その3
村長さんのいうとおり先生の腕はいいようで、処置はあっという間に終わった。いつの間にか部屋から出て行っていた村長さんが、処置が終わると部屋に少女を一人連れて部屋に入ってくる。
「こちら、芦田さんの身の回りの世話をいたします、小梅です。何かこの屋敷で解らない事や困った事があったら、小梅にお申し付けください。」
紹介された少女は、高校を卒業したかしていないぐらいの年齢に見える。少し日に焼けた肌は艶やかで美しく、ショートカットがとてもよく似合っていた。彼女が着ているのは桃色の袖のない2部式の和服の様な形で、濃いあずき色のエプロンをしている。
「はじめまして、小梅と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。しばらくは脚がお辛いでしょうから、どうぞ不便な事があればなんでもお申し付けください。」
そう少女に言われ、他人に世話をされたことがないので少しドギマギしてしまう。
「こちらこそ、よろしくお願いします。芦田由貴です。」
そう、返事をするので精一杯だったのがなんとも情けない。
「また明日の昼頃に一度様子を見に来ますね。急変があれば、いつでも呼んでください。それではこれで、私は失礼します。」
薬師寺先生がそう言って部屋を出て行ったので、慌ててお礼を述べる。村長さんも、
「どうぞ、ごゆっくり休まれてくださいね。」といって、部屋から出て行った。
直ぐに、梅が部屋に大きな湯を張った桶を運び入れてきた。今日は湯舟は我慢してほしいと先生から指示があったようで、小梅が説明しながら身体を拭けるようにと暖かい湯につけたタオルを絞って、用意してくれる。寝巻も用意されており、身体を拭いて着替えを手伝ってくれるという彼女に丁寧に断って、着替えが済んだらまた呼ぶからと、小梅に一端部屋を出てもらった。
少し冷えていたからだが、暖かいタオルで拭けばさっぱりとして心地が良かった。桶に張られた湯も、少し薬草の香りがして頭がスッキリとする。用意された紺色の抽象的な花模様の浴衣に袖をとおし、着替え終わると小梅を呼んだ。
直ぐに小梅が入ってきて桶とタオルを廊下に下げると、布団の準備をしてくれた。ふと、廊下から別の女性の声が聞こえたかと思うと、
「急でしたのでこんなものしか準備できず申し訳ないのですが、もしよかったら召し上がってください。」とおにぎりとお味噌汁の乗った膳を、小梅が廊下にいる人からうけとり、差し出してくれる。
「お食事が終わりましたら、下げに参りますので、このボタンを押してお呼びください。またその他にも御用があれば、遠慮なくお申し付け下さい。」
そういって、彼女は小さなスイッチを私に手渡した。何だか病院のナースコールみたいだなと思いながら、スイッチを受け取る。
「ごゆっくりとどうぞ。」
と言って小梅が襖をしめると、急に気が抜けてお腹の虫がうるさく鳴り響いた。
痛い脚をかばうような、不格好な体制でお膳に向かう。小梅の持ってきてくれたおにぎりは、不思議な味付けの何かの佃煮が入っていた。甘じょっぱい味付けに加え、少しピリッとした辛みと、ほんのりと甘い香辛料の香りがする。
「この香りって何だっけ...」
そう思いながらも、お腹がすいていたのであっという間に食べてしまった。おにぎりを食べて一息ついたところで、まだ湯気の上るお味噌汁をゆっくりと味わう。こちらはお豆腐とネギ、そして生姜が入っていたが、少し香ばしいような不思議な出汁だった。
お味噌汁でお腹が温まると、安心したのか今までの疲れからか眠気が突如として襲ってくる。お膳を返さなきゃと思い、呼び出し用のボタンを押すと、直ぐに梅が善を下げに来てくれた。小梅が部屋から出ると、私は布団に倒れこむように入りそこで直ぐに意識を手放した。
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