その12
朝食を終えて、今日はこの村に関する本を読もうと、書庫に向かう。道すがら、村長さんから声をかけられた。
「おはようございます。体調の方はいかがですか?」
「おはようございます。お陰様で、かなり良くなりました。今日は書庫を拝見させていただこうと思っています。」
そう、答えると彼女は嬉しそうに微笑みながら、
「それは良かったです。午後に少しお時間を頂けますか?」
と聞かれた。特に予定も無いので、勿論構わないと答えると、嬉しそうに村長さんは会釈して書斎の方へ向かっていった。
書庫に入ると、中は他の部屋より薄暗く、うっすらとお香の匂いがした。何か灯りがないかと入口付近を探ると、電気のスイッチを見つける。明かりがつくと、本が壁一面に綺麗に収納されている光景が広がった。一部には巻物のようなものも見える。毎日丁寧に掃除されているのか、塵一つない書庫の右の奥の方には、綺麗な和紙で装飾された本が数十冊収められていた。左奥にはデスクとデスクライトがあり、そこで書物を読めるようになっている。
「そういえば、持ち出し禁止だったな。」
独り言をいいながら、村の歴史が書かれていそうな本を数冊選び出し、左奥のデスクに向かった。1冊目に手にした本は村の神話で、著者は書かれていなかった。その本の内容は簡単に言えば次の様な内容だった。
村同士の争いが激しかったころ、両親を失った双子の姉妹がこの地に逃げてきたそうだ。病気の妹を庇いながら、命からがら何も持たずに逃げていた姉は、喉の渇きを覚え水場を探していると、真っ白なスイレンが咲き誇る池を見つけた。池の水をそっとすくってまずは妹に飲ませると、病で酷かった咳がぴたりと止み、青白かった顔色も頬がほんのりバラ色に戻っている。驚きながら自分もその水を飲むと、不思議と空腹も満たされ活力がわいてくるように感じる。また、身を清めようと沐浴を行うと、妹をかばい負った傷がたちどころに治ってしまった。
姉妹はこの池には女神様がいるに違いないと、そこに祈りのための祭壇をたて、祭壇のそばで生活をするようになった。この池は冬でも不思議と暖かく、一年中スイレンが枯れることはない。激しい村同士の争いから逃げて、傷つきこの池にたどり着いたもの達を、姉妹は介抱し助ける。助かった人たちは女神と姉妹に感謝し、池の周辺に住みだした。そうして次第に、池の周辺には数軒の民家が出来上がり、村ができた。最初にこの池を見つけた姉妹は、姉はこの村をとりしきる者として、妹は神の巫女として、女神様と村のために尽くしたそうだ。この村は池の女神様の加護のおかげで、よこしまな思いを持ったものは決して村に近づくことができない。だから争いが起きることも、争いに巻き込まれることもなく永遠の平和が約束された場所だ。村の住人であるためには、池におわす女神様に感謝をし、清く正しく生活を営まなければならない。また、年に一度、桜の咲く季節に女神様に感謝をする祭りを執り行うことで、病や怪我等からも救って貰える。女神様に逆らうような行動や、村の掟に背く者は女神様からの罰が下り、二度と村人として迎え入れてもらうことは叶わない。
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