その20(夢)

 その晩、奇妙な夢をみた。

 

 自分は、とある小さな村の村長の家に生まれた双子の姉妹の妹だった。双子といっても姉と自分は見た目が全く違っていたが、二人は仲良くすくすくと成長した。姉妹は遊んでいるうちに、それぞれが少し不思議な力を持っていることに気づいた。美しい姉は少し先の未来を見通す力、自分は傷を癒す力であった。二人がそのことを両親に告げると、最初は子供の空想だろうと思っていた両親も、次第に二人の力を認め、特に姉の未来予知のちからに頼るようになった。

 ある日、美しい姉がその春に飢饉が起こるという未来を見る。厳しい冬を越え、やっと食べ物に恵まれる春になっても、一向に植物は芽吹かず、動物すらもあたりを通らないというものだった。村長は姉の予知を信じ、普段よりも多めに食べ物を備蓄するよう村人に命じたが、蓄えた食料も足りなくなり飢え死にするものが出てきた。村長は美しい姉に、いつになったら食料が手に入るようになるか見てくれと頼むが、全ての未来が見えるわけではない姉はわからないと困ったように首を横に振った。

 そこで、村長は裏山の奥に住む祈祷師に助言を求めることにする。村長は息子を使いとして祈祷師の元へ送ると、3日後に彼は


心が清らかな乙女を神に捧げれば、村は助かる


と神のお告げを授かり、村に戻ってきた。飢饉で苦しむ小さな村には、乙女は僅かしかいない。村の重役を集め会議をしてみるが、適当な候補が定まらぬまま夜が明けてしまった。太陽が高く上るころ、夜通し会議をしている者たちのために、妻がささやかな物しかできないがと、わずかばかりの芋の入った汁物をふるまった。しかし、皆この芋汁を家の子供のために持って帰りたいと、手を付けるものがでない。それを見ていた村長は、このままでは埒が明かないと、村長は自分の末娘を神に差し出すことを決断する。自分の可愛い娘と村人の命を天秤にかける、とても辛い決断ではあったが、このままでは村が滅んでしまう。 

 決定を聞いていた姉妹の姉は泣いて妹を助けるよう父にすがった。その時、それまではただ目の前で過ぎていく様子をみるだけだったのに、ふと自分に妹の感情が流れ込んでくる。自分は不思議な力があるけれど、姉ほど村の役にはたってこなかった。傷を癒せる力があっても、飢えまで癒すことはできない。神に乙女を捧げるしか道がないのなら、自分が行こう。そして気付くと、泣いて父にすがる姉の手を取り、


自分の命で大切な家族が助かるなら、喜んで神の元へ行く


と姉をを説得していた。納得がいかない様子の姉をなだめながら、母が涙ながらに用意してくれた巫女の衣装を身にまとい、神が住むと言われる池に向う。本音を言えば、死ぬのはとても怖い。だが、大切な姉を失って生きていくのも怖かった。2つの恐怖で身動きが取れない自分は、みこしに運ばれるまま、神の贄となるしかないのだろう。


きっと神様のところは良いところに違いない。


そう自分に言い聞かせながら、池までの道を運ばれていると「チリン」とどこかで鈴の音が聞こえた。

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