71.故郷の消失?
僕らは、オクシオさんの船団を連れて。
ここら辺の星系、ヴァードゼイル星系の首都星、惑星ガズヴェリアに降下を始めた。
はっきり言って、こちらの世界では僕らが向こうに行った為に。
おそらくはロスト扱いになっている、リジョリア・イデス号と。
正真正銘の所属不明船である、オクシオさんの船団の構成船5隻には、惑星降下許可が降りないのではないかと思っていたが。
そこはイデスちゃんが交渉して、幾ばくかの金銭を払うことで問題は起こらず、いろいろ深く聞かれることなく許可が出た。僕はこの辺りの管理の緩さも、この現在の宇宙で少々気になりはしたんだけど……。
「……ここ、工業惑星? 一星系の首都星よね? すごく緑が少ない……」
惑星に降下中に見える光景を見て、マティアさんが何か呆れたような声を上げる。
確かに惑星表面に緑が極度に少なく、やたらと工業施設のようなプラント設備が並んでいる。びっしりと。
「風光明媚な観光惑星にしろとまでは言わないけれど……。首都星にこの光景が広がっているのは、無風流な星系民との誹り受けないのかしら? このヴァードゼイル星系の人たちって……」
シオンさんもやはり。この光景に快さは持っていないようだ。
「おかしいですわね……。過去のこの惑星ガズヴェリアの光景って、このようなものでしたわよ?」
イデスちゃんが、サブスクリーンに過去のガズヴェリアの光景の映像を映し出す。
そこには、それ程の風光明媚さではないものの、地方星系の首都星というに恥ずかしくないだけの光景が映し出された。
「これが……? 今みたいになっちゃったの? これ、明らかに進化じゃなくて退化だよ……」
僕の口からは。思わずだけど、そんな声が漏れていた。
* * *
「連絡が取れないって?! どういうことだい? イデスちゃん!」
そう、ガズヴェリアに降下して先ず行ったことは。僕のおじいちゃんであるトイロニ・ユヴェンハザのいるカルハマス星系の惑星アーナムとの連絡回線を、惑星間ネットワークで開くことだけれど。イデスちゃんはそれを行ってみて、首を横に振るだけだった。
「惑星間ネットワークのメッセージには『現在の宇宙に、その名称に該当する星系及び惑星は、存在いたしません』と出るだけです……。惑星アーナムやカルハマス星系に、何か起こったのでしょうか……」
……どういうことだ……。どういう事なんだよ!! これじゃ、おじいちゃんに相談することもできやしないじゃないか!!
僕は動じた。すごく動じた。でも……。
イデスちゃんを見た。イデスちゃんは、動じてはいなかった。
ただ、イデスちゃんは、僕の方を真っ直ぐに見ていた。僕の瞳を見ていた。
「ユハナス様。こうなってしまっては、トイロニ様を頼ることはもうできません。ユハナス様、正念場です! これからは、全てをあなたが考えて。全てをあなたが決断して! 物事を進めて動かしていくのです! お覚悟、宜しいですか?」
その顔を見て、僕は。商人として独立するための旅に出た、最初の頃を思い出した。
どういう心の仕組みになっているのか、イデスちゃんはいつもこうだった。
僕の成長を導いてくれる。僕の為にならばとても献身的になってくれる。
そして、このイデスちゃんが最も喜ぶことは。
そうだった。
僕の成長。それが、イデスちゃんをもっとも喜ばせる事。
「……わかった、イデスちゃん。やってみよう、色々と。おじいちゃんに頼るのはもうやめだ。頼りようにも、もうその手段もないしね」
僕はそう言った。イデスちゃんは、いつの頃からか持ち始めている、少し濡れたような視線を、僕に向けて来て。満足そうに微笑んだ。
「ユハナス様。おそらく、カルハマス星系も惑星アーナムも。名称と管理が変わっただけだと思われます。一星系や一惑星は、そう簡単に消滅など致しませんから。トイロニ様も、ユハナス様のお母さまのニメリア様も。きっとご無事でいらっしゃいます。イデスには、そう思われますわ」
うん、言われてみれば。そりゃそうだよな。
あそこまで開発が進んだ惑星や星系を、消し飛ばす意味がさっぱりわからないし。
だとすれば、なにかがあって。カルハマス星系と惑星アーナムは、その管理体制と名称が変わっただけ。だから、惑星間ネットワークに引っかからなくなった。
そのイデスちゃんの推測で、当たっていると思うんだ。
* * *
「すいません、オクシオさん。二世界間貿易で使うつもりだった、僕の生家のユヴェンハザ家の貿易ネットワークは。その当主であり僕の祖父の、トイロニ・ユヴェンハザとの連絡が着かないために用いる事が出来ません。こうなってしまっては、一からネットワークを築くしかないのですが……」
惑星ガズヴェリアに降下して、僕らの船に乗り移って来たオクシオさんに、僕はそんな説明をせざるを得なかった。
「……それは、難事ね。でもよ、ユハナス君。出来るんでしょう? 君にも。君自身にも、貿易ネットワークを築くことは。だったらいいわ。それを始めましょう」
最初は腕を組んで難しい顔をしていたオクシオさんだけれど。少しはほろ苦いような笑いを浮かべて、そう言ってくれた。
僕は、その余裕あるオクシオさんの態度を見て、安心感を覚えるのだった。この人と一緒なら、商売も上手く行くってね。
そんな気持ちで、リラックスできる相手なのでにこやかに談話していたら……。
「……ユハナスキャプテン? 何鼻の下伸ばしてんのよ?」
とつぜん、後ろから聞こえる尖った声!!
「私相手には、駄目ですよとか。いっつもいっつも一線越えないくせに、その超ド級美人さんとなったら話は別? アンタ、いい加減にしなさいよ⁈」
ばこっ!! っと後ろから頭をぶん殴られた!! しまった、マティアさんだ!!
「うん。私もそう思う。あのオクシオって人に対する、ユハナス君の態度。なんだか、妙に憧れみたいなのあるよね。まあ、今までの私たちの中にはいなかったタイプだからねー……、オクシオさんは」
シオンさんも。少し呆れた声で言っている。
「ユハナス……。マティアの事もそうだが。イデス殿の事もある。君はどうするつもりなんだ? もう25歳だろう。女の一人も、覚えたらどうなのだ?」
レウペウさんにそんな事を言われて、僕は思わず返した。
「レウペウさんは、女の人を知っているんですか?」
そんな質問に、レウペウさんは笑って答えた。
「知らんわけがないだろうに。仕事で惑星に降下したときに、女を買いに行くこともあったぞ、俺は。この船のクルーに手を出す気は無かったのでな」
……まあ、レウペウさんは武人気質だし。そう言う事もあるだろうなとは、僕は思ったけど。
皆にそんな事を言われて。
そろそろ、お付き合いする女性を決めないといけないかな。
そんなことを考え始める僕だった。
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