100.鎮めの儀

「ぐっ!! システィマ……! シールドは……、あと何秒張れる?」


 こちらからのツイントロンビーム砲が、全く効果を現していない様子を見て取ったアルテムは。

 クワィエット・システィマ号を操船して、幾重にも襲い掛かってくる巨神アマテラスの猛攻を躱して、その間にエネルギーを使ったシールド装備の消費が限界まで近づいて来たと報告してきたシスティマに聞いた。


「およそ、30秒間分しか。シールドエネルギーは残っていません、アルテム」

「……ブチかます、か」

「? どういうこと? アルテム」

「ああ、システィマ。もう、俺は終わりだ。野心が、デカすぎたんだ。バカだよな、本当に……。こんな凄まじい力を誇る、恒星の神たちを。己の力で、制御できると思っていたんだから。本当に、バカだ」

「……アルテム。貴方は、野心が大きいから、輝く。そういう種類の人よ」

「ふん……、ありがとうよ、システィマ。ついでに、俺の最後まで。付き合ってくれ」

「何を? するつもりなの?」

「巨神アマテラスの懐に飛び込んで。ペア・アニヒレーションドライブのオーバーエクスプロージョン機能を……」


 アルテムがそこまで言いかけたときに!!


『ダメだ、アルテム君!! それはダメだっ!!』


 クワィエット・システィマ号の通信に突然、ユハナスの声が飛び込んできた!!


「てめぇ!! ユハナスっ!! 俺の船の音をどうやって聞いているっ?!」

『こちらには、音波を自由に操る風の魔導師がいるんだ!!』

「魔導師だと? はん! イカレたか、ユハナス!! この科学万能の世で、そんな面妖なものが力を示せるかっ!!」

『とにかく!! アルテム君は死なせないっ!! 巨神アマテラスは、僕らが相手にするから!! アルテム君は、その間に逃げてよ!!』

「……っ!! ざっけんなてめぇ!! この俺が、アルテム・ユヴェンハザが!! 自分のミスの始末を他人に任せるとでも思うのかっ!!」

『じゃあ、どうするんだよ!! 死ぬ気かよ!!』

「……ユハナス、てめぇ。さっき、アマテラスに叩き込んだ、あの兵装。あれはなんだ?」

『ウィル・フォース・キャノン。だけど』

「理力砲、か。という事は、あのトイロニじじいが言っていた、お前の船には機械知性体の上の、機械理性体がいるって言う眉唾話も。本当だったわけだな」

『……』

「よし、本来だったら、貴様如きの力は借りないこの俺だが!! ユハナス、従兄弟のよしみで、お前にも活躍するチャンスを与えてやるっ!!」

『……上から目線だなぁ……。幾らユヴェンハザ本家の直系跡継ぎだからって』

「ああ? やるのか? やらねぇのか? はっきりしろ、ユハナス!!」

『君ね? アルテム君? 人にモノ頼むときの態度。習わなかったの?』

「ああ~ん?!」

『んあ~ん⁉』


 ユハナスとアルテムが眉間に強烈なしわを寄せて、通信で諍っていると。


 ユハナスの頭をイデスが。

 アルテムの頭をシスティマが。


 それぞれ、スリッパで叩いた!!


「バカなことやってる場合? アルテム!! 幾ら敵の攻撃が小康状態だからって!! 次の手を考えないといけないのに!!」


 システィマが、アルテムを叱りつけ。


『ユハナス様!! バカやってないで、さっさと共闘態勢をとるのです!!』


 と、イデスがユハナスを叱りつける。


   * * *


『ユハナス。作戦はわかったな?』


 通信の向こうの、尊大な態度のアルテム君。こんな奴に頭下げてなるもんか、だけどさ。

 一応、話は聞くし、共闘もしてやる。僕はそう考えた。


「ああ。僕らが、ウィル・フォース装備で巨神アマテラスを抑える。その間に、アルテム君は巨神アマテラスの胸部に突っ込んで、取り込まれている巫女のシトネさんを救い出す。それで、アマテラス神の現世介入能力は失われる。これでいいんだね?」

『上出来だ。分家の劣等生の息子にしては呑み込みがいい』

「あんたなぁ? いつか毒盛るぞ?」

『ふん、好きにしろ。だが、とりあえずは。ここを生き残ることだ!!』

「はいはい。じゃ、行くよ。アルテム君!!」

『おう!!』


 さて、僕らのリジョリア・イデス号と、アルテム君のクワィエット・システィマ号。同型船二隻が。


 同じ目的のために、動き始めた!!


   * * *


『シトネ、シトネ』

『……だれ?』

『私は、アマテラス』

『そう。私は……。貴女の中に、取り込まれてしまったのね』

『そうとも言えるが。そうでないとも言える』

『? どういうこと?』

『一度取り込んだものを。分離させるのは、この私にはさして難しい事ではない』

『……』

『シトネ。お前は、私の中に取り込まれる時。激しい抵抗と拒絶をした。それは何故だ?』

『アマテラス様……。怒られるかもしれませんが、私は……』

『聞こう。何を望んだ』

『人として。生きること。それです』

『人の生とは、消耗するのみで辛いものだぞ?』

『それでも……。私には好きな人が……います』

『……何やら見える。先程、お前を道具としてしか思わず。切り捨てたあの男の顔。それほどに、好いているのか?』

『……はい』

『仕方のない……。お前の願いを、叶えてやってもよいのだが……』

『え?』


 シトネは、炎の球の内側にいるような視覚イメージの中で。

 例えようもなく気高く美しい姿と面差しを持った。

 アマテラス神の真の姿を見た。


『お前の怒りは、莫大なものだ。それを、私は戦闘力に転換し。あのアルテムという男にぶつけよう。それをあの男が凌ぎきれば……』

『はい……』

『お前の気持ちは、あの男に伝わり』

『……』

『我が怒りも鎮まる』

『はい……』

『これは、鎮めの儀、だ。これを為せねば。あの男は死ぬことになる』

『鎮め……?』

『そう、鎮めだ。心持つ者を怒らせた以上。それは、相手の怒りを酌み、真摯な気持ちで詫びねば。それは為されない。では、やるぞ、シトネ!! 戦うのだ!! 容赦なく!!』

『はい!! アマテラス様!! あのアルテムを屈服させて見せます!!』


 アマテラス神の優しい接触に、シトネは完全に恐怖を消し去った。

 あとは、「鎮めの儀」をアルテムに行わせるだけだ。


『女の子を怒らせると、怖いんだぞ!!』


 シトネがそう叫ぶと。

 巨神アマテラスは、また攻撃を再開した!!

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