80.亡国王子、連戦

「おい、レウペウ王子。張り切りすぎんなよ!!」


 シャルシーダ星系傘下の1星系、ユユ・ウトク星系に攻め寄せている、ゼキリス・ユヴェンハザは自分の指揮下の艦隊に所属している、アームドアーマー隊の隊長、レウペウ・シャルシーダにそのような事を言った。


「ふむ……。それはわかる。逸り過ぎというのは、戦機を見失うことがある。だが、俺は。このヴァードゼイル星系からシャルシーダ星系に抜ける際の、一番の難関になっているこのユユ・ウトク星系を落とすことには力を入れるぞ、ゼキリス殿」


 かつて、シャルシーダ星系の主であった自分の父親が崩御した際。その星系国家を奪い、自らと妹を殺そうとした、宰相。現在のシャルシーダの王、メズキルアを許せるほどには、レウペウは諦観と達観を持ってはいない。


 復讐心は大きくある。一頃は自分は海賊の用心棒にまで落ちぶれ、妹は数多くの海賊に玩弄される娼婦にまで貶められた。


 その怒りは、すべて。


 自らの不幸の元凶である、国を簒奪したメズキルアに向かう事を気持ちでも心でも行動でも止めることのできない、レウペウであった。


「現シャルシーダ王、メズキルア。奴の首を叩き落とすまでは。俺は止まるつもりはない」


 そう言い切るレウペウの肩を、ゼキリスは叩いてどやした。


「ふん……。いい目だ。戦意満々じゃねーか。やろうぜ、レウペウ王子。貶められた者共の、復権。正当なものを求めるための、正当な力を示す戦いだ、これから行うのは」


 強烈な眼光と共に、ニヤリと笑うゼキリス。


「ゼキリス殿。貴殿は、戦いが好きか?」


 レウペウもまた、含み笑いをして言い返す。


「応ともよ。男の行きつくところってのは、結局はこうなのかもな」

「いかにも。そうであるかもしれんな」


 ゼキリスとレウペウは、そう言い合うと快げに笑った。


   * * *


「レウペウ隊、出るっ!! 眼前、ユユ・ウトク星系軍戦艦隊に、強襲開始!! 機動力と火力で、沈めるぞっ!!」


 大本はヴァードゼイル星系の星系民で組織されていた、ゼキリスの艦隊の軍人たちであったが。その後、ヴァードゼイル星系が勢力を拡げ、幾多の星系を傘下に収めたり、同盟関係に持ち込んだりして。他星系の人々を取り込んで、その内容は強化充実されている。

 しかも、レウペウの隊はゼキリスの直衛隊として、旗艦部隊を守る精鋭である。


「了解です、隊長!!」

「俺のかーちゃんは、重税の余りに栄養失調で病気になって死んじまったんだ!! あのクソども、宇宙中央政府め!! 目にもの見せてやる!!」

「俺の弟だって!! 働けない障碍者だからって、内臓抜き取られてバラバラにされて!! 売り飛ばされたんだ!! 日々の福祉の代償とかいいやがって!! 命奪っておいて、何が福祉だ!! 宇宙中央政府の連中が!!」


 各々さまざま。宇宙中央政府は、効率を宇宙に求めすぎた。その為に、宇宙の維持は効率的にはなったが、油の回らぬ機械のように、さまざまなところで不具合を起こしているのだった。その不具合による悲劇に巻き込まれた者たちの激怒や噴怒は普通ではない。


 戦意はすさまじい。ことに、レウペウの隊はそのような怒りを大きく持っている者たちで組織されている。


 怒りは戦意となり、戦意は意識に力をそそぎ、彼らの乗るアームドアーマーは信じられないような、怒りと戦意を纏って、敵戦艦隊に斬り込み。


 ビームライフルの銃撃で砲台を撃ち抜き。

 ビームスピアの斬撃で船体を切り裂き。

 ブリッジにグラビトンミサイルを叩き込んで、船を行動不能にしていく。


   * * *


「ユユ・ウトク星系から。降伏勧告の答えが来た」


 ユユ・ウトク星系軍の三個艦隊を壊滅させた後に、ゼキリスは首都惑星に対して降伏勧告を放っていた。


 その答えが来たというので、艦隊の首脳がゼキリスの旗艦、マイワ・ガルナに集まる。


「降伏をするそうだ。どうやら、こちらの様子をあちらさん、知らないわけじゃないらしい。降伏すれば惑星の爆撃も受けず、自治権は保障され、なおかつ新式の惑星開発手法まで貰えるとなれば……。まあ、断る手はないよな」


 頷く、艦隊首脳。


「まあ、何つーか。この手は悪辣だよな、考えようによっては。辛い戦いの意義を消し去っちまうんだから。自分の為にも、民の為にも。その方がいいと知った星系首脳に抵抗する意志を残さないやり方だ。ユハナスの奴……。我が息子ながら、富の使い方のえぐさをよく知ってやがる。おもしれーやつになりやがって」


 嬉しそうに笑うゼキリス。

 それはそうだ、柔弱だとばかり思っていた息子が大人になり。

 硬直しがちな戦闘思考の自分にはない、柔軟な思考を持ち。


 なおかつ、その柔軟な思考が、戦略的に活きるものであるのだから。

 ゼキリスは。満足だった。


 だが、その満足によって自分の中の戦意が消えることは深く戒める彼である。


 ゼキリスは、その落ち着かないと言われるほどの狂躁的な性格が、戦闘に酷く向くことを自覚している男だったのだ。


「さて、レウペウ殿。ユユ・ウトクは落ちた。次は、シャルシーダ星系本土に攻め込める。その前に、ユハナスを呼ぼう。アイツが後詰に来ると、全軍の士気が全く違う。ユユ・ウトク星系に本陣を設置し、それからシャルシーダ星系を攻めることにするぞ!!」


 レウペウは、無言で。力強く頷いて。


 ゼキリスと拳をぶつける、男の挨拶をした。

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