85.師と弟子

「メズキルアっ!! そこを動くなっ!!」


 城内に居た近衛兵団を部下の銃火器部隊の火力と、己の槍の技で打ち倒し。

 レウペウはその玉座の間についに見つけた。

 父の崩御の後、後を継ぐべきであった自分と妹から全てを奪い、自らたちに惨憺たる人生を強いた、怨敵であるかつての宰相、メズキルアの姿を。


「ふふ……、レウペウか……。まさかここまでやってくれるとはな……。財力も後ろ盾も持たぬ貴様が、この星から逃れても。どうという事はないと思っていた儂の愚かさよ。自分のことながら笑いが止まらぬわ!!」


 メズキルアは玉座から動くことはせずに、玉杯で酒を煽っていた。


「愉しかったぞ、レウペウよ。このシャルシーダ星系国家は、本来儂の物ではない。だが、だからこそ。何の容赦もなく喰い荒らし、消費することができた。民に重税を課し、民間から美女を奪い。戯れに民を拷問にかけ、酷い殺し方をしても。誰も責める者がいない。儂は、そんなこの星に完全なる楽土を見出したものだ!!」

「……そうか。その発言だけでもわかる。貴様には欠片たりとも!! 王たるものの資格などないと言う事がな!」

「はっは! このバカ王子! んなこたぁ知ったことじゃぁねぇんだよぉー!! 支配欲、金銭欲、性欲、食欲、殺戮欲!! この五大欲求が満ちりゃぁ、誰だって人間はニコニコ満足なんだぜェー!!」


 ヘラヘラゲラゲラ笑う、メズキルア。その様子を見て、まだ残っていた近衛兵ですら臭いものを見るような視線をメズキルアに向ける。


「不思議だな? メズキルア。このシャルシーダの臣下は、貴様のような奴の言う事を聞くほどに柔弱ではないはずだ。どうやって言う事を聞かせた?」


 レウペウは槍を構えて、そう聞く。すると、メズキルアは崩れた表情でとても愉快気にこう言葉を放つのだった!


「はっはっはっはっはっは!! 何をおっしゃいます、レウペウ様。我が陛下よ!! 私を代理の王として、このシャルドハイムに置き。全ての命令を下していたのは! シャルシーダ星系国家の正当な王であるレウペウ・シャルシーダ陛下!! 貴方ではないですか!! ゲラゲラゲラゲラ!!」

「……!! まさか貴様!! その方弁で全ての悪行を! 為したというのかっ!!」


 全てを奪ったどころか、自分の名前を用いて悪行に対する非難への盾としていた、メズキルア。レウペウは思った。この男は……!


「そうですとも!! 純情なこのシャルシーダ星系のバカどもは! 私のその罪のないちょっとした賢い工夫で! 見事に言う事を聞くようになりましたよ!! 前王は教育を怠ったのですな! 私のような毒物に対する抵抗力が全くないような、清潔な優秀な人材のみを好んで育てて高位に就けて!! 本当に、バカな奴らだぜ……!! ひゃっはっはっはっは!!」

「貴様!! 殺してやるっ!!」


 処分するしかない!! と!


「お待ちください、レウペウ陛下。貴方の為した悪行。この私が裁きます」


 メズキルアの座す、玉座の後ろの幔幕が開いて。

 そこから堂々とした体躯を持った、初老の男が。槍を持って前に出てくる。


「師匠……。ガラレス師匠……! ご健在でしたか!!」


 即座に身を正して、師に対する礼を執るレウペウ。


「ふむ、レウペウ。貴様はメズキルアの奴を殺すつもりらしいが……。メズキルアを責めるよりは、自分を責めたらどうだ?」


 レウペウの師、ガラレスは。槍を旋回させ、ビタリと構えるとそう言い放った。


「私の……? 落ち度がございますか?」


 レウペウはわからなかった。幼き日に、この城と星を追われ、妹と二人、生き抜くために辛酸を舐め続けた日々。あの時から、自分は。

 全てを奪ったメズキルアの首を叩き落とすことを夢見て、生きてきたのだが。

 その想いに、咎があるというのだろうか? 師であるガラレスは。


「レウペウ陛下。貴方には落ち度があります。重大な落ち度が。それは、このようなゲスであるメズキルア如きに、たとえ8歳の折であっても。負けた事。8歳の子供に、何の力があると仰せかもしれませんが。貴方には前王の残した遺産が、膨大にあったはず。財力の面でも、人材の面でも。それを活かしきれずに、負けた以上。貴方はこの私に裁かれる必要があります。この、シャルシーダ星系の力を司る、武官長統括官、ガラレスに!!」


 そう言い切ると、ガラレスは槍を振りかざしてレウペウに突っかけてきた!!


「さて、どの程度腕を上げましたかな?! それによっては、私は貴方を認めるに吝かではありませんぞ!!」

「くっそ!! 結局は力と言う事か!! 上等だ、ガラレス師匠!! 再び認めさせてやる!!」


 レウペウも、玉座の間で槍を振り回して応戦する。


 打ち合う、打ち合う、打ち合う。何十合も打ち合う!!

 特殊合金でできている槍同士の間から、火花が飛び散り。

 槍の穂先が、必殺の一撃を放ち合うも、回避の技で逸れて。

 それでも、互いの身体にかすり傷が次々と出来ていく。


「ぐふふふふ……。隙だらけではないか。儂の身の破滅など、ここまで遊んだ後はどうでもいいが……。ムカつくんだよなぁ、あのレウペウは。なんなら、あの武骨者のガラレスもよぉ!!」


 それを見ていたメズキルアがそのように呟くと。

 手を振って、近衛隊のうちの、己の意を含ませた者共に。一斉にビームマシンガンでの斉射を行わせた!


   * * *


「認めるに……。値します。よくぞ、そこまで腕を……磨きました」

「……師匠。なぜ、私の盾になったのです?」


 メズキルアの手の者の、ビームマシンガンでの斉射は、レウペウの部下の手によって一瞬で鎮圧されたが……。

 最初の一斉射は、突然であったので防ぎきれず。そのビーム弾はレウペウとガラレスを襲った。

 ガラレスは不思議なことに、こうなることをわかっていたかのように。

 レウペウの盾になり、自らの身体にビーム弾を受けて、倒れるのだった。


「師というものは……。老いぼれた際には、自らの遺志を継ぐ……。弟子というものを何よりも大切にするものです……。私にとっては、それがあなたであった。それだけの話です。お願いいたしますよ……、この先の……シャルシーダを……」


 もう、その言葉だけで十分だった。

 もう、目の前で繰り広げられた、事柄だけで十分だった。


 レウペウは。槍を構えて、玉座に向かって歩み寄り。

 ヘラヘラグフグフ笑っている。

 メズキルアの頭から、肛門に至るまでを。


 槍で縦に貫いて、その命を奪って。


 処分した。

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