第3部 豊かさと効率の決戦

7章 スタート・ザ・イット・ウォー・イン・スペース

77.自立の誇りを

「フン……。俺はな、今のこの宇宙の有様にウンザリしているんだ!!」


 惑星ガズヴェリアに詰めかけた、宇宙海賊船団。

 その首領というか提督は。連絡が取れなくなっていた、僕の親父のゼキリス・ユヴェンハザであった。

 僕が、惑星大統領シェルパと親父の間を取り持ち、懇談の席を儲けると。

 親父は僕やシェルパ大統領、それに惑星ガズヴェリアやヴァードゼイル星系の歴々の前で。


 そのような憤りの声を漏らすのだった!


「12年前からだ。あのアルテムの奴が! 我がユヴェンハザ家の本家のクソ坊主がよ! 若くして宇宙中央議会政府の議長になってから!! 改革という名のロクでもねえ政制変更が幾度も行われて!! 俺達自由商人にも酷く厳しい枷が課せられるようになってだぞ? 肉は食えねえ、酒は高い、穀物はクソ不味い!! 女を買って抱けば、意味の分からぬくらい厳しい風俗法で罰せられる!! 金がありゃあそれがひっくり返せるのかと思って稼いでみたら、稼げば稼ぐほどに異常な割合で税負担が上がっていくしな!! 俺は頭にきて、法を破りまくってやった。そうしたら、見事にお尋ね者になっちまってよ。俺はそれでカンペキ頭にきて、昔の部下どもをひっかき集めて海賊団を組織したんだ」


 そんな風に嘯く親父。まあ、わかんなくもない。親父の気性からしたら、この管理万全の宇宙社会は酷く生きづらいだろうからな。


「それで親父? 何でこの惑星を襲ったんだ? 母港惑星でも欲しくなったのか?」


 僕はそう聞く。


「いかにもだ、ユハナス。俺が思っていたよりも、この現在の宇宙に対する不満を抱いている連中は多くてな。名のある星系正規軍所属の軍艦の艦長が、こちらに着いて来たりもしている。言っては何だが、俺の海賊団は母港惑星が必要なくらいの大所帯なんだ、もうな」

「……で、何でこの惑星ガズヴェリアなんだよ?」

「多分お前は。わかっていてその質問を俺にしているな? ユハナス。座標条件が宇宙中央から適度に距離があり、なおかつ開発が近年盛んで、豊かになってきたとの評判を聞いたからだ」

「……それを、奪っちまうつもりなのかよ、親父?」

「いや……。ここの開発をお前たちがしていたと聞いて。俺は気が変わった」


 親父はそう言うと、シェルパ大統領の方に振り向いた。


「大統領。俺が行った無作法を、許してもらえるならば。俺はそこらの惑星守備艦隊をはるかに超える勢力を持つ、俺の海賊船団によって。この星系の守護を受け持ってもいい。ただし、それには条件があるのだがね……」


 シェルパ大統領はそれを聞くと。真面目な顔で一つ頷いた。


「条件は、我らが中央宇宙議会政府への叛旗を翻すこと。そう言う事だろうな、君の話を聞いていると」

「理解が速いな。優秀な人材なんだな、あんた」

「ふん。これでもエリート街道を挫折を味わいながらも生きてきたものでね」

「そうか。で、どうする?」


 親父は、そこでニヤリと笑った。

 そしてなぜか。

 シェルパ大統領もおかしげな表情をしている。


「フフフ……。血が滾るではないか。中央宇宙議会政府の上層部。あの、利権と不当に富を収奪することによって、この世の春を謳歌していると思われる連中に。こんな辺境星系の一惑星大統領が一矢報いることができるチャンスが来るとは……」


 あれ? この人こういう人だったのか。上からの命令を順々と聞くだけの人かと思っていた。

 シェルパ大統領は続ける。


「実はな、ゼキリス提督。今の私たちのこの惑星と星系は。実に富んでいる。数字の面もそうだが、住民の実感幸福度という点でもだ。これは、ユハナス殿たちがこの惑星に来るまでは無かったものであり、ユハナス殿たちの開発手法によって、地の産物が力を得て、環境の改善がなされ。数値に出ない幸福を皆に与えている。そういう状態なのだよ。私は、この環境を失いたくはない。もし、この惑星や星系の実態が中央政府に知られることがあったら。この星系は召し上げられ、中央政府上層部の為のリゾート地にでもされてしまうだろう。それを避けるために、じつは。私はそろそろ大きくなってきた経済力を用いて、軍備の拡充をし。中央政府に対する発言権を得ようと思っていたのだが、ね。ゼキリス提督、貴殿が現れた。われわれは、この渡りに船の船に乗ろうと思う。この星系を根拠地に、中央政府の傘下に収まっていはするが、されど不満を持っている星系国家と連絡を密にして。我々から喜びを奪い続ける、中央政府に逆撃を撃ち込むことができれば。それは爽快ではないか!」


 ああ、そうか。シェルパ大統領は、この惑星、しいては星系を愛しているんだ。その住民が、喜びを得られている今に充足を感じつつも、この先それが奪われる可能性も考えて、ならば、親父の海賊船団が味方に付くと言っている今が、自立への乾坤一擲のチャンスと踏んだのかもしれない。


   * * *


「ユハナス……!! 大きくなって! それに随分大人になったわ……!」


 惑星ガズヴェリアと親父の海賊船団が運命共同体となって結ばれた後。

 僕は、親父の船、マイワ・ガルナの中で。


 母さんと再会した!


「母さん! ニメリア母さん……! よく無事でいてくれました……!!」

「あら? ユハナス? 私は、宇宙最強の武装商人の妻よ? その夫が私を守らないわけが無いではないの? おかしな子ね?」


 そういって、クスクス笑うニメリア母さん。

 まあ、親父は。宇宙最強の宇宙軍人ではないけれど、武装商人という括りの中でならある意味宇宙最強かもしれない。


「ユハナス? もういい人は出来たの? 母さんは、それが心配だわ。貴方はいつも、女の子には奥手でしたから……」


 うっが! 痛いとこ突かれた!!


 じっさい、僕はもう体感年齢27歳。


 いい加減に付き合う相手を決めないと!!

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