79.勢力拡大に移る
「なるほどな。ユハナス、お前のやり方……。正統派なんだが、悪辣なやり方の付け入るスキが無いって点じゃ、悪辣なやり方をする奴らよりもよくよく考えてある」
親父のゼキリスが、僕の今までの仕事の記録を見て(実は僕は、商人独立日誌をつけていたんだったりする)そう判断を下した。
「まずは、宇宙悪霊を狩る宇宙漁から始めて。悪霊粘土の取引、それから小惑星の開発を行ったか。そして、開発した小惑星上での外食店経営。それを済ましたのちの、パッケージ形式の小惑星開発事業。よくまあ、まだお前の年でこんだけぽんぽんアイデア出すもんだ。ちょっと俺は、お前を見くびっていたかもしれん」
親父がそんな感じで手放しで褒めてくるので。僕はちょっとこそばゆかった。
「それからの、10年間は。俺達と一緒に戦って、その後向こう側に行った間の期間か。そこでは……。なるほどな、原始的な農法しかない場所での奮闘をしたか。こういう泥くさいのは不格好なようでとても大切な物だからな。その上さらに、マイテルガルドという向こう側との絆も結んできたか」
僕の独立日誌を読み進めていく親父。そして、最後まで読んで、それを閉じて僕に返してきた。
「ユハナス。このヴァードゼイル星系の統率の頂点は、シェルパ大統領だが。実質実権を握るのは、お前だ。そして俺は、お前の行っている『豊かさによるボトムアップで、効率のみを求めるという病に侵された宇宙中央政府に対する療法』を行うための軍事的な力となる。このヴァードゼイル星系は非常に富んでいる。これだけの豊かさがあれば、お前の計画している『豊かさの魅力で敵を降す』という、戦争のいわば最上の手が打てる。すべて、お前がやってきたことの成果だ。誇っていいぞ、我が息子よ」
親父が何を言っているのかと言えば、僕と親父とシェルパ大統領。そして、アーヴァナさんとオクシオさんの五者で行った会議の内容を話しているんだ。
僕ら、ヴァードゼイル星系は宇宙中央政府に対して叛旗を翻した。
そして、そうである以上。自衛力が必要となるが、今の時点ではそれは親父が抱えている元海賊船団であった今のヴァードゼイル星系正規軍の力があれば、十分なすことができる。
そして、その上で。現在の宇宙に、マイテルガルドからの富の流入を行い、効率を求めるあまり、やせ細ってしまったこちらの宇宙に肉付けと実りを施す。
これは、アーヴァナさんもオクシオさんも言っていた、ニール君の計画とも符合する方針だ。
そして、その手法として親父が掲げたのが。
「まずは、俺が侵攻先の星系軍を叩きのめす。然る後に、星系のトップ連中を捕虜にして、このヴァードゼイル星系に一時住まわせる。そこからが、お前の腕の見せ所だ、ユハナス。落ち着いた治世と、豊かで風光明媚な自然。そこそこ悪くない、最近伸び始めてきた新興文化と文明。旨い飯、旨い酒、そして、心癒してくれる優しく美しい女たち。そう言ったものをフルに使って、対象星系の首脳部を完全に篭絡しろ。そうすれば、その星系は残酷な惑星爆撃などをしなくても。俺達の物になる。そして……」
さらに続ける親父。
「それらの星系が、ヴァードゼイル星系の傘下もしくは同盟関係になったら。お前が昔やっていた、パッケージ制の小惑星開発手法を応用した、惑星開発手法を伝授するんだ。あの、アーヴァナとか言うマイテルガルドの別嬪貴族も協力してくれると言った。ここまで、状況がそろえば。いけるぞ、ユハナス。この計画は」
そうなんだ。みんなとの会議で決まったことの結論。
『豊かさを厭うものは存在しない』
という、宇宙の絶対法則とでも言えそうな路線を踏襲することで。
僕らは、この宇宙を支配している、現中央宇宙政府議長、アルテム・ユヴェンハザと。
その傘下にある、全宇宙を敵に回し、打ち砕き、懐柔し、味方にし。
やがて、効率に縛られ苦しみ続けている、この宇宙全体の本当に多くの宇宙民に。
多くの富をもたらし、また。こちら側の優れた技術力を手に入れることで。
一度この宇宙を産むために、大きな傷を負って未だに苦しんでいるマイテルガルドの再建という、二つの大きな目標を。
達成しようと動き始めたわけなんだ。
* * *
「ゼキリス提督配下第4艦隊、帰還しました。メランルーク宇宙港から、連絡アリ」
さて、作戦が始まってから3年
僕がいる惑星上に停泊中の宇宙船のブリッジに、イデスちゃんの声が響く。
僕が、シェルパ大統領に建設許可を求めて私財で建てた、陸上の宇宙船ドック。そこには、僕らの作戦会議室となっているリジョリア・イデス号が鎮座していて、僕らの作戦は、ほぼこの中で立てられている。
「どこだっけ? 親父が今回攻めていたところは?」
「スピニアゼーム星系です。所属としては、シャルシーダ星系の傘下になっていたところです」
「ってことは……」
「はい、15の星系を傘下に収めている、シャルシーダ星系の一部を切り崩した事になります」
「そうか……。レウペウさんは、親父の艦隊に混じって、アームドアーマー小隊を率いて、今回の遠征に参加していたよね?」
「はい、そのとおりです」
「なんとか……。シャルシーダ星系を今治めている、昔の宰相の首を。その内にレウペウさんの手でとらせてあげたいものだけど……」
「それはもう。恨み重なる相手ですからね、レウペウさんとマティアさんにとっては……」
「うん……。人の情は、難しいよ」
「はい、よくわかります。私も、お腹に子供がいますから……。もし、自分の子供がレウペウさんやマティアさんのような目に遭わされたら。私は逆上すること請け合いですわ」
「はは。イデスちゃんはAIだったけど。機械理性体になってから、随分と感情が激しいね」
「私の生体ボディは。ほぼ人間の物と差異はないのですわ。貴方の妻になることにして、成長リミッターを外して三年。肉体も育ち、今の私の身体は人間の19歳相当に当たる、発育度です。それですから、ユハナス様と夜の営みを続けていれば、子供もできてしまいますわ」
そういいつつ、愛し気に自分のおなかをなでるイデスちゃん。
じつは、僕は。
生体機能のリミッターを外したイデスちゃんと仮婚約をしていて。
将来の約束を確かに結んでいたんだ。
その結実として、イデスちゃんのお腹には僕の子供がいる。
だから、僕はもう退けない。
この宇宙を幸せと豊かさで包み、僕らの子世代にバトンを渡さなければ。
ならないんだから。
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