第5話 十一人目の転生者
頭を下にして、ビュウビュウ物凄い風を受けながら、俺は、先の見えない白銀の世界をどこまでも落ちていく。
まるで、重力よりも強い、なんらかの目に見えない力で、地面へ引っ張られていくかのようだ。
不思議と恐怖はなかった。
俺は、雲の中を泳ぐ魚。風を切ってスピードに乗って、むしろ心地いいくらいだ。
すると、ふと俺の脳裏に『ある言葉』が浮かび上がってきた。
『ある言葉』は、たちまち喉元まで移動し、ウズウズと俺の発声を待ちわびる。
俺は唱える。
それは、生まれたての小鹿が誰に教わったわけでもないのに歩き方を知っているように、本能的な、ごく自然な行為だった。
「ステータスオープン」
ーーーー
神田陽介
種族:人間
レベル:1
攻撃力:3
防御力:3
素早さ:3
固有スキル<状態:>
精霊遣い
特殊スキル一覧
なし
ーーーー
蛍光色の文字が、視界中央にブワっと現れた。
なるほど、これが俺のステータス。
異世界では、戦闘能力等がすべて数値化され一目瞭然なのだ。
読み終わると、自然と視界の文字は消えていった。
こんどは、命一杯に首をひねり、あたりの様子をうかがってみる。
先ほどまで同じ地面の上に立っていた人たちが、上下左右に散らばり、なすすべもなく落下している。
一人、また一人と、雲に絡み取られるようにして、姿を消していく。
不幸な死に方をした人たち。もう、彼らともお別れだ。
はたして、この景色の向こう側には、一体どんな世界が広がっているのだろう。
……異世界。そこにあるのは、動物の耳を生やした異形たちが練り歩く王都か。
あるいは、いきなり入り組んだ洞窟のダンジョンの入口に飛ばされるかもしれない。
そこに待ち受けるのは……危険なモンスターたち。
虚弱な俺は、未知のモンスターが蔓延る危険な世界で、渡り歩いてゆけるだろうか。
唯一の頼みの綱は、この胸にしまい込んだ『精霊遣い』という訳の分からない謎のスキル、たったそれだけだった。
これから始まる異世界生活に思いを馳せていると、とつぜん俺の真横に、つと人影が現れた。
俺よりも少し速いスピードで落下していく人物。
背を向けていて、顔は確認できない。
だが、しかし……その人物が着ている服装は、嫌でも見覚えがあった。
俺が通う高校の制服。紺のブレザーに紺のズボン。
つまり、いまの俺と全く同じ服装。
ああ、信じられないことに俺は、先の集団の中で、ある一人の存在に完全に気づけないでいたのだ。
おそらく、数人が重なって立つことで、ある方向が死角になっていたのだろう。
そこに、彼はじっと、息をひそめるかのようにして立っていたのだ。
下方に消えていく間際、影の人がくるっと身をひるがし、ついにその容貌を露わにした。
薄い眉、ナイフで切ったように鋭い目元……。
ああ、間違いない。
十一人目の異世界転生者は、麦伏貴勅だった。
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