82.炎の華
「ゼキリス!! いけないっ!!」
マイワ・ガルナのブリッジで、AIナビゲーションドールのガルナが叫ぶ!!
「なんだっ?! ガルナっ!!」
「今叩いている先鋒二艦隊は!! 囮よっ!!」
「どういうことだよっ!!」
「情報封鎖をしていたのよ、敵は!! 天低方向と天頂方向から、一艦隊ずつが突如出現! 挟撃がくるわよっ!!」
「なんだとぉ!! ええい忌々しい! 敵にも策士が居やがった! 舐めて掛かったぜ、俺はバカだな!!」
「かといって……! 正面の敵に対する手を休めて。上下の敵に対応するわけにもいかない! そんな事をしたら、敵の正面からの突撃を許すことになる! 万事休すよ、ゼキリス!!」
「くっそ……。どうしたもんか……!」
ゼキリスが、必死で頓智を出そうと首をひねって脂汗を流していると。
後ろにいたヴィハ・ムが、傲然と口を開いた。
「船。宇宙船ってんだろ? この乗りモンは。船なら、船橋がある筈。敵の船のその位置を教えろ。俺の隊が、あの動く甲冑に乗って出撃して。艦橋を狙い撃ちにして、敵の艦隊の行動を封じてくる」
ゼキリスは、それを聞いてあんぐりと口を開いた。ビックリしたのだが。そのあと、背中を振るわせて大笑いを始めた!!
「わっははは!! ヴィハ・ムって言ったな、あんた。一緒に戦うのは初めてだが、どういう胆の据わり方をしてるんだよ? 宇宙空間で、艦砲射撃や大型ミサイルの直撃を喰ったら。サイズ的にはさして大きくない、アームドアーマーは中身ごと消し飛ぶぞ?」
「ふん。マイテルガルドの魔族に比べれば。怖ろしくもないぜ。アイスドラゴンのフリーズブレスだって。喰らったら一発凍結のその後爆散で、即死だからな!」
「ってことは。大言じゃなくてやれるんだな?」
「無論だ。俺は戦に関してはそれに臆すような面倒臭い性格はしてはないぞ」
「じゃあ、頼むぜ」
なにやら、カラッというゼキリス。
「……ゼキリス、それは無責任では?」
AIナビドールのガルナが、呆れたように言う。
「男が自分の責任で自分の命を使おうというんだ。余計な口を挿むな、ガルナ」
ゼキリスは、ブリッジクルーに命じて。自分が戦勝の折に飲むことにしていた、今の宇宙ではとても貴重な酒の瓶とタンブラー持ってこさせて。
「飲めや、ヴィハ・ム。これは、勝った時に飲む酒だ。景気づけにはバッチリだろ?」
といって、一杯注いで差し出した。
ヴィハ・ムはそれを見て。ニヤリと笑い。
「貰う」
そう言って、右手で掴んで一息で飲み干した。
「んじゃ、行ってくんぜ!!」
勢いよく、ブリッジを飛び出していくヴィハ・ムだが。
後ろから声がかかった。
「ヴィハ・ム。幾らなんでも、貴様の隊を二つに分けて上下に当たるのは無茶すぎる。俺も、貴様のやり方を踏襲して、片方の艦隊に当たることにする」
声を放ったのは、やはりレウペウであった。
「ハン。勝手にしな。やりたいようにやれや。俺もそうするぜ」
ヴィハ・ムは、悪い笑顔を浮かべてレウペウに一瞥をくれるとそう言った。
* * *
「おおおおらぁ―――――――――!! 全隊、気張れっ!! 主力の二艦隊はゼキリス殿が討つ! 我らは、小艦隊でしかない奇襲部隊を殲滅、もしくは活動不能に追い込めばいい!! これくらいの事もできないのかと、ゼキリス殿やヴィハ・ムに笑われて堪るかっ!! ブリッジを狙い撃て、もしくは消し飛ばせ!! 決めるぞっ!!」
そう景気よく、士気を鼓舞しつつも。じつはレウペウは事態がかなり拙い事には気が付いている。
敵が普通の星系だったのなら、それほどの難事でもない状態だが。
レウペウは、自分の母星系がどういう星系であるかを実によく知っている。
『宇宙有数の武道星系国家』これが、シャルシーダ星系の異名である。
元々はその王子であるレウペウが、類稀なる戦闘センスを持っているのと同じく。
シャルシーダ星系の民は、戦闘に対して極度に研ぎ澄まされたセンスをもつ。
そんな兵士達の乗る、アームドアーマー隊が。
敵艦隊の空母から出撃してくる。
(やれるか? いや。やるしかないっ!!)
レウペウは、必勝は期していないが。必勝の念をもって戦闘に入った!!
* * *
「こっ!! こいつらっ! なんだってんだ、随分強えじゃねーかっ!!」
部下に損耗を受け、ヴィハ・ムが怒りに満ちた声を上げる。
「生意気なっ!! 主物理宇宙の非力な者共が、マイテルガルドの誇り高き戦闘種族、炎の眷属に一矢報いてくるとは!! だが、なぁ⁉」
ヴィハ・ムは。ニヤリとアームドアーマーの中で笑うと。
とある号令を部下全員に出した。
「隊長ッ!! 敵、ヴァードゼイル星系軍の! アームドアーマーが、不審な行動を!!」
シャルシーダ星系軍の一アームドアーマー隊員が、妙な気配を嗅ぎ取って、隊長に報告をする。
「……? なんだ? 奴らは、何をしている?」
報告を受けた隊長が。
ヴィハ・ムのアームドアーマー隊の奇怪な動作に動揺する。
ヴィハ・ムの隊のアームドアーマーは、印を切っていた。
そう、炎魔導の術式を、宇宙空間で展開しているのである。
酸素が無くても昇り立つ、エーテルを燃やして放たれる炎。
それが、ヴィハ・ムの隊のアームドアーマーから続々放たれ、シャルシーダ星系軍のアームドアーマー、更には艦隊艦艇を破壊していく。
そして、動じるシャルシーダ星系軍奇襲艦隊旗艦に。
「ハハハハハ!! 行くぞ!! 咲け、炎の烈華!! 我が魔力を注ぎ、現出させるは破壊の爆紅撃!! ブチかませぇ――――――――っ!! 『ファラ・ブロッサム・フレア』!!」
ヴィハ・ムが放った、極大の爆発魔法が叩き込まれて!!
宇宙空間に炎の華を連鎖して咲かせるのだった!!
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