89.おじいさまですよ

「ここがユヴェンハザ家であるというのならば。トイロニ・ユヴェンハザと言う方がいらっしゃる筈です。いらっしゃるのならば、ユハナスが来たとお伝えください」

「……少々、お待ちいただきたい」


 僕が門前で門番係にそう声をかけると。

 門番はそう答えて、四人のうち一人が邸宅の中に入っていった。


 うーむ、様子が変わったな。僕の本家の方の実家、トイロニおじいちゃんの大邸宅も。

 惑星エルデン、と名前が変わってしまった旧惑星アーナムで、僕は昔の記憶を頼りにおじいちゃんの邸宅まで辿り着いたんだけど。

 その途中の街の光景も、随分変わってきてしまっていて。やたらと街全体が機能的に、古の趣に憎悪があるかのように。多層高層建築物に埋め尽くされていた。


 街を見回しているうちに、門番が戻ってきた。


「このユヴェンハザ家に。トイロニ様は確かにいらっしゃいますが……。貴方がトイロニ様の三男、ゼキリス様の息子のユハナス様だという証は。ございますか?」

「証……かぁ。いきなりそんなこと言われても出ないけど。血液とったり声紋とったり。指紋とってもいいよ。DNA採取でもいいし。とにかく、僕はユハナス・ユヴェンハザだよ」


 そこまで僕が話したときに。


『通せ。その子はユハナスだ』


 という、わずかにノイズ混じりのおじいちゃんの声が響いた。


『リジョリア・イデス号がこのアーナム、いや、エルデンの宇宙港に入ったという情報も確認できた。通しても構わぬ』


 どうやら、門番が持っている携帯端末からの声のようだ。


「お聴こえになったようですね。トイロニ様の許可が出ました。どうぞお通り下さい」


 門番が、左右に分かれて門を開く。僕らはその門をくぐって、ユヴェンハザ家の本家の邸宅に入って行った。


   * * *


「……何やってるんですか?! おじいちゃん!!」


 全くおじいちゃんは。なにをやっているんだろう!!

 すごくかわいい女の子たちを、大勢揃えて広い部屋の中でエッチな服着せて!

 おじいちゃん自身は、部屋の中央の安楽椅子で、くつろぎながら。その女の子たちの身体をなでたり、キスしたり、食べ物や飲み物を食べさせて貰ったりして!!

 満足そうな様子を僕らに見せていた。


「……すごい。これが老人の性欲とは……」


 シオンさんが、ミリアムと手を繋いで。ポカーンとしている。


「いい趣味というか、悪趣味というか。そのどちらにも取れるな、これは」


 マルテロは、何ていうんだろう。大勢部屋の中にいるキュートでエロティックな女の子たちには一切興味が無いような顔で言った。


「おじいちゃん!! どういうことです!!」


 思わず僕はおじいちゃんに怒鳴りつけてしまった。

 あの、ユヴェンハザカンパニーの総帥だったころの、凛とした気品に満ちて。野心を常に腹の中に据えていたおじいちゃんは。

 どこにいっちゃんたんだろうか?


 おじいちゃんは、激昂している僕に向かって。


「ユハナス。こういうことも、いいものだぞ?」


 とか、にんまり笑って言っている……。


「失望、しました!! 色ごとに呆ける老後を選ぶとは!!」

「ふっ……っ、ぷっ、くはははははははは!! ユハナス、若いな。だが、お前はそれがいい所だ。儂も少々、お前をからかいすぎたかもしれん。見ていろ。この部屋の本当の姿を見せてやる」


 おじいちゃんはそう言うと、指をパチン、と鳴らして合図を出した。


 すると、部屋の壁や床や天井を包んでいた、カーテンやカーペットや幔幕が。

 機械の動く動作音と共に、するすると巻き取られて。

 部屋全体が、情報処理機械装置のモニターやコンソール群に見事に様変わりした。


「……⁉ なに、なんですか?! この部屋は⁉」


 僕は度肝を抜かれた。宇宙戦艦のブリッジもかくやという、情報処理能力を誇っていそうな部屋だったからだ。

 おじいちゃんは、ニヤニヤ笑って言う。


「いや、な。本家の財産のほとんどは。儂を追い落として、ユヴェンハザカンパニーの実権を掴んだアルテムに引っこ抜かれてな。儂は、老後を楽しむがよかろうと言われて、この屋敷とまあ、幾ばくかの財産を残された状態だったのだが。そんな事で、この儂が満足するはずが無かろう。儂が今、この可愛いAIドールたちを用いて行っているのは、星系間の大型ネットワーク経済取引のビジネスだ。まあ、何というか。ユヴェンハザカンパニーの全盛期の半分の財産くらいは取り戻したぞ」


 あー……。見事な。おじいちゃんは見事だ。だけどなんで、AIドールにエッチな格好をさせる必要が? 僕がそう聞くと。


「アルテムの使いの者がな。時々儂の様子を見に来る。そんなときに儂は、この可愛いAIドールたちの若さに溺れて、完全に覇気を失った様子をその使いの者に見せつけるのだ。アルテムは、宇宙中央政府の議長になっても。まだ儂を警戒している。その気を緩める為と……」


 なるほど、完全に隠居した様子を見せて、自分に対する警戒を解かせて、自由に動くための意味もあるのか……。

 そして、その上にも意味があるらしい……。

 おじいちゃんは、この上あの幼いAIドールたちに、何の意味を持たせて。

 際どいエッチな服装をさせているのだろうか⁉


「その気を緩める為以上の、意味とは? 何でしょうかおじいちゃん?」


 そう聞くと、おじいちゃんは凄みのある表情を僕に向けて来て。

 笑いもせずに言い放った。


「儂の趣味だ」

「!!!!?」


 その返答に、僕は頭がクラクラ来て言葉を失った。

 

 この、ロリコン狸じじぃー!!

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