その7

 目が覚めると、また、あの天井が目に入る。夢の内容は覚えていないが、何故か今日は、天井が懐かしく感じた。ゆっくりと起き上がると、腕には点滴がつながれていた。朝の挨拶をする小梅の声がし、私は彼女を部屋に招き入れる。彼女が用意してくれた温かいタオルで顔と身体を拭き、手渡された肌着を着ると、襖の向こうて待機しているであろう小梅に声をかける。彼女はすっと襖をあけると、紺色の小紋を持って部屋に入ってきて、慣れた手つきで着つけてくれた。布団をしまうと、廊下から手渡された朝の膳を運び入れてくれた。

「回復なさって本当に良かったです。2日間も目を覚まされなかったので...。本日の朝食は軽めにしてありますが、体調が良いようでしたらお昼ご飯は普通にお出ししますね。」


 小梅からそういわれ、自分が2日間も寝込んでしまっていたことを初めて知った。仕事の疲れもあったのだろうか。あのまま遭難していたら、今頃は村長さんの言う通り山の一部になってしまっていたかもしれない。

「今日は先生からお許しが出たら、診察の後でこの屋敷を案内いたします。このお屋敷はお庭が本当に綺麗なんですよ!」

 お膳を下げる時に、明るい笑顔で小梅が提案してくれた。そういえば、この屋敷に来てから小梅が笑ったのを見たのは、これが初めてな気がする。屈託のない笑顔が彼女には良く似合うなと、思いながら

「ありがとう。楽しみにしていますね。」

と彼女の笑顔につられて、笑って返事をした。


 朝食を終えてから、

「そういえば、ここに来てから自分の荷物はそのままだったな。」

と思い、薬師寺先生が来るまでの間に荷ほどきをする。ナップザックの隣には、自分が着ていた洋服が綺麗になって、丁寧にたたまれて置いてある。

「あれ、なんでこれに着替えなかったんだっけ...」

そう独り言をつぶやきながらナップザックを開けると、充電の切れたスマホと携帯用の充電器、その他にハイキングの道具一式がそのまま残っていた。だが、何故か一緒に入れていたはずのお守りが見当たらない。

「どこかに落としたかな...」

悲しい気持ちになりながら、もう一度くまなく探してみるも、見つからなかった。

「芦田様、薬師寺先生がお見えになりました。」

そう襖の向こうから小梅の声がして、慌てて荷物を鞄に戻し入ってもらう様返事をした。

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