作り出した火球は、俺たちを先導するみたいに、頼もしく先のあぜ道を明るく照らし出してくれる。
俺は、勇者の装備品を、だらしなくズルズルと引きずりながら、歩み進んだ。
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