68.えいっ!!
ニルズハイムでの会議は、長きにわたって続いた。
なんとか二世界間貿易の道筋を拓こうとする僕とオクシオさんだが、それをもう必死になって阻もうとするハキルナとジルガド。
アーヴァナさんとマルテロは、まあ何というのだろうか。傍観している。
「ユハナスさん。古参の魔導司祭である、ハキルナとジルガド。この二人を納得させられなければ、僕も二世界間貿易を認めるわけにはまいりません。彼らとて、このマイテルガルドの重鎮。私利私欲やつまらぬ沽券に関わって、これほどに論陣を張っているわけではないでしょうし」
上座からニール君がそんな事を言うけど……。この二人はそこのところはどうなんだろう。
結局、そのままグダグダと先に進まない会議が続くことになった。何というか、ハキルナがケチをつけ、ジルガドが揚げ足を取る。そんなことばかりやられていて、僕は疲弊をしてきた。
「ユハナス君、良くないわねぇ。顔色悪いわよ?」
休憩室に入っているとき、シオンさんが杖を手で弄びながら。そんな事を言ってくる。
「ちょっと頭貸して。頭痛取ってあげるからさ」
「ん?」
僕はシオンさんの言葉に従って、頭をもたげた。
するとシオンさんは僕の頭の上に杖をかざして。
呪文を唱えた。
「ん? ん? なんだこれ? 頭がスーッと軽く……?」
「うん。取って置きの疲労解消法」
「何をやったんですか?」
「うふふ。ユハナス君の頭に溜まっていた、宇宙悪霊を浄化したのよ」
「? え? どういうこと? シオンさん?」
「だからさ。人間がイライラしたり、疲労が溜まっているのって。疲れている、というよりは宇宙悪霊というか悪思念というかに憑りつかれている状態なわけ。それを浄化解体してしまえば、後は肉体のエネルギーを回復するだけで、身体が快調になるのよ」
頭が軽くなったのは、シオンさんのそういう理屈による施術のおかげらしい。
その施術を受けて、僕はあることを閃いてしまった。
「シオンさん、この技。広範囲にもかけられる?」
僕はそう聞いた。
「? 出来るけどさ? 何を考えているの? ユハナス君」
シオンさんは怪訝な顔をした。
* * *
「会議も長く続いています! 皆様お疲れのようなので、僕の宇宙の神聖惑星ニレディア出身の高司祭、僕の船のクルーのシオン・カデュスが、皆様に取って置きのリフレッシュ法を施しますよ!!」
僕は、会議室にシオンさんを連れ込んで。そう宣言した。
「? 何考えてるのよ、ユハナス君?」
怪訝な顔のままの、シオンさん。僕はシオンさんに耳打ちをした。
(皆が、イライラして会議が一向に進展しません。そこで、皆の心に淀んでいる悪思念をシオンさんに浄化してもらおうと思いまして)
僕がそう囁くと、シオンさんは真面目な顔で僕を見た。
「あんた、身も蓋もない。そういう神聖術の使い方する奴、初めて見た」
そう言いつつも、杖に神聖術のオーラを纏わせ始めるシオンさん。
「ハイ・エーデルクリアランス!!」
そして、杖を振りかざして。
会議室全域を包むかのような強烈な浄化光の嵐をかましてくれた。
「……シオンさん。何をしたんですか? 気分が軽くなりました」
ニール君がその光を浴びてその後。心地よさそうに言った。
オクシオさんも、アーヴァナさんも、マルテロも。
わるくない、といった表情を浮かべているが……。
「ぐああああああああ!!」
「きっさまぁ! 何をしたかぁっ!!」
案の定。ハキルナとジルガドが苦しみ始めた。
「良くないですね、闇と光の魔導司祭様。普段から、不健全な事を考えているからそうなるのです」
僕は、しれっとそんな事を言った。そう、大体わかると思うけど。
ハキルナとジルガドは、悪意を武器にする思考パターンを持っていたために、その悪意が自分の心の中に牙をむいて刺さっており。
シオンさんの浄化術でそれが揺れ動き、痛みを感じて苦しんでいるという訳なんだろう、差し詰めね。
「お! お! おおおおおおおおのれぇ!!」
ジルガドが。全身から視認できるほどの高濃度の悪思念を迸らせて、闇魔導術の詠唱を始める……が!
「えいっ!!」
シオンさんの方が速い!!
「セイクリッドキャノン!!」
聖光の大砲とでも表現できそうな神聖術を、杖を振りかざしてジルガドに叩き込む!!
「お、お、お! おあああああああああ!!」
ジルガドは。何も死にはしない。物理的なダメージもない。
だが、一度倒れて起きあがったその顔には。
先程までの『あまりよくない手の迫力』が消え失せていた。
「……わしは……。何を意固地になっていたのだ。いいではないか、マイテルガルドが富むのなら。わし一人の権力や、私的財産など。放擲してもよかったのだ……」
やっばい。強烈に効いた。シオンさんの神聖術ヤバい。
心の澱のようになっていた悪意悪思念を浄化することにより。
ジルガドの偏狭になっていた心を矯正してしまった!!
「ジ! ジルガド!! なにを言うておるのじゃ!! その妙な女の術で!! 洗脳でもされおったのかぁ?!」
絶叫する、ハキルナ。だが、僕とシオンさんはそっちを見てニヤニヤ笑った。
「次はあなたでーす♪ 心の掃除しましょうねー♪」
そして、シオンさんが神聖術をぶっ放し。
ハキルナは心が浄化されるときの、へんに気持ちよさそうな悲鳴を上げるのだった!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます