76.アイツの声再び
「ユハナス顧問!! オクシオ顧問!! その他スタッフの方々も!! 取り急ぎ都市地下シェルターへ向かってください!!」
メランルーク市の政庁舎で、市長と惑星大統領に提出する都市開発計画企画書を、都市開発スタッフたちと共に、僕とオクシオさんが練っていた時。
政庁舎の警備部長がすごい勢いで会議室に駆け込んできてそう怒鳴った!
「何事です!」
気の強い声でオクシオさんが聞き返す。
「はい! この惑星ガズヴェリア上空に!! 衛星軌道上に、所属不明艦隊が詰めかけて、降伏勧告を惑星大統領に対して行っています!!」
所属不明艦隊?! だって? しかも降伏勧告って?!
「そうですか。それで、惑星大統領の意向は?」
オクシオさんがさらに聞く。
「惑星議会での議決は割れています。しかし、大統領は惑星民の安全を第一に取って、一度は降伏すべしとの結論にまとめ始めているようです」
その警備部長の悲痛な声を聞いて。
僕は口を開いた。
「警備部長さん。交渉はしたのかい? その所属不明艦隊に対して」
「い、いえ。武力の行使をするための、我が惑星の軍事力は弱く。その為に所属不明艦隊の提督らしき男は、交渉の余地なしと言い放ち。今すぐ降れと言い、異存あらばそれなりの手を打つと。メッセージを送ってきております」
「……海賊だな、それは。大規模な宇宙海賊だ」
「惑星大統領も。そのような推測を立てておりますが……」
怯える警備部長。慄く都市開発スタッフ。
僕は、オクシオさんに目配せをすると、こんな言葉を放つ。
「おそらく、ここ近年のこの惑星ガズヴェリアの富の貯蓄と。環境の改善ぶりが伝わっちゃったんだろう、その宇宙海賊の提督に。宇宙海賊って言うのは、いい母港になる惑星を欲しがるものだから」
僕はそう言って、一拍置いて。
「惑星大統領と話したい。いま、惑星首都の都市開発顧問になっていて、なおかつ商業貿易の成果を認められている僕なら。大統領も話を聞いてくれるだろう?」
そう言う事を、警備部長に言った。警備部長は考え込んだ後に口を開いた。
「何のために? 惑星大統領とお話しになるのです、ユハナス顧問?」
「無論、宇宙海賊艦隊との交渉の許可を出してもらいたいって事さ。僕らがここまで発展させた、惑星ガズヴェリアを。宇宙海賊如きにタダ取りされて堪るかってんだ」
「ユハナス顧問……? 宇宙海賊が怖ろしくないのですか?」
「アイツらは、利の話を嚙ませれば暴走しない。利の話を蹴って暴走する類の頭の悪い海賊なら、尚更恐ろしくはない。大統領と話させてもらえるかい?」
そう、押し込むように言うと。
「……ついてきて下さい、顧問。大統領府にホットラインが繋がる、レーザー通信用の部屋が。この政庁舎にもあります」
警備部長はそのように言って、僕を先導した。
* * *
『ユハナス・ユヴェンハザ氏。君の今の経済力は、この惑星を発展させるに大きな力を添えてくれている。君が何かの意見があるというのならば、私はそれを聞こう。いや、聞かざるを得ないのが今の私の立場だ』
惑星ガズヴェリア大統領、シェルパ・スタンシェル。その人が、レーザー通信モニターの向こう側に姿を現す。
「シェルパ大統領。降伏なされることに決まったのですか? 宇宙海賊艦隊に対して」
僕が、そう聞くと。苦渋の顔をする大統領の表情がモニターに映る。
『奴らは……。もし、己共の意が飲まれなければ、惑星の首脳機能だけを壊滅させて、後は乗っ取らせて貰うと言った。惑星の首脳機能とは、すなわちこの惑星における富裕層の事だ。そんな真似をされたら、私たちが命を落とすことはともかくとして、惑星全体の富の管理が混乱し、やがては惑星全体が貧困に陥る』
うむ。富裕層というものは、富を収奪するというよりも。富の管理に長けているから富裕層になるし、富裕層でいられる。生家が富裕層である僕は、そこら辺の事は良くわかっている。
「シェルパ大統領、許可を出してはいただけませんか? 僕に、ここの交渉を一任してくださると。僕はこう見えても商人を長くやっていますので、交渉には長けているつもりです。向こうの要求する富と、こちらの富の維持。その折衷点をあの艦隊の提督と談じて来ようと思います」
『そのような、怖ろしい事を。志願してくれるとは思いもよらなかった。頼めるかな? ユハナス氏。ただし、交渉が上手く行かなかった際に、君を我らが助け出す手段は無いのだよ。それでも行ってくれるか?』
「承知いたしました。僕も、ここまで開発をして富ませた、惑星ガズヴェリアが。タダ取りにされるのは癪ですからね。それに、僕を引き立てて下さった、貴方がたに対する恩もあります。行って参りますよ」
そう言って。僕は惑星の上空、衛星軌道上に屯っている海賊艦隊に。
交渉の為に赴くことにした。
* * *
「まったく。目端が利く海賊がいたものですわ」
久しぶりに、イデスちゃんと一対一。リジョリア・イデス号で、宇宙海賊艦隊が屯っている座標に向かう。
「そうだね、呆れるよ。どこのどいつなんだろうね、イデスちゃん」
「全くですわ、ユハナス様。惑星開発が進むのを、ずっと待っていたのか。それとも、急成長のこの惑星の情報が食指にかかったのか。海賊ながら、見事なセンスの持ち主です。バカにしては掛かれませんわ」
そう、イデスちゃんの言うとおりに、この辺境宇宙のヴァードゼイル星系に目を付ける、しかも、惑星ガズヴェリアに狙いを定める海賊の情報力ときたら。呆れるほどのモノである。
「ここら辺で、距離もちょうどいいね。レーザー通信回路開いて、イデスちゃん。交渉を受け入れないと言っていた海賊艦隊提督に対する交渉の申し込みは、なんとか惑星大統領がやってくれたから。あとは、僕がそれを成功させるだけだ」
「はい、畏まりましたユハナス様」
イデスちゃんが、リジョリア・イデス号のブリッジのメインモニターに、こちらからのデータを相手方が傍受し、こちらに返答として送ってきた情報を映しだす。
『こちら、ゼキリス宇宙海賊団だ!! 惑星ガズヴェリアに降伏勧告を叩き込んだのは俺だ。答えを聞こうか!!』
その、画面に映った。
細面のひげ面に、逞しい筋肉を持った男を見たとたんに。
僕は力が抜けて叫んでしまった。
「親父……。またアンタかぁ――――――――!!」
と。
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