72.間借りから始める事

「よう、兄ちゃん。どうだった? 今回の貿易は」


 ガズヴェリアの宇宙港で、停泊所で船から降りて。ガズヴェリアの首都、メランルーク市に向かう時に、港職員にそんな声をかけられた。


「うーん、職員さん。渋いですね利益は。売った品物に対する利益率は高く、十分元は取れているんですが、何しろ顧客も必要とされる物資量も少なくて。荒稼ぎはむつかしいです。あ、お疲れ様。これどうぞ」


 僕は、世間話をした後に港職員に船の管理費と停泊料に少し色を付けたものを払った。


「……ユハナス君って。言ったか兄ちゃん。アンタ、こんな辺鄙な星系には勿体ねぇよ。こういった気遣いも出来るし、挙措もいいし。何よりもほかの宇宙船乗りに聞いた話じゃ、相当に貿易の腕も辣腕らしいじゃないか。まだ若いのになぁ……」


 港職員がそんな事を言うので、僕は少し苦笑いをした。


「いい商人って言うのは、どんな場所でも商売をして富を作るし。その富を周辺にまわして周りごと富んでいく。そういうものだと、ウチの家系では教えられてきましたよ」


 港職員はそれを聞くと。顎に手をやって少し考えて。


「ユハナス君、これやるよ。上司から出来そうな商人を見つけたら売っとけって言われたチケットだけどよ。アンタにはタダでやる。さんざん心付け貰ってるしな、普段から」


 そう言って、港職員はチケット入れを僕に渡して、肩をゴキゴキ鳴らしながら仕事に戻っていった。


   * * *


「メランルーク市での、惑星都市開発アイデアコンペティションの招待状?」


 シオンさんがテーブルの上に置いてあったチケット入れから。二枚のチケットを取り出して、印字された案内を読んで声を立てた。


「そんなのが入ってたの? それ」


 僕は、今は宇宙港を間借りしているメランルーク市のホテルの大浴場でお風呂を貰ってきて、部屋に戻り。楽なジャージ姿でビールを飲んでいた。

 シオンさんも、お風呂に入った後で長い紫色の髪をバスタオルに包んで持ち上げて、頭に乗せてる形だ。

 ここは、僕とレウペウさんが借りている部屋の方で、シオンさんとマティアさんとルーニンさんは隣に部屋を借りている。

 ちなみに、オクシオさんは持っていた凄い純度の金塊を換金して、僕らよりは遥かにいいホテルに泊まっている。オクシオさんの部下の人たちは、まあ何というのか。全部で3000人いるので、そんなに高い宿泊施設には泊っていないみたいだけれど。


「どうするのコレ? ユハナス君。行くの?」


 シオンさんは、何かを考えこんでいるんだけど……。


「行かないよ。僕に都市開発能力があるとしたら。そのアイデアがあるとしたら、昔やった小惑星プラント設備みたいな自給自足の閉じた環境を沢山作るアイデアくらいで。そういうのは、自分達の手に収めて動かすのにはいいけど、惑星都市開発には向かないし。ましてや、今からやる貿易ネットワーク構築には役に立たないよ」

「……そーかなぁ。まあ、そのアイデアは調べたところどうやら、ここ10年での小惑星開発手法のセオリーみたいになってるみたいだけどね、こっちでは。でも、アレ考えたのユハナス君でしょ? 特許取っておけばよかったねー……」


 シオンさんがそんな事を言うので、僕は苦笑いが出た。


「ユヴェンハザ家の商売法は、特許商法じゃなくて貿易展開がその本領だよ。モノを安い所で買って、高く売れるところで売る。この基本を守っているだけで、十分に富ってものは産まれるんだ」

「まあ、わかるんだけど。欲掻くじゃない、やっぱり人間って」

「シオンさん。過去の利に執着すると、未来の利が見えなくなるっていう。商売人の金言を教えとくよ」

「……ユヴェンハザ家って。やっぱり相当なお家なのねぇ」


 なにか、酷く感心したような嘆息を漏らすシオンさん。

 その足でドリンククーラーまで歩み寄って。

 開けて中からビールを出して、缶ビールを取り出し、口を開けて。


 ごくごく飲んで、ぷはーと息を吐くのだった。


   * * *


「……? それ、千載一遇のチャンスじゃないかしら?」

「え?」


 ホテルで身支度をした後。メランルーク市のチャイナレストランで、オクシオさんたちと合流。会議をし始めたとき、何の気なくあのチケットの話をすると、オクシオさんはそんな事を言った。


「惑星の都市開発なんて、僕の専門外ですよ? 行っても何も……」

「ええ。そうね。ユハナス君一人ではね」

「? どういうことです? オクシオさん」

「ええ。私ね、この惑星に少し間借りしている間に、色々調べたり。まあ、視察に出たりしたのよ。この星のね。そうしたら、面白いことがわかったの」

「面白い事? ですか?」

「うん、ユハナス君。この星の住人ね、宇宙中央議会政府の方針に従って、工業惑星に様替えしたのはいいけれど。じっさい、ここの住人自体も、機能一辺倒の都市整備計画が嫌になってるって話があってね。それで、私は閃いたのよ」

「閃いた?」

「うん。ここに、この星に。マイテルガルドの強い植物の種を蒔いたらどうかって。荒れた土地や瘦せた土地でも実を着けやすい、育ちやすい『魔導樹』という樹の種。じつは、アーヴァナから預かってきているの。『環境を良くする際に使いなさい』ってね」

「……環境が、マイテルガルドに近くなるんですか? そうですよね、この星にマイテルガルドの植物の種を蒔くと言う事は?」

「そうなるわね。この星は工業化の過程で、植物がだいぶ減ってしまったけれど。魔導樹は、大気汚染にも強いし、土壌浄化能力も高い。この無愛想な植物に乏しい星に、また緑が戻る結果を呼べると思うわ」


 ……なるほど。このオクシオさんのアイデアというか、まあ、アイデアなんだけど。

 それはコンペティションに出されたら。


 多分グランプリで採用されるなという、感覚的な成功イメージを持たされた僕だった。

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