105.ユヴェンハザ・カンパニー

「ケッ、ユハナス。なんでお前とまた顔を会わさなければならないんだ……」

「ふん。ムカつくのは僕の方だって同じさ、アルテム君」


 さて、僕らがカルハマス星系(今の呼び名はアンゼルリング星系だけど、僕にとってはカルハマス星系なんだ)の、惑星アーナム(先に同じ。惑星エルデン)の宇宙港で、自分たちの船を泊めようと港を眺めると。


 何か知んないけど、クワィエット・システィマ号が既に停泊していて。

 僕らが、リジョリア・イデス号で港につくと、アルテム君とシトネさんが居て。


 アルテム君がいきなり僕を罵ってきたんだ。


「なんでいるのさ? アルテム君。宇宙中央議会政府の議長だろ? 君は」

「それはそうだが。俺はユヴェンハザ・カンパニーの総帥も兼任しているんだ。根拠地のここに訪れて、何がおかしい。いや、何が悪い!」

「……別にいいけどさ。僕は、おじいちゃんの所に行かせてもらうよ」

「抜け駆けをしてジジイの印象を良くする気か?」

「何言ってんの? アルテム君。おじいちゃんに会うのに、抜け駆けも何もないだろう?」

「あるんだよ! 今回に限ってはな!!」


 変な事を言う、アルテム君。変な奴。


   * * *


 おじいちゃんの横には、キリアンさんと。懐かしのあの秘書さんが居た。


「どうぞ」


 秘書さんが、僕とアルテム君にコーヒーを出し、シトネさんに緑茶を出す。


「あ、どうも」


 僕はそう言って。この応接室のソファーに腰を下ろして、コーヒーをすする。


「ふん。ジジイ、相変わらず珈琲の趣味はいいな」


 アルテム君もコーヒーを啜りながらそう言う。


「飲んだな? 話を始めるぞ。アルテム、ユハナス」


 そういうおじいちゃんに、僕とアルテム君は頷いた。


「ユハナス。アルテムが、ユヴェンハザ・カンパニー総帥の座を。この儂に返上してきた」

「え?」


 僕はそれを聞いて、アルテム君を思わず見た。

 アルテム君は、渋面を作っていたけれど、頷いた。


「民間企業を経営している場合じゃねぇんだよ、俺は。宇宙中央議会政府の議長としての役割が、やたらと忙しくなってきているんでな。俺が思うに、商売は面白いが、政治ってのは下手したらそれよりも崇高な代物かもしれない。そう思いなおしてな。ユヴェンハザ・カンパニーは手放すことにした」


 更に、コーヒーをすするアルテム君。そのちょっと惜しいことしてるかな? と言った顔が印象的だった。

 そして、おじいちゃんが言う。


「というわけでだ、ユハナス。儂は後任にはお前が適任と思ってな。いろんな世界と、ある意味無節操に人脈を繋げる、お前のコミュ力はある意味とんでもない。それだけ顔が広ければ、商売にも困らないだろうしな」

「……うーむ」


 僕が唸ると、おじいちゃんとアルテム君が。意外そうな顔をした。


「……ジジイ。ユハナスの奴、舞い上がらないぞ?」

「うむ、アルテム。これは意外だった。ユハナス」


 アルテム君と話した後に、僕に質問をぶつけてくる、おじいちゃん。


「ユハナスよ、ユヴェンハザ・カンパニーがお前の手に入るのだぞ? 嬉しくはないのか?」

「いや、別に。そこまで嬉しいとは思わないよ、おじいちゃん。誇らしい事ではあるけれどね」

「何故だ?」

「僕は、商売の醍醐味も、富の味も。もう知っているからね。自分の稼ぎでそれを手に入れられるだけの実力も財産もあるし」

「……これは、儂がしくじったか。実は、ユハナス。儂はお目を見くびっていた。本家のアルテムには、及びはしない分家の子。そう思っていたのだ」

「だろうね、おじいちゃん。でも、僕は分家の子に生まれてよかったよ」

「ううむ……。断るのか? この話。しかし参ったな……」


 僕が、ユヴェンハザ・カンパニーを継ぐことに、そこまで乗り気ではない事を知ると。おじいちゃんはなんだか困った顔をした。


「ユハナス。やってはくれんか? こと商売に限って言えば、お前の腕はアルテムよりも既に上だ。下手をすれば、若かったころの儂に匹敵する」

「……僕は、分家の子だから。ユヴェンハザ・カンパニーの重要性はそこまでには感じられないけれどさ。おじいちゃんにとっては、大切なんだね?」

「うむ。無論だ。引き受けろ! ユハナス!!」


 おお、おじいちゃんがごり押ししてきた!

 こうなったら、仕方ないか。


「わかったよ、受けようじゃないか。この話、受けるよ」


 僕がそう言うと、おじいちゃんはホッとした顔をして。

 アルテム君は、まぁちょっと愉快ではないという顔をしたけど。


「ユハナス、お前は商売に特化しろ。俺は、アマテラス神を祀る、この主物理宇宙の政を司る。役割分担だぞ? 俺が必要だと言ったら、資金を回して来いよ?」

「ああ、アルテム君。そういう事か。要するに、アルテム君は。政治に専心したくて、僕にユヴェンハザ・カンパニーを押し付けようと思った。そういう事だね?」


 僕が、悪戯っぽくそう言うと。アルテム君もまた、悪戯っぽい表情を浮かべた。


「ああ。俺は、お前が利用できないなら。お前に対して便宜を図るほどには、お前のことが好きじゃないからな!!」


 とかとか言いつつも、右拳を前に出してきて。

 男のあいさつを求める、アルテム君。


 僕は、自分の右拳を出して、そのアルテム君の右拳と軽くぶつけた。


 そして、僕とアルテム君の口から同時に出た言葉は。


「「これから頼むぜ、相棒!!」」


 という言葉だった。

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