101.巨神との決戦
「うっ……! っは!! ウィル・フォース機関、一時充填!! 時間をグラビトンミサイルで稼ぎますっ!!」
うわっ!! イデスちゃんが、軽くゲロ吐いたっ!!
そうだな……、それぐらいは、当然だ。
もう、僕とアルテム君。リジョリア・イデス号とクワィエット・システィマ号の共闘戦線による、対巨神アマテラス戦は。
数時間もの長丁場になっている。
イデスちゃんは、その長丁場の途中で。
何度も息を吐きながら、小休止しながら。
巨神アマテラスにウィル・フォース・レーザー砲やウィル・フォース・キャノンの砲撃を浴びせ。
かなり、その活動力を奪っているが……。
イデスちゃんの疲弊もすごい。汗はだくだく、全身の筋肉が激しい運動をしているときのように張りつめ。
時折、痙攣を起こしてイデスちゃんを苦しめる……!
『ユハナス!! ここまで巨神アマテラスの活動量が落ちればいけるっ!! 俺が奴の胸部コアにある、シトネを取り込んだあの肉球体を! ツイントロンビームで切りひらいて、中に潜り込み。アームドアーマーでシトネを引っぺがして持って帰る!! お前は、今から突っ込む俺のフォローに回れ!!』
おのれアルテム!! 相変わらず上からの命令口調を崩さない。お前の船は、逃げ回ってるだけでほぼ何もしてないじゃないかよ!! 戦ってんのは、僕の方! いや、僕の妻のイデスちゃんだぞ!!
「はいよ!! 絶対しくじるなよ、このクソエリート!! うちの奥さんの奮戦を無駄にしたらな!! 死んでも、お前に墓は無いもんだと思えっ!!」
僕がそう言うと、通信の向こうから大爆笑が返ってきた。
『ユハナス、お前優しいな? 驚きだぜ、今までは俺の墓を作ってくれるつもりだったとはな!! まあ、任せろ! 本物のエリートと言うモンは本番でしくじらないクソ度胸が売りなもんなんだよ!! いくぞ、システィマ!!』
その声がしたと思ったら、クワィエット・システィマ号が突然消えた。短距離転移だな!!
と思っていた通りに、次の瞬間に。巨神アマテラスの胸のコアの真ん前に、クワィエット・システィマ号が出現!!
『システィマ!! ツイントロン砲を放てっ!! 胸部コアの肉壁を切り開くんだっ!!』
その、アルテム君の発言は。
クワィエット・システィマ号によって現実化した。
巨神アマテラスの胸部コアが大きく切り開かれ、クワィエット・システィマ号は。
その中に、侵入していった!
* * *
「あれか!! このコア内部の中央!! あそこに、シトネがいるぞ!!」
さて、巨神アマテラスのコア内部に潜り込んだ、アルテムとシスティマの乗る、クワィエット・システィマ号であるが。
コアの中央部には、幾重もの粘膜に守られたシトネが、意識を失っているかのような様子で、液体らしきものの中に浮かんでいた。
「俺のアームドアーマーで出る。あの粘膜を切り裂いて、シトネを奪い返してきてやる!」
「気を付けて、アルテム。何が起こるかわからないわ!」
「ここまで来て! 臆して何になる! 死ぬなら、今までの事でとっくに死んでいるっ!!」
そう言葉を残して、アルテムはアームドアーマーに乗り、クワィエット・システィマ号から出撃。コアの中央にいるシトネに近づいていく。
『……アルテムよ』
そこで、アルテムはビクッとした。頭の中に響く、アマテラス神の声!
「なんだ、アマテラス神よ!」
『貴様は、何をしに来た? 命が惜しいわけではなさそうだ。で、あれば。とっくに逃げ去っているだろうからな』
「……てめぇを、止めないと。俺の責任になる。見たところ、テメェの力が存分に振るわれたら。このソリアル星系が簡単に全滅しかねないからな……!」
『ふむ。責任感。そういうわけか? その割には、少女の心には責任を持たない男だな?』
「? 何を言っているんだ?」
『貴様は、そのシトネを憐れむべきだ。幼き頃より、生贄にされる為だけに育てられ。その最後の、愉しき時間ですら。お前のような不実な男の甘言に踊らされ、舞い上がった。あの馬鹿で純情で、愚かなれど可愛い愛しき娘を!!』
「おまえは……? アマテラス、お前はそれでも神か? 人の心など、儚きものに。重点を置くのか? 世の流れは、物資の流れ。それを制する事によってそれを奪い合う人々の心をつかみ……」
『それは心ではない。生存のための欲だ。命が生存するわけは、心を産むためにある。そして産んだ心を慈しみ、育むためにある。生存の欲求を満たす為に、心を捨てたならば。それはすでに畜生にも劣るものであり、心を持つ人間、霊長としての資格を失う行動だ』
「では……? 私の行ってきた行動は? 人を充足させるために、人の欲を満たすために。物資によって人の欲を煽り、情報を読んで興味を操り。それによって富と為し!! それが、人の心を高める世に対する奉仕だと……。思っていた私は、何だというのだ!!」
『……哀れな。貴様も、また。哀れな子供であったか。富というものは、理の力持つ神と、魔の力持つ魔人共。その双方の力を受けた人間が。物質化したものに過ぎぬ。運営なす富を司るものが考えるべきは。それによって人を操ろうとする事ではなく、ただ。流れる水を巧みに配分して民草に魔力と理性を添える雨雲のようなもので良かったのだ……』
「そんな……。ウソだと言え、アマテラス!! 俺は、私は……!! それだけの為に、数知れぬ罪を……!! 心を押し殺して、心に壁まで設けて!! 犯し続けてきたのだぞ!!」
『教訓とせよ。それでいい。罪を犯したものが、先に進む方法は。罪に対する反省を教訓と為すこと。その反省と教訓を得さえすれば、後悔などという沼に浸ることはない。今後もし、貴様が後悔することがあったら。必ずそこから反省と教訓を引き出すのだ……。起きよ!! シトネ!!』
アマテラス神の声が呼ばわると。粘膜の中の液体に浸っていた、シトネが。
真っ直ぐにアルテムのアームドアーマーの方を向き、目を開き。
両手を差し伸べて……。
『待っていた、アルテム。貴方は、やはり。私を助けに来てくれた……!!』
そのような霊声を響かせてきた。
(いや、俺は。お前を、アマテラス神の中から引きずり出せば……。アマテラス神が現世介入の力を失うと思ったから……)
秘かにそう思った、アルテムであったが。
彼は、胆を据えた。
そうだ、世の中が、心を育むためにあるのならば。
嘘から出た誠で、今の自分に最大限の好意を向けてくれている、シトネと。
共に心を育んでいくことが、己の為してきたことの、贖罪となるのでは。
それこそが、後悔から反省と教訓を引き出すことそのものでは。
そう考え直し、口を開いた。
「ああ! お前を奪い返しに来た!! 帰ろう、シトネ!!」
そう言って、アームドアーマーのビームソードで、巨大な粘膜のつぼみを切り裂き。中からシトネを救い出すと。
アームドアーマーのコックピットに乗せた。
『では、ひと時のさらばだ。十年後にまた会うことになるだろう』
アマテラス神は、巨神アマテラスは。
そういうと、拡散する気体のように。徐々に姿を薄くして。
跡形もなく、消えてしまうのであった。
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