93.武装熟練度UP

「敵、宇宙悪霊に主砲三連斉射!!」


 さて、キリアンさんの手により、新しい『ウィル・フォース』シリーズの武装を整えた、リジョリア・イデス号。

 ブリッジには、宇宙悪霊を呼び寄せて、新武装の熟練度を上げるための戦闘行為をしているわが妻イデスちゃんの声が響き渡る。


「おー……。凄いわね、ウィル・フォース・レーザー砲の威力。ツイントロン砲では、相当に叩かないといけなかった宇宙悪霊が、ほぼ主砲三連斉射のみで沈黙するなんて」


 シオンさんが、戦闘の様子を見て感心したように言う。


「確かに。大したものだ。いや、この船の魔導回路というか、武装というのか。我らの世界マイテルガルドでも、処分には多少手こずる悪思念をああも容易く鎮めるとは」


 マルテロが、緑色を基調とした派手な貴族服のスカーフを揺らして、キザに言う。重ねて言うが、コイツはキザだ。


「どうだい? イデスちゃん。使い方のコツは掴んできた?」


 僕は、少々額に汗をかいているイデスちゃんに尋ねる。すると。


「ええ、ユハナス様。慣れはしましたし、使いこなせる自信もついて来たのですが……。しかしこれは!!」

「こ? これは?!」


 やたらと声に溜めを作ってから、次の言葉を放とうとしているイデスちゃんに。もはや、機械知性体であった頃の事務手続きじみた冷静さが鳴りを潜め、機械理性体独特の「自立感情を持つ者の押しの強さ」のような迫力を感じて、僕は少々ビビりながら聞いた。


「喉も乾きますし、お腹も空きます!! 何よりとても、疲れて眠くなります!!」


 もはや、この子は。船から出られないこと以外は、ほぼ生身の人間と変わらない。僕はそう判断を下した。


「船をオートナビゲーションモードに切り替えて、休んでよイデスちゃん」


 その僕の言葉に、多少息が上がっているイデスちゃんは大きく頷いた。


「では、悪いですけれど。シャワーをいただいて食事をして。お酒を飲んで眠らせていただきますわ、あなた」

「みりあむーも、おっふろー!!」


 今日の鍛錬を終えて、疲れ切っているイデスちゃんであったが。自分にちょこちょことついてくる娘のミリアムには邪険にせず。


「はいはい、お風呂はいるわよー、ミリアムー」


 そういって、二人でバスルームの方に向かっていくのであった。


   * * *


「さて、イデス君は眠ったが。我ら三者で会議と行こうか」


 照明光量を抑え気味にした、リビングホールで。マルテロがそう口火を切る。


「そうね、マルテロ。アンタが何でついてきているのかは、私にはわからないんだけど。それでも、この間一緒に居て、アンタの情報の取捨選択能力と情報処理能力、更には、現在の情報から先に起こる事の予測能力。そのどれに対してもアンタの能力が凄まじいことが分かったわ。その、明敏な頭脳で先を読んでよ。私たちが目下、その行動を読まないといけない、あの宇宙中央議会議長。アルテムは次には何をしようとしているの?」


 シオンさんが、真剣な視線で。狡猾軽薄な色を浮かべているマルテロの目を見つめる。


「ふっ……。お褒めにあずかり、面映ゆい。ミス・シオン・カデュス」

「アンタのキザな作法なんかに興味ないから。早く」

「これはこれは。では、本題に入ると致しますか」


 両手を上に向けて、これは参ったとおどけて見せるマルテロだったが。

 口を開いて述べ始めた。


「現在、宇宙の中央部。ソリアル星系、首都惑星テラアースに所在する宇宙中央議会の会議場ではあるが。アルテムは、そこの議会に休養届を出して何か月も休んでいるそうだ。そして、惑星テラアース上で動き回っている」

「そりゃそうでしょうよ、マルテロ。議長って言ったら、多忙なものよ?」


 マルテロの語り出しに、シオンさんが思ったらしいことを言うと。


「おかしくはないか? 逆にだ。議長たるもの、議会の中心に常にあって、軽々しく動くべきではない。そういう考え方もあるのだ。動き回ることは、部下に任せてもいい」

「……そう言われれば。そうね」

「という事は、アルテム自ら動かなければならないことがあるという事。そうなる」

「いちいち尤もだけど。で?」

「うむ。そして、その上の条件として。アルテムは、惑星テラアースからは全く外に出ていない。惑星上で動き回っている。ということは、あの惑星テラアースの内部に、何かの秘密があり。それを探しているかもしくは究明しようと。しているという事も考えられる」

「勿体ぶらないで、結論言え!!」


 シオンさんが、勿体ぶったマルテロの会話に軽くキレる。


「ふん。簡単に言えばこうだ。アルテムは、惑星上に命が産まれた理由を知った。それどころか、宇宙最古の生命を産んだテラアースでの命の発生の理由を知ったことにより、主物理宇宙での最古の命の発生の理由を知った。とでも言えるか」

「……そんな……。命に、理由なんてものが。産まれるにあたっての理由なんて……、あるのマルテロ?」

「まあ、自由論者からしてみれば残念なことにな。マイテルガルドにすら、命が産まれる理由があるのだ。そのマイテルガルドより発した、この主物理宇宙に命が理由なく生まれるわけがない。だが、悲観するにあたらずだ。命は自由ではないが、役割を持つ物であり、その役割に沿っていれば、心の快楽と心の平安。その双方が得られる」

「その、命の理由って?」


 シオンさんが、何かとても疲れたような表情になったので。


「マルテロ。まだ時間はあるんだ、僕らがテラアースに辿り着くまで。その話は、道々にも聞かせてくれると助かる。とにかく、貴方の推測では。アルテム君が何かをするとしたら、それは惑星テラアース上で、という事なんだね?」


 僕は、そう聞いてマルテロの言葉を止めた。

 マルテロは、肩をすくめて。

 鼻から軽く息を吹いて笑うのだった。

 そして。


「まあ、良いだろうね。過大な情報を一気に与えると。人は混乱と嫌悪を持ってしまうものだから。私はしばらく黙ろう」


 そう言って、黙って酒を飲み始めた。

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