73.受賞したのちの

「ユハナス・ユヴェンハザ氏。並びに、オクシオ・オクシオーネ氏のアイデアが、今回のコンペティションの大賞を受賞されることになりました。ご来場の皆さま、拍手をお願いいたします!」


 まあ、何というのか。惑星ガズヴェリアの富を集中したメランルーク市での、市長と惑星大統領の肝いりで行われた、この惑星開発アイデアのコンペティション。

 立食パーティー形式の場で、惑星の富裕層が集まっての、特権階級だけの優雅なものではあった。僕らはその会場で、アイデアのグランプリ受賞を受けたんだけど。

 無論、僕は。実はこういう場は苦手ではない。好きでもないが。


 昔。おじいちゃんが良く言っていた。

 富に焦がれて富を掴んだものは、その富を振り回したがる。

 そう言った当たり前のことに、人格がどうの人間性がどうのと批判するよりも、その状態をバカにもせず褒めもせず、ただ見てやれと。ただ自分を崩さず接するのだと。

 そうすれば、富を振り回しているうちに、その行動をしている人間はそれが如何に虚しいモノかを知る。

 そして富と言う物は、富に虚しさを感じるほどに富を知っているものの手によってこそ、最も正しく扱われるのだと。


 僕は、実際。15歳になって宇宙に旅立つまでは、こういった雰囲気を持った会合に、母やおじいちゃんに連れられて来ることもあったから、慣れた雰囲気ではあった。

 ともあれ、そのコンペティションパーティーで、僕とオクシオさんは賞を授与され、それだけでなく今後の惑星開発の顧問の座を一定期間与えられることになった。


「いやぁ、評判は聞いておりますよ、ユハナス氏。なんでも、ユヴェンハザ家の一員で。いまの宇宙中央議会政府の議長、アルテム様の血縁とか……」


 立食パーティーの場で、なんか。にやけたデブ商人がそんな事を言って来たけど……。


「アルテム君が、政府の議長になっていることは知っていますが……。きっと向こうは知らないというでしょうね。ですから、僕からはその筋のコネクションは得られませんよ?」


 僕がそう言うと、その商人は食い下がってきた。


「いやいや、アルテム様との縁がなくとも。この惑星の貿易商人の中では、ここ1年で急速な伸びを示している貴方の事や、貴方の船団の事を知らないものは。このガズヴェリアの商人にはおりませんよ」

「はあ……。まあ、ありがとうございます。そう言ってくださるのは光栄ですね」

「はは、警戒を為されている。私、ドゥーブッドという星間の土商人でして。いい質の土をメインの交易物資にして、富を得ているものです。今回のコンペティションでの貴方たちの発表した内容、とても感じ入りましてな。なんでも、マジカル・ツリー、という植物を、このガズヴェリアの山間部に植林していくとか。しかもその植物が優れた土質改善効果と大気清浄効果を持つとなれば。職柄、聞き捨ては出来ないのが私ですよ」


 にやけたデブ顔の、その表情に。妙に冷静で頭の良さそうな視線が合わさっているドゥーブッドという男。この人、出来るな。僕はそういう判断を下した。


「ドゥーブッドさん。土の交易と仰りましたが……。宇宙悪霊を狩る宇宙漁は為されるのですか?」


 僕は踏み込んで聞いてみる。ドゥーブッドは、宇宙漁と聞くとぎょっとした顔をした。


「宇宙漁?! いやいや、私はタダの商人で。そのようなおっそろしい事は出来かねます。私が商品にする土は、惑星上で枯れた植物を腐らせて腐葉土にして、栄養分を持たせたもの。腕力のある商人が行うように、宇宙悪霊を狩って、土に力を漲らせる悪霊粘土を作ったりすることは出来ません」

「ということは。決まった材料のブレンドで、良い土を作れる腕とノウハウを持った方であると。そう思ってよろしいのですか?」


 僕がそう聞くと、にやけたデブ顔の表情を浮かべていた、ドゥーブッドの表情に、ちょっとだけ爽やかな表情が浮かんだ。


「そういう訳ですね。実際の所、ユハナス氏に近づくには財力実力ともに伴わない私ではありますが、今回のコンペティションで、貴方とオクシオ氏が発表した計画が惑星単位で実行されれば。土商人の私に、とてつもない躍進のチャンスが産まれるわけです。どうか、願いたい。土類取引の事については、私に一任するのは無理としても、少なくとも情報の一端は下さると。虫のいい話ですが、願えますか? もし願いが通るなら、私は何でも致します」


 そういって、直立不動の姿勢から。深々と頭を下げるドゥーブッド。

 ……この人、仕事に対してはすごく真摯だ。

 その様子が見られたので、僕はドゥーブッドに頭を下げ返して、頭を上げた後。


 名刺を差し出した。


   * * *


「ユハナス氏、オクシオ氏。こちらが植林業者のメルパルトと言う者です。それから、こちらが苗木業者のサーリィン。私が誼を結んでいる二人で、あまり派手な稼ぎはありませんが、腕は相当なものです」


 ドゥーブッドが、立食パーティーの会場を回って、その二人を見つけて僕らに紹介する。


「ドゥーブッド? お前抜け目がないな。今回のグランプリの二人に、もう接触したのか?」


 メルパルトという名だと紹介された男が、ドゥーブッドにそのような事を言う。


「ホントよね。商売の話になると、その行動力。デブの癖に異常にいろいろ機敏で。感心するわぁー。あっはっは」


 笑っているのは、サーリィンという女性の苗木業者。


「メルパルト氏に、サーリィン氏。この種が、マジカル・ツリーこと『魔導樹』の種なのですが……。こちらの環境で育つのに適しているか、適した環境にするにはどうすればいいのか。一緒に考えていただけないですか?」


 そう言って、魔導樹の種のサンプルを二人に渡すオクシオさん。


「……なんか、クルミみたいな実ね……」


 そう呟くのがサーリィンさんで。


「こりゃ、山リスに好まれそうな実だな……」


 そう首をひねるのが、メルパルトさん。


「とにかく、今はデータが必要となります。魔導樹の発育は早く、2年ほどで成木になりますが……。惑星単位でそれを為すとなると、5年は必要になります。もし、効率的な繁殖方法が分かれば、僕らには大きな利があります。このアイデアを成功させた際の惑星やこの市から出る報奨金というか契約金は膨大なものですから」


 二人にも名刺を渡した後、僕はそう言った。

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