96.祀られたるものは

 太陽神大祭が始まった。

 神式の装飾を施された、アームドアーマーたちが。

 様々な儀仗儀礼を行い、宇宙空間に打ち水をし。その水は即座に蒸発する。

 遺伝子操作技術で産み出された榊の巨木から伐り出された、大きな杖を振りながら。


 アームドアーマーたちは太陽神を祀る、作法の舞をする。


「……初めて見るけど……。何かどこか、妖しさのような物を感じるね。太陽神大祭って」


 僕は、モニターに映し出されるその光景を見てそう言った。


「太陽神大祭が妖しいというよりも……。見る人間の『妖しさを感じる部分』を抉り出すためのモノなのかもね、あの舞は」


 神聖寺院惑星ニレディアの出身であるために、神事行事の意味に対する造詣が深いシオンさんがそのように言う。


 雅楽が音の伝わらぬ宇宙空間に流されているらしく、その演目の音は、モニターから流れてくる放送ではちゃんと空気に乗って流れてくる。

 そして。


 その雅楽が、盛り上がり。

 極まったと思われる時。

 モニターには映らなかったが、ブリッジから外に見える。


 恒星アマテラスから、何かが出てくる様子が見え!


「……始まったか」


 マルテロがそう呟き、僕らはブリッジの窓に張り付いた!!


   * * *


「来たな……。アマテラス神……。その化身か」


 アルテムは呟いた。


 奉納される巫女の。最大限に生贄の美しさを表す衣装。

 それを纏ったシトネは、恒星アマテラスから出てきた、巨大な姿に。


 腕を拡げ、胸をそらし。

 全力で受け入れる姿勢を取っている。


 不思議なことに、そのアマテラス神の化身の姿は、カメラを通したモニターに映ることはなく、この場に居合わせた者たちが「肉眼」で見ることでしか。

 認知が出来ていない状態のようだ。


 アルテムの目に映る。肉眼に映るその姿は。

 例えようもなく、美しく清らかな女性。

 ただし、それは腰から上だけだ。

 腰から下は、古書物に残っている古の陰陽五行の大都の守護聖獣、スザクの物とよく似ている。

 朱に染まる孔雀こと、スザクである。

 その、孔雀の首が生える部分から。

 アマテラス神の本来の姿であると思われる、女性の身体が生えている。


 それが、アマテラス神が。

 宇宙空間に、大きく翼を広げ。

 華美なる長い尾をたなびかせながら。


 まだ相当に距離のある恒星アマテラスから飛び出してきて、こちらに向かって飛んでくる。


   * * *


「すごい……。すごく、神々しい……」


 僕は呆気にとられた。こんな神々しい存在の前では、極度の尊崇心を抱くか、いじけて拗ねるか。そのどちらしか。人間はとれる態度がないかもしれない。

 そんな事を思った。


「……いかんな。このままでは、惨事が起こるぞ」


 ?! 何を言うんだ? マルテロは。

 突然、そんな事を言い始めたマルテロに、僕らは視線を集める。


「あの娘だ。巫女の娘。今は平静を装ってはいるが……。闇のジルガドに次いで、心の領域に近い風魔導使いの私には感じられる。凄まじい恐れを、心の中に秘めている……。このままではいかん!! イデス君っ!!」


 いきなり、イデスちゃんに声をかけるマルテロ!


「はい、なんでしょうか? マルテロ様?」

「この、太陽神大祭は台無しになるが。潰すぞ、この祭りを!!」

「……そうですか。あの巫女様は、そこまであのアマテラス神を恐れていると?」

「そうだ。このまま大祭が続けば。アマテラス神とあの巫女が接触すれば。その恐怖心を糧に、一瞬の間一心同体となるアマテラス神と巫女が暴走を始めるかもしれん!!」


 シオンさんも、僕も。それを聞いて、自分の表情を引き締めた。


「本当なんだね? マルテロ。それは」

「こんなことでウソをついて何になる?」


 僕の問いに答えるマルテロ。

 次はシオンさんが聞く。


「鎮める手は、あるの? マルテロ。巫女と同一する前でも。あのアマテラス神は相当に手強そうよ?」

「あの形は、戦闘形態では無いようだ。それに、霊性は極めて高いがそこまで極度の暴力性や戦闘力は感じない。神霊の類に、通常物理兵器や魔導術は極度に徹りづらいが……。この船には、うってつけの武器があるではないか」


 そういって、マルテロはまたイデスちゃんを見る。


「たのむぞ、イデスくん。あのアマテラス神を鎮められるかどうかは、君の頑張りにかかっていると言ってもいい!」


 そうか、『ウィル・フォース』武装装備!!

 通常物理兵器も、魔導術も通じないという、あの神霊アマテラスに!!


 あの、イデスちゃんの理力を用いた武器ならば、通じて。


 それによって、神を鎮め。


 あの巫女をも救うことが出来るかもしれない!!

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