8章 ジェイル・オブ・ハイクオリティ・システム
87.宇宙中央議会政府
「……アルテム議長! 貴方が手をつかねている間に! 我々の版図のうちの最大の藩屏、あのシャルシーダ星系が!! もはや、叛乱軍と言っていい、ヴァードゼイル星系軍の手に落ちましたぞ!!」
惑星、テラアース。全宇宙人類の始まりの星にして、現宇宙中央議会議事堂のある、正真正銘の宇宙の中央の星である。
その議事堂で開かれている議会の議題は、今日も。
自らども宇宙中央議会政府の言う事を聞かない新興勢力、ヴァードゼイル星系政府とその傘下や同盟星系の宇宙からの排除の手段についてであった。
「慌てるな、汝ら老人の悪い癖だ。私にとっては、特にシャルシーダが失われても痛痒ではない。もともと、あのバカなシャルシーダ王メズキルアは、自壊自滅して当然の行動しかできない男だった」
「そのような事は……! わかっておりますが! シャルシーダの軍力経済力位置条件に支配域!! その全て我々の手から離れてしまったのですぞ!!」
「動じるな」
アルテム・ユヴェンハザ。現在40歳の、宇宙中央議会政府の辣腕議長が、冷え冷えと響き渡るその声で、議員たちの目を覚まさせ。議会場に冷静さを取り戻させる。
「しかし……。実質、宇宙中央広宙域の内、既に三分の一が奴らの手に落ち、更に三分の一が……」
「ユハナス・ユヴェンハザという男の甘言姦計によって、我らから離脱する機会を窺っている。そうだったな?」
「はい、アルテム様……。思わしくない現状でありまして……」
「ふむ。しかしながら、我らの優位は動かぬ。なぜならば、我らはこの宇宙においての唯一の神とも言える『物理的な最高効率性』を誇っている存在だからだ。敵が、10の力を活かそうとしたところで、せいぜい数値として出るのは8がいい所。何故ならば、感情が邪魔をする人間の手によるものだからな。だが、我らは物理的思考を研ぎ澄ますことにより。パターンコントロール分の0.5を残した、9.5の力を振るうことができる。負けはない。全ての物は、100%を超える力を示すことは有り得ない。それが物理宇宙の鉄則だ。例外はない」
「……随分と……」
不満げな様子を示す議員に。アルテムは不思議そうな目を向けて問うた。
「随分と……? 何だというのだ? 言ってみよ」
「はい、アルテム議長は……。スペックの決まった機械以上の働きを。人間が成すとは考えないのですか? だとすれば、それは余りに……。人間というものを馬鹿にした話です。全ての機械は、かつて。人間が作り出したものでありますよ?」
「ふむ。論ずるに値せずだな、末端議員よ。人間は、機械を作るために存在した。かつて、植物が産まれ、それを食べる草食動物が産まれ。更にはそれを食べる肉食動物が産まれた。それらの地盤が整ったうえに、植物を食べ、草食動物を殺し肉を食べ、肉食動物を狩って素材を集め、文化物を作る人間が産まれた。してみれば、今度は人間が機械を創り出すために知恵を絞り、そして産まれた機械に世界の管理を任せるは必定の代替わりというものではないか?」
「……我々は。機械の奴隷ではない!!」
「君の考え方は……。優れたコンピュータシステムを構築し、それの管理に宇宙を任せて行こうという、我ら宇宙中央議会政府の方針と一致しない。君がその迷妄を捨てないのならば。私は君を除籍処分にせざるを得ないが……?」
アルテムは、まるで感情を感じさせない顔で。能面のようなピクリとも表情が動かぬ美しい顔でそう言葉を放った。
「勝手にしろ!! 俺はもう知らん! 民の喜びを計画と数字算用で削り取って行って! 人間が幸せを感じる風光明媚な自然の風景も、機械産物の生産拠点を作るためにどんどん潰してしまって!! 我らの食事は日々貧しくなるばかりだ!! あの、食料生産や料理技術を体系化して。宇宙の食を手中に収めようとしている、コー・ラルヴィ・ホールディングスと貴様は、よくお似合だ!! 引き立てているらしいじゃないか? 貴様は、アルテム議長よ? 賄賂でも受け取ったのか? あの宇宙最大の食料取引企業からよっ!!」
怒りに狂った末端議員に対して。アルテムは、冷静な顔のまま、平手打ちを放った。
「静かにし給え、この愚物が。コー・ラルヴィ社は、宇宙で最大の効率を食糧管理部門で出し続けている。故に、管理を行わせるにはあの企業が一番適任だという、コンピューターの数値判断によって。あの会社が選ばれているにすぎん」
「数値が……!! そんなに大事なのかぁっ!!」
「このバカ者が。何よりも大事に決まっている」
「……貴様のような奴は……。幸せが何かなのかも、追い求めないような奴に」
「……」
「俺は。もうついていけない」
その末端議員は、そう言い捨てると。
議会場から出て行った。
議員バッジを机の上に置いて。
* * *
「うっま」
「美味しいですわね、ユハナス様」
「マイテルガルドの食材って、なんでこんなに美味しいのかしら」
さて、僕らは。
リジョリア・イデス号に乗って、かつてのカルハマス星系のあった座標に向かって、宇宙の旅をしている。
かなりな距離があるので、長距離移動用のスペースウェーブライディングシステムによって、宇宙の空間面に点線を引くような、飛び石移動を行う航法で進んでいる。
まあ、その間に。やることもないので、例のように。
リジョリア・イデス号のリビングホールで、七輪に炭を入れて火を焚き、今度は羊肉の塊のバジルソルトがけを、じりじりと焼いてはパクついていた。
時々齧る、生キャベツも実に旨い。この食材は、この旅に出る前に、アーヴァナさんとヴィハ・ムに掛け合って譲ってもらった物だったりする。
「ふむ……。その七輪とか言う、炙り焼き窯は。実にいいな。小型で、持ち運びにも便利そうだ。そして、焼けた料理も実に旨い」
うむ……。そして、何でコイツがいるんだろうか。
僕らの船に、馴染まないくせにやたらと慣れた様子を見せる、気障な男。
そう、風の魔導司祭、マルテロ。
何故かこの男は、今回の僕らの旅に同行したいと言い。
何やかやと口を挟んできて、異常に発達した話術で詐欺まがいの約束を僕らに結ばせ。
なんだかんだで、この船の中に自分の居場所を作ってしまっている。
「マルテロ。あんた、何しにきたの? 相っ変わらず、それに関しては何も言わないけれど」
一緒に船に乗っている、シオンさんが。
杖を振り振り、尋ねるが、マルテロは。
優雅ながらも狡猾な笑顔を浮かべるだけで、核心に迫るような答えは一言も口にしないのだった。
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