63.藪蛇とその後の
「らあぁっ!!」
どすっ……! と音を立てて!
ファイアオーガの棍棒と一合も撃ち合わないうちに、レウペウさんの槍は……。
あの炎の闘鬼の喉を貫いて、一撃で死に至らしめてしまった!!
「……んなっあ⁉」
余裕綽々、自信満々で。あのファイアオーガを出してきた、ヴィハ・ムの表情の驚きっぷりったらなくて。
「あははははは!! ウチのにいを舐めるんじゃないわよ! これでも、ウチの実家のシャルシーダ王家は! 向こうの宇宙有数の武技を磨き続けてきた家なんだから!!」
そういう結果が出てからだけど、胸をそらせて高慢に爆笑するマティアさん。
「……つまんねーなぁ……。あのレウペウも。物足りねーんじゃねーか?」
だけど。ファイアオーガが倒されたと言うのに、ヴィハ・ムは動じない。それどころか、観覧席から腰を上げて。階段を降りて行きながら、レウペウさんに向かって大きな声で言う。
「よおぅ。オメエ、レウペウやぁ? オメエよぉ、なんか願い事はねえのか? 叶えてやるよ!!」
そういって、階段から跳躍し、武舞台に飛び降り。
腰から赤光りする黒刀を抜き払う、ヴィハ・ム!!
「ただし、この俺に勝ったらな!!」
* * *
「願いなどは、特にはない。俺はお前の出してきたあの炎の闘鬼に勝った。俺達を自由にしろ」
レウペウは、ヴィハ・ムに向かってそのように言ったが。
「オメエよぉ? つまんねぇ奴だなぁ……。折角、前座が終わったところで。本命の俺が出て来てやったってのに『逃げる』のかぁ?」
ヴィハ・ムの放った、逃げる、という単語に。一瞬だが目を怒らせるレウペウ。だが、彼はその光をひっこめた。
「商売というのはな。欲深いようで、最も謙虚さを必要とする職だ。俺は、ユハナスの下の商団員。無益なことはしないが、また欲を張りすぎることもない」
「ふん。ふふん。理屈くせぇな! フアッハハハハハ!! こうしたらどうするよ!! レウペウ!」
馬鹿笑いした後に、鋭い声を放って。
ヴィハ・ムは刀を振りかざしてレウペウに切りかかった!!
「! おのれっ! ふんっ!!」
槍を振り回して、その刀の斬撃を跳ね上げるレウペウ!
「逃げねぇよな? レウペウよぉ? オメエの本性は商人じゃねえ! 武人だっ!!」
「騒がしい男だっ! 槍の汚れに! それほどしてほしいかっ!!」
度重なるヴィハ・ムの挑発に、レウペウはとうとう乗ってしまった!
一合、二合、四合、八合!! 槍と刀の打ち合いは延々と続き、キリが無いと見た二人は同時に後ろに飛び退り、距離を取る!
「こちらの方が!! リーチは圧倒的に長いっ!! 殺しはせんが、痛手を負ってもらうぞ! ヴィハ・ムっ!!」
再び突進! 槍を構えて、突撃を撃ち込む姿勢のレウペウ!!
「へっ!! その程度のアドバンテージ! これで消えらぁっ!! 魔導帯刀・紅焔!」
ヴィハ・ムは、刀に。ユハナスたちが初めて見る、マイテルガルドの技術、炎魔導術を掛けたのだろう。黒い刀身から、深紅の焔が噴き上がる!
「紅焔・斬!!」
刀から噴き出した焔が長く延び、ヴィハ・ムの振り下ろす刀と同じタイミングで、レウペウに向かって斬りつけられる……!
「! なんだっ⁉ この炎はっ!!」
圧倒的なリーチのアドバンテージを誇っていたレウペウであったが、即座にそれを覆され。驚愕している間に、弐の撃、参の撃と斬り込まれてくる焔の斬撃に捕まり、強烈な火傷を負う破目になってしまった……。
* * *
「約束が違いますよ? ヴィハ・ム魔導司祭様?」
僕は、契約を破ったヴィハ・ムに。酷く冷えた声を放っている自分に気が付いた。
倒れて気絶しているレウペウさんは、シオンさんの神霊術による治療を受けて、怪我は残らないとはいえ。
この目の前の尊大な男が、僕らとの契約を、約束を。
破ったことは違いない。
「ふん……。強い奴を、俺の前にチラつかせるのが悪いんだ。食指が向いちまうんだよな」
「強い戦士を。痛めつけるのが貴方の趣味ですか?」
「人聞きの悪い。試しただけだ」
「随分と荒っぽい試しですね? それに、僕は何があっても、貴方なんかにレウペウさんを譲りませんよ」
「……ユハナス」
「何ですかね?」
なにか、態度が変わったヴィハ・ム。とつぜん、直立不動になって! 僕に向かって頭を下げた!
「頼む!! オメエ、俺と友達になれや!! 強引な手ぇ使ったのは悪かったよ! でも分かったぜ。あれほどの武人が、心酔しているオメエは。ただのボンボンに見えてもタダモンじゃねえ。今度は、宴の時みてぇな一方的な俺のわがままじゃ無くよ。オメェが困っているとき、俺はオメエの為に戦を催してもいい。武力を添えられるんだ、俺はお前に!!」
……むむ。この男、契約破ったけどさ。それ以上の好条件を、僕に示してきた。でもねぇ……。
「あのさ、ヴィハ・ム様?」
「何だよユハナス?」
「商人と約束するときに、絶対やっちゃいけない事。教えてあげましょうか?」
「……なんだよ? 聞くけどよ……?」
僕は。さんざん頭に来ていたので、無防備に僕の前にいるヴィハ・ムの頬を思いっきり平手で引っ叩いた!!
「とにかく、約束を破るな!! 商人の言葉は、金鉄、つまり金属よりも堅いって古語があるんだ! それくらいの覚悟で、僕は商談やら契約を結ぶ! もし反故にしたら、様々な手段で取り立てや報復をするからな!!」
僕に顔を引っ叩かれたヴィハ・ムは。毒気が抜かれたようにキョトンとして。
「……つまり、俺が約束守れば。お前、俺の友達になってくれるわけか?」
「そうだよ! こっちに来て、僕らには何の武力の後ろ盾もないからな!!」
僕がそう言うと。ヴィハ・ムは嬉しそうに手を差し伸べてきた。
「しょうがないな。よろしく」
僕は、実際。この後援者はいたほうがいいという計算も込み込みで。
ヴィハ・ムとの友誼を結ぶことにした。
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