90.アマテラス・システム
「システィマ。このテラアースの古の陰陽師や、神官ども。その者たちが遺した、恒星が何故エネルギーを発するか。物理エネルギーに限らず、精神エネルギーをも発しているか。それに対する様々諸々の文献の収集。更には分析と解析。そして、システムとしての体系化。出来るだけのデータは揃えたはずだ。解明できて来たか? このソリアル星系の空に浮かぶ、恒星アマテラスのシステムは」
「うん……、アルテム。大体はわかっているの。この宇宙で、重力というものは空間を歪ませる。その歪みから。正体不明のエネルギー源が流れ込んでくる。そのエネルギーは、反物質のような性質を持っていて、こちらの主物理宇宙の物質と激しく反発する。形としては、物質が圧縮されて、核融合を起こして光と熱を放っている状態なのだけれど、ね。その核融合反応から、完全の消化し切らないエネルギーが、恒星を形どっている。核融合反応の燃えカスね、恒星の星体はそれで出来ている」
「水素、ヘリウム、酸素、鉄。諸々だな」
「ええ、そうよ。そして、恒星アマテラスの最大の特徴は」
「「その星体物質に強い霊性を帯びさせること」」
クワィエット・システィマ号で大型モニターをにらみながら、話し込んでいたアルテムとシスティマは。声を同時に同じ言葉を放った。
「そうなのだよな、システィマ。このテラアースを含むソリアル星系が、サイズが小さく、また資源量にも乏しいにもかかわらず。人類発祥の星系であるというだけで、宇宙の中央であれている。と、いうわけではないんだ。このソリアル星系の物質の精度は、宇宙で一番優れている」
「最初の精神物質、オリジン・サイコティス・マテリアルが産み出された場所。そういう記述が昔の資料にも。見られるわ」
「まあ、自己申告でこのソリアル星系の連中が言っていたなら。この私も信じなかったが……。どうやら本当だと思わざるを得ないのだ。このソリアル星系外の宇宙で採れる鉱物とは密度純度、すなわちクオリティが段違いだったからな。精製の手間もいらぬほどだった」
「ええ。でも、アルテム。何を考えているの? 恒星の組成法を調べるだなんて……」
「うむ、システィマ。私は思う。宇宙の至るところに、恒星アマテラスクラスの霊性物質を精製できる恒星があれば。この宇宙は、純度を非常に増し、優れた精神状態で人々が暮らせるようになるのでは。そのような事を思ってな」
それを聞いたシスティマは。目尻から涙を流した。
「貴方は、アルテム。やはり優しい。効率を追い求めていても、それは結局。宇宙全体の人々に帰す奉仕の為の行いなのね……」
「当然だ、システィマ。私は、個人の感情に動かされなくなった。あのジルガドの術によって。だが、私は思う。個人の心を殺して、公の為に生きる人間が居なければ、宇宙はどうにもならぬ。今は、変革期なのだ。多少の摩擦は出る。それによって人が死に、私が恨まれることもあるかもしれぬ。だが、私は止まらぬ。私が行おうとしている、宇宙の大効率化改革は。宇宙の無駄を減らし、それによって資源が活かされ、結果貧しき人々が減り、宇宙が豊かになる。その理想の為の行いだ」
「わかった、アルテム……。私は、貴方についていく。どんなに貴方が人から恨まれようと、憎まれようと。貴方は、優しい人。優しさで自分を殺せるほどに、哀しく優しい人。こんないい子を、護らないでいたら。私はAIとはいえ、女であるとは言えなくなってしまうもの」
「ふん……。それはいい。だが、どうなのだ? 結局、物理的な仕組みはわかったが、恒星アマテラスのような、霊性を持った星を創り出すには。どうすればいいのだ?」
何やら。そっぽを向いたアルテムに、システィマは微笑みを少し浮かべ。
「少し待ってね、アルテム。情報の整理結果が、出ていたはずだわ。それに関しては」
そういって、モニターの前のコンソールを叩き、データやリンクのソートをかける。
そして。
青ざめた表情を浮かべた。
「スケープ……ゴート。人柱……」
「? どうしたシスティマ? 顔色がおかしいぞ? 何を呟いている?」
「アルテム……。わかったわ。恒星アマテラスの霊性を維持し高めるために……。必要なものは……。ゔっ!!」
システィマが、その知性はAIのモノであるが、肉体が生身の人間と極めて近いために。
疑似心理に甚大なダメージを受けたらしく、嘔吐をした。
「おい! おい、システィマ!! どうしたんだっ!!」
アルテムの声に、なんとか意識を戻そうとするシスティマであったが。
そのまま意識が落ち、気絶してしまった。
* * *
「うーいーうー。ぐらんどおじいじゃぞー、ミリアムー♪」
なんてこったのおじいちゃん。
僕の子供、ひ孫のミリアムの前で。相好崩しなんてもんじゃない。
縁起物の布袋様の置物の笑い顔みたいになってる。
「ちゅー♪」
「あいっ!! おじいちゅー♪」
ちゅーをしてくる、おじいちゃんに対し。我が娘ミリアムもノリと愛想がいい。
お互いにほっぺにチューチューしあいながら、親交を深めているみたい。
「おじいちゃんそれで……」
「む? どうしたユハナス? 今晩は赤飯を食わせてやるぞ?」
「何で赤飯なんだよ!! それより、おじいちゃん。僕ら、アルテム君が決定的な間違いを犯す前に。宇宙を『効率だけ』の考え方で包んでしまって、無機質無感情な宇宙になってしまうのを阻みたいと思っているんだけど……」
僕がおじいちゃんにそう言うと、おじいちゃんはニヤッと笑った。
「ユハナス。まだ甘いな。アルテムの器は、そのように小さくはないぞ」
「え? どういう……? だって、アルテム君の政策は……?」
「ああ。あれは過渡期の政策だ。効率性を確立した先は、あの儂の孫はやはりユハナス、お前と同じように、宇宙を富で包むつもりだ」
「じゃあ、僕のやっていることは……。意味が、無いのかな?」
「そうではない。ユハナス、お前は富の補充をしながら、人々と共に進んでいる。それは歩みが遅いが、確実で無理のない歩み。だが、その手を取らないアルテムには野心がある」
「野心……?」
「そうだ、野心だ。己が『宇宙の形を改革したもの』として名を残す。そういう野心だよ」
……ばかな。バカバカしい!!
己の名を残すなんてつまらない事の為に、アルテム君は変革を急ぎ。
宇宙のいたるところで、歪みによる悲劇をもたらしたのかっ!!
「おじいちゃん。僕はアルテム君を止めます。彼はわかっていない。彼の行っている、公の政治は公の為の物であって。己の名前を残す為なんていう、私欲の為にその形を恣意的に行ってはいけないんだ!!」
僕の瞳に灯る、何ともやりきれない怒り。
おじいちゃんはそれを見て呟いた。
「やるならやってこい、ユハナス。正義か悪かではない。効率の優性と、富の運営の優性。アルテムとユハナス、お前たち二人が築いてきたものの勝負だ。決めてこい!! 男の子だろうに、ユハナス!!」
そういって、僕に向かって。ウインクをして。
「キリアンに会っていけ。奴は、リジョリア・イデス号を改造してくれるはずだ」
なぜか傍にいる、AIドールのおっぱいをもみながら。
カッコ良く言うのだった‼
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