103.公平な政治を目指す王

「おお、来たか。ユハナス」

「うん、レウペウさん」


 さて、シャルシーダ星系。惑星シャルドハイムのシャルドハイム城で。

 王になって政治を行い始めた、レウペウさんと会って話す。


「どうですか? 施政というものをやってみて」

「これは何というか、ひどく大変だな。民を喰わせなければならないが、ただ富の蜜漬けにすればいいというものでもない。産み出す力のまだないものは、それでもいいのだが。己の力に誇りを持つ者共は、ただ甘やかしたような政治をしいていると、見事に叛乱の気運を高めてくる。それぞれに誇るべき為すべき仕事を与えねばならん」

「贅沢の蜜漬けを。しているだけでは済まないというのはまた、シャルシーダ星系民は誇りが高い」

「うむ。だが、故にこの星系の人文文化は高いレベルにあるのだが。まあ、とにかく。富を作り、新事業を始め、シャルシーダを発展させていくことを怠ったら。俺の首も簡単に飛ぶことになるだろうな」


 そういって、手刀を軽く自分の首に当てる、レウペウさん。その顔がしょうしょうおかしかったので、僕はちょっと笑ってしまった。


「その様子を見ると、レウペウさん。大変だとは言いつつも、上手くやれているようですね」

「そうだな……。悪くはない。ああ、そうだ、ユハナス」

「ん? 何ですかレウペウさん」

「いま、マティアの奴が。この星系の貧困対策委員会のトップをやっているんだがな」

「貧困対策委員会って? 王族がそんな事を……。流石にマティアさんは目の付け所が違いますね」

「うむ、だが。それで最近、何かあったらしくてな。煮詰まっているんだ」

「……ふむ」

「会って行ってやってくれないか? 今日はあいつは戻っている。このシャルドハイム城内の自室にいるよ」


   * * *


「マティアさん、ユハナスです。お久しぶりですが……」

「……? あら、実子持ち童貞君じゃない」

「なんですか、マティアさん。その自然に仇為した存在みたいな呼び名は?」

「だってあなた。人工物のAIナビドールを妊娠させて、子供まで作ったんでしょ? やっぱりアンタはまだ童貞よ」

「あー!! もう!! いいですよ、それで!! 実子持ってますけど、僕は童貞ですっ!!」


 自室の中で、ティーセットを使って紅茶を淹れながら。ずっと昔から変わらない、僕の童貞いじりをしてくるマティアさん。でも、この人。本当に落ち着いたな。


「で、さ。にいから聞いてると思うけど。わたし、今仕事で煮詰まってるんだ」

「貧困対策の施政ででしょ?」

「うん。どこまでやった物かなってさ。貧困に関する部分は、非常にデリケートで。国の予算を割いて助けないとならない、本当に飢えているものもいれば。働きたくないから貧困の殻をかぶっているものもいる。本当に飢えているものは、助けないといけないけれど……。働きたくないという我儘を言っているものは、働かせないといけないのよ」

「……うーむ」

「どうやって、見分ければいいとおもう?」

「いいんじゃないの? 見分けないで」

「はぁ?!」

「マティアさんはさ。自分が、身体も健全で精神も健全だったら。働きたくなるでしょ?」

「当たり前じゃない。自分の人生に生き甲斐が欲しいもん」

「それがそうじゃない人たちがいるってことは。それ自身がまたある種の貧困だと僕は思うんだ。体は動く、特に病もない。そういう人たちが、働きたくないと思う事。それ自体が、重大な疾病なんじゃないかとおもうんだ」

「ふーむ……むむ。なるほど」

「そういう人たちは、食べさせておけばいいさ。身体に活力を漲らせるのは、やはり食だから。まあ、金銭給付は最低限でいいと思うけどね。それが多すぎると、真っ当に働いているよりもそちらの方が実入りがいいから、本当は働きたいし、働けるのに働くことを諦めちゃう人もいるかもしれないからさ」

「……要するに、どうすればいいのかしら? お願いアイデア! ユハナスキャプテン!!」


 僕に向かって、手を合わせるマティアさん。

 あー、なつかしいや。昔は良く、こんなふうに。リジョリア・イデス号のブリッジでアイデア出し合ったなぁ、うん。


「そうだね、アレでいいと思うよ。無料食堂」

「無料食堂? って、よく被災者や貧困者救済のために、被災地とか貧困国で建てられることがある、一時的な炊き出し食堂の事?」

「うん。でも、それを一時的でなく。永続的に施設として置く」

「うーん……。それって、貧困者を甘やかすことにならない?」

「うん、すごく甘やかすことになる」

「でしょ? よくなくない?」

「いや、いいんだ。ちょっと考えて、マティアさん。子供ってさ、親に甘やかされ続けると、どうなると思う?」

「ん? そりゃま、そんな事自分で出来る、って反発する……、あ、そっか!!」

「うん。シャルシーダが貧しいなら、こんな社会設備は夢のまた夢だけど。シャルシーダは豊かだから、これくらいのものはあっても別に社会全体が貧困になったりはしないでしょ?」

「そっか! そうね、ありがと、ユハナス君!! で、更に聞くけどさ」

「ん? なになに、聞こうじゃないですか、シャルシーダ王妹、マティア様」

「もう、バカ童貞。その食堂を、運営するための。料理職人たちを統括する、腕の立つ板前調理人。思い当たる?」

「……そりゃま、いるでしょ。思い当たる顔が一人しかいない」

「だれ?」

「忘れたの? あの鬼板前職人だよ」


   * * *


「ユハナスさん、アンタ義理深いな」


 キタシマが、シャルシーダの宇宙港の民間宇宙船ゲートから降りて来て。

 僕とマティアさんに再会して、まずは。

 僕らと握手して、そう言い放った。


「いや、こと料理に関しては。僕らの中での最高の人材は貴方だからね」

「おいおいおい!! 嬉しいこと言ってくれる!! 俺涙でそうだぜ……!」


 腕でどうやら本当に出て来たらしい涙を拭う、キタシマ。


「ねえ、キタシマさん。契約では、このシャルシーダ星系での貧困対策用無料食堂の調理部門を任せることになるんだけど……。言ってしまえば、そんなに華々しくないわよ? 喰い詰めた者たちに振舞う料理を作ることになるんだから」


 マティアさんがそう言うと。涙をぬぐった後に、キタシマは。迫力のある笑顔をマティアさんに向けた。


「それは来る前に聞いた。だが、俺は。本物の料理人だからな。贅に肥えた美食家よりも、食うや食わずで、一生懸命に生きていて。かえって、料理に感謝すること重い貧困者の飯を作る方が、はるかに尊い仕事だと思うんだ」


 ああ、ヤバい。カッコいい。キタシマは、誇り高い料理人だった。最初からそうだったし、今でもずっとそうなんだ。


 マティアさんと、キタシマに。

 シャルシーダ星系の貧困対策の要点を任せることにして。


 僕は次は、アンゼルリング星系。


 旧・カルハマス星系に向かう事にした。

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