94.太陽神大祭を控えて

「なるほど……。私も昔、客として呼ばれて出た事のある、テラアースの最大の行事。太陽神大祭とは、この神里村の巫女を用いて行われていたのか……」


 神里村での聞き込みやら、シトネの扱われ方。それに、この国の首脳層が生贄の儀の時期が近付くにつれて、村に出入りするようになった様子を見たアルテムは。


『太陽神大祭』


 と呼ばれる、テラアースにおける10年に一度行われる、恒星アマテラスのある宙域の宇宙空間にソリアル星系の軍隊の宇宙艦隊を出動させて行う、儀仗大祭の「内側からの事情」を知るに至った。


「ふむ。大体わかってきたぞ。この神里村の連中は、あの巫女の『精神』を太陽神に捧げると言っていたが。結局のところ、精神なるものは心の宿った肉体という器のつける、実のような物。あの娘、霊性高き巫女シトネに食べさせていた物や読んでいた書物、聞いていた音楽の記録を残していたな、この神里村の神官長は。と、なれば。シトネの『心』の選択が為した、その様々な物のチョイスを。心を持たない生体人形であるバイオドールに取り込ませれば、多少の劣化はする物の、あのシトネに近い『精神に近きもの』の資源の生産は可能ということか」


 薄く笑う、アルテム。彼は、流石にこの神里村に来て。オリジナルの恒星アマテラスの放つ霊性には及ぶことはできないと知ったのだが、それでも。

 アマテラスという神を喜ばせるために、古代から累代続くこの神里村の作法を取り込めば。言ってしまえばプロトタイプ・アマテラスは作れなくとも、生贄の高品質バイオドールを捧げることで、各星系の恒星の霊性を跳ね上げ。云わば量産型アマテラスを宇宙の各地に作り、運営することは可能だと考え始めた。


「だが、な……。極度に多くのリソース……。純度と密度の高い、贅沢な生育物資。それをどうしても、恒星の霊体の『食事になる人形』に取り込ませなくてはならないことが分かってきた……。これは難問だぞ、アルテム。純度密度を高めていくというにしても、万ある物資を一に圧縮するどころでは済まないかもしれない……」


 アルテムは沈考した。

 効率を重視してきた、最重視してきた。その自分の手法の最大の目指すところが。

 このような激しい浪費を為すことでしか、達成できないのかという。

 とてつもない矛盾を感じた彼は。


 突然笑った。珍しくも、からからと。

 心底快さ気に、笑うのであった。


「手に入れるものが大きいからこそ、代償も大きい。この原則は、この世の鉄則。決して変わらないはずだ。さて、アルテムよ、私よ。この浪費を効率よく熟すのだぞ。その先には……。きっと素晴らしい世界が待っているはずだ」


 原っぱの只中であった。アルテムは空を見上げ、夏の空の積乱雲の流れを見つめた。台風が近寄っているのだろうか。風が強くなってきた。


「ふん。自然現象というものも。大概無駄なエネルギーを放つが。今ならわかる。それはきっと、世の中にリソースが豊富な証拠なのだろう。そうだな、何事も。貧しいよりは、豊かな方がいいに決まっている」


 この時、不思議なことに。アルテムは、自分の中の心の壁が壊れたのを。静かな気持ちで自覚した。

 豊かであらんと志すがために、効率という貧しさを呑み込んだにすぎぬ。


 その自分の初心を、取り戻せたのである。


 だが、その気持ちはあったが、アルテムはシトネを用いた太陽神大祭における、『生贄の儀』のデータ取りを敢行しようという気持ちには変わりはなかった。

 どうしても、何としても。


『生贄が恒星に食われる過程のデータ』


 それが必要だと思っていたのである。


   * * *


 最近、イデスちゃんがすごい。


「とんかつー!!」


 すごい、食べる。


「カレーライスー!!」


 さっき、とんかつの皿を片付けて、ご飯を丼一杯食べたのに。

 今度は山盛りカレーライスにスプーンを突っ込んでもきゅもきゅ始めるイデスちゃん。


「ちょっとイデスちゃん!!」

「ふぁんふぇふふぁ? ふぁなふぁ?」

「何言ってんだか分かんない!! とにかく飲み込んで!!」

「んがごっくんちょ。何ですか? あなた。ユハナス様?」

「食べ過ぎ!!」

「消費カロリーを賄えないのですから。仕方ないです」

「見てて怖いよ!!」

「心配いりません。このイデスの胃腸はストロングですわ」


 そういって、またスプーンを動かし始めてカレーライスを食べ続けるイデスちゃん。まあ、なんというか。

 とても美味しそうには、食べているんだけど。

 少し鬼気迫る、女性の食に対する執着のような物も何とな~く。

 感じられる。


「いですままのまね~」


 ミリアムが、イデスちゃんのガツガツ食いに食欲を刺激されたのか。

 カレー味のおかゆをスプーンでカツカツ食べて、にんまりと笑った。


「がっぽ。よく食べましたわ~」


 イデスちゃんはそう言って、麦茶をストローで飲みながらリビングホールのソファーでゴロリと横になる。お腹はポンポンに膨れ上がっている。


「かっぽ、たべた~」


 そのすぐ横に、寝転がるミリアム。


「……あ、寝た。軽いいびきかいてる……」


 シオンさんが、ちょっとビビりながらもそう言う。

 じっさい、ウィル・フォース武装を使い始めてからのここ二週間で。

 イデスちゃんの変化は著しかった。

 宇宙悪霊を撒き餌で呼びこんで、熟練度を上げるために倒し続けているイデスちゃんなんだけど。

 ウィル・フォース装備の攻撃出力が高ければ高いほど、疲労を覚えて。

 よく食べよく眠り。


 そしてなんというのか。

 性欲もすさまじくなってきた。

 僕はほぼ毎夜イデスちゃんに求められて、応えてはいるんだけど。


 何というか、僕の方が衰弱しそうな勢いです……。


 まあ、その鍛錬の甲斐あって。イデスちゃんは日々精気と精力を漲らせるようになり、ウィル・フォース武装の使用限度の上限エネルギー値も跳ね上がり続けているので、良いことはいいんだけど。


「大変ね、いい奥さん持つと。ね? ユハナス君」


 シオンさんはクスクス笑ってる。


 僕は、赤まむしドリンクをゴクゴク飲んだ。

 最近はいつも、これ飲んでるんだ。


 無いと持たないよ……。涙出そう。

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